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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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92/201

ご褒美

 僕にはライラの心根も性格もわからない。

 礼儀知らずといえばそれまでだけれど。


 僕はアエリアやアルマ、ミザリーのことを思い出していた。

 ヴァンパイアのどうしようもない精神、僕と相容れない何か。


 ライラも多分、吸血という業から逃れられないのだ。

 されるがままにしていると、ライラの指先が震えてくる。


「……これは、嫌じゃないんですね」


「まぁ……慣れてます……。アラムデッドにいた時に、色々とありましたし」


「血を吸われたこと、あるんじゃないですか?」


 ライラの瞳が、僕の顔から肩へとーーかすかに震える僕の肩へと移った。


「……ありません。吸われるつもりも、ありません」


 ヴァンパイアからの本当の寵愛であり吸血ーー首筋への吸血はされたことがない。

 吸血の意味するところは、イライザへの不実も意味する。


「信じられませんね……ヴァンパイアは皆、きれいで魅力的でしょう? ヴァンパイアとの集団と付き合うと大抵身を持ち崩すのに」


 やっぱり、そうなるのか。

 イライザも同じ事を僕に言っていた。

 妹を連れていくなーー懐かしい警告だった。


 僕はライラの熱を持つ指先を手に取った。

 ゆっくりと彼女の指を、僕の首筋から外していく。


 ライラは、特に力を込めもしない。

 僕の短い経験でも学んだことがひとつある。


 それは、ヴァンパイアの誘いは断っても大丈夫だということだ。

 ヴァンパイアの誘惑は頻繁で、およそ遠慮がない。


 けれども不思議なのは力をちらつかせることはあっても、本当に無理やり血を吸うことはないーー少なくても僕相手はそうだった。


 ヴァンパイアのプライド?

 相手に差し出させるのが、ヴァンパイアの流儀なのだろうか。


「僕は少なくても嫌です。好きあってもいないのに」


 ライラの手を、僕は離した。

 ふっ、とライラが笑う。これまでと違う朗らかな笑顔だ。


「安心しました、誘惑には耐性があるようで」


「……僕を試したんですか?」


 ため息を軽くついてしまう。

 あまりに唐突だったけれども、震えが来たのは事実だ。


「ええ、ナハト大公も心配していましたので。合格です」


 ライラは身を翻して、自分の席に戻った。

 茶色の尾が、ふりふりと揺れている。


「人が悪いですよ……」


「ごめんなさいね……イヴァルトに行ったことはありますか?」


「ありません……ちょっと話に聞いただけです」


「イヴァルトに住むヴァンパイアは、アラムデッドとはまた少し違います。ジルが出会ったアラムデッドのヴァンパイアは誇り高くて……扱いづらいですが、立場を忘れるほど愚かなヴァンパイアはいないはずです」


 まぁ、そうなのだろう。

 ディーン王国からの婿として、それなりに対応はされていたと思う。歪ではあるけれども。


「イヴァルトは商業と貿易の都市です。それゆえイヴァルトのヴァンパイアは下手に出ることを知っています……もちろん純血でないヴァンパイアも多くいます。その誘惑は密やかで、手が込んだものになるでしょう」


「なるほど……気を付けます」


 アラムデッド王国はヴァンパイア至上主義で、混血のヴァンパイアは公の場にはいなかった。

 イヴァルトでは一見してヴァンパイアとわからないけど、吸血趣味を持つ者がいるということだ。


 ヴァンパイアは人数が少なく光や水といった弱点も多いが、武術と魔術の両方に長けている。

 大陸5種族で最強とされているのだ。


 僕は炙り肉をフォークに乗せて、ぱくりと食べる。

 柔らかい……やっぱりアラムデッドで食べてきたのと同じくらいの上等だ。


「ところでライラさんがヴァンパイアの血を引いてるのは、本当なんですか?」


「……どちらだと思います?」


 意味深に笑みを作り、ライラが問い返してくる。

 はっきり言って、演技とは思えない一幕だった。


「ヴァンパイアの血を引いておられるんだと思います……今のやりとり、覚えがありましたから」


 ふむ、とライラが頷くとローストビーフを一口、二口食べた。

 気まずい沈黙が部屋に流れる。

 僕もパンを食べながら、返事を待つしかない。


「その通りです、血を吸ったことはありませんが……」


 自嘲気味に呟くと、またワインを煽った。

 アルコールが好きなのも本当かもしれない。


「嫌なものです、ヴァンパイアの血は……ジルにはわからないでしょうね、その人の心よりも身体よりも血が欲しくなる感覚というのは」


 またグラスいっぱいにワインを注ぎながらライラは語る。

 アエリアも同じようなことを言っていた。


「……難しいですね」


 僕には本当に理解できない感覚だった。

 結局、こう言うことしかできない。


「難しいです……でも、うまく付き合わないといけません。ジル、あなたは逆にヴァンパイアとうまく付き合えそうですね」


「……単に僕のスキルのせいだと思いますけれど」


 とはいえ《血液操作》がなければ僕は生きてはいなかっただろうけれども。


「《血液操作》ですね……。それについて明日、時間をお借りできますか?」


「大丈夫です、荷物整理だけなので……」


「この試しをパスしたご褒美です。スキルについて聖教会の秘儀をお教えしましょう」


「おおっ……!!」


 僕の胸が少し高鳴った。

 スキルは基本的に聖教会の管轄下にある。

 もちろん、大陸で最もスキルについて詳しいのは聖教会だ。


 ライラはにこりと今まで一番の微笑みをした。

 それは混じりけのない、聖女のような笑みだった。

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