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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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96/201

優先順位

「わかりました……ガストン将軍の陣には長居せずに。ではーー」


 どんどん話し合いは進んでいく。

 僕は最終的に口を出すだけにしていた。

 どのみち外交役としての経験もない。それに僕が言うと少なくてもイライザは、額面通り受け取ってしまいかねない。


 これは僕とイライザの関係性では仕方ないーーけれども、それは話し合いではないのだ。

 それぞれが自分の判断を出して擦り合わせないといけない。


 その面ではライラは大いに有能だった。

 考えてみれば当然のことだ、僕やイライザはディーン王国人であり何かあってもディーンの国益しか考えない。

 そういう物の見方しかしたことがないのだ。


 一方、ライラは大陸にまたがる聖教会の人間として幅広い視野がある。

 それこそ僕たちが持っていないものだった。

 進む中でイライザが少し目を落とす。


「イヴァルトは他国人による武具の持ち込みに厳しいです……重装は厳禁、槍などの長柄武器も駄目ですね」


「魔術の制限は?」


「中心街では魔封じの帯が必須のようです。ディーンの王宮より徹底してます」


 独立商業都市は激しく他国の人間が出入りする。揉め事にとにかく敏感なのだろう。

 何か起こってもすぐ制圧できるよう、武力を持ち込ませないつもりなのだ。


 しかし死霊術師を追う僕たちは丸腰と言うわけにもいかない。

 もし教団の魔の手が伸びていたらあっさり殺されてしまう。


「安心してください……聖教会の印が入った儀式用の武器はある程度見逃されます。適当な式をでっち上げて持ち込めるようにいたします」


「……慣れてますね」


「よくあることですよ。イヴァルト人の信心が不足気味でも、権威を無視したりはしません」


「なら手配はライラ様に……」


「お任せください、すでにディーン王都にある分から選定します」


 こうして一つずつ問題を解決していくのだった。

 最後に意外だったのは連れていく人間の選定に、ライラが口を挟まないと宣言したことだった。

 イライザも目を丸くしている。

 てっきりこれまでのように関与すると思ったのに。


「私はあくまでも大枠の計画に私なりの視点を提供するだけです。誰が有能で信頼が置けるかは、ディーン人であるあなた方に判断を委ねます」


「もし……選んだ人にしくじりがあったら?」


 ライラが狐耳をぴくっと動かした。

 僕はぞくりと背筋が粟立った。


「縛り上げてグラウン大河に投げ込みますーー当然でしょう?」


 何気ない風にライラは言ったが、それがはったりでないことは雰囲気でわかる。

 完全に本気の目だった。



 ◇



 次の日、また朝からライラと鍛練室に籠っていた。

 今日は初めから手を繋いでの訓練だ。

 内容は変わらない、片手を繋いでもう片手でスキルを発現させながら剣を振る。


 一時間くらい経った頃だろうか。

 横並びに正面を向いたままのライラがいくぶんか感心して、


「ジルは真面目ですね……騎士ならば別ですが普通の貴族はここまでやりませんよ」


「そうですか……?」


「私が教えたのはジル以外は女性しかいませんが、身が入るのは最初の数時間だけですね。まぁ、皆さんそれなりの生まれですから……本職でないと危機感もないですし」


 高等審問官のライラが手ずから教授するのは、確かに上流人だけだろう。

 こうまでして平民に教えることはないはずだ。


「請われて触りだけ、でもモノにする人はほとんどいませんが……。特に貴族は無駄足と思わされることも多くて」


「僕のホワイト家は武功の家ですし……盗賊退治も自分でしていたくらいですから」


 アラムデッド王国では拙いけれども、僕の武術が生き残る足しになっていた。

 パラディンになったのも教団との戦争があるからなのだ。


「なるほど……苦労はされたでしょうが、実りある人生を送られたようですね」


「ははは……」


 これまで死にかけてきたけれど、得たものもある。

 なんとか生きているしパラディンという比類なき名誉も手に入れていた。


「……イライザさんとは浅からぬ仲なのですか?」


「へっ!?」


 ライラの不意打ちに集中が乱れる。

 手の甲の血が舞い、また綺麗にされた鍛練室が汚れてしまった。


「集中が乱れたようですね……神聖魔術は冷静さが重要ですよ」


「うぅ……面目ありません」


「意地悪をしたわけではありませんが……ブラム王国にも神聖魔術の使い手はいます。いざ対峙した時には平常心が生死を分けるでしょう」


「……はい」


 まさにその通りだ。

 一言で精神集中が途切れては意味がない。

 心を削り合うのもまた戦いなのだ。


「で、どうなのですか?」


 ライラが正面を向き続けて問いかける。

 どうやら話題を終わりにする気はないらしい。


「え~と……私としてはイライザのことは大切に思っています」


 本当はプロポーズもしたのだけれど、いきなりそんなことを言う必要はないだろう。

 イライザの立場を考えてもこれくらいは大丈夫なはずだ。


「結婚するくらいには、ですか?」


「なっ……!?」


「審問官である私には色々なものが見えます。本人が思っている以上にです。……好奇心ではありませんよ、任務上確認したいのです」


 ライラがいっそ無表情な顔を僕に向けた。


「ジル、あなたの優先順位が何なのか……聞かせてくれませんか?」


 一瞬のやり取りだけれど僕は思い知った。

 これがライラの真の姿だ。審問官の恐ろしい側面を僕は初めて見ていた。

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