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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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89/201

イヴァルトへ

「今回の連合軍の呼び掛けにも、イヴァルトはあまり乗り気ではありませんでしたね……」


 刺々しさを含ませて、ライラが呟く。

 商業都市のイヴァルトには、ブラム王国の影響力も及んでいる。

 それが、彼らの動きの鈍さの原因だろう。


「ジル男爵とライラ殿には、特使としてイヴァルトに向かってもらいたいのじゃーー第一に情勢探索……そして連合軍への積極的な参加を促してもらいたい」


 僕は少し驚いた。

 パラディンに内定したとは言っても、それを知るのは王宮内の一部のはずだ。


 まだ他国では公になっていない。

 アラムデッドの件で有名になったであろう僕だけれど……。

 正直、自信はまるでにない。


「……僕にできるでしょうか……」


 気弱なつもりじゃないが、ぼんやりと感じたことが言葉に出てしまった。

 僕には華やかな外交舞台の経験も、強面に交渉をごり押しする技術もない。

 我ながら心細いのは事実だった。


「そこはそれ、私がぐわーっといきますから……ジル殿はむしろ優しく懐柔するようにしてください」


 ライラがすました顔で、心意気を語ってくれる。

 なんだかいまいちよくわからないけど……。

 アメと鞭、ということか。


「聖教会とディーンの働きかけにもあまり応じぬイヴァルトのこと……大きな成果はないやもしれぬ。しかし、スケルトンのルート解明も含めて、死霊術師に詳しく対抗できるのはそちだけじゃ」


 僕は先ほど渡された首飾りの布包みの感触を確かめる。

 つややかな肌触りが、心地いい。

 これが今の僕の切り札だった。


「飛行騎兵の使用を許可する。ライラ殿とともにイヴァルトへ急行するのじゃ」


 ナハト大公の眼からは、不安はあまりなさそうだ。

 むしろ僕のお手並みを拝見、という目付きだった。


 もちろん僕はやり抜くだけだ。

 うまくできるとは断言する経験はない、でも期待には応えたかった。

 先ほどの心細い声は、忘れよう。

 今は、一つ一つこなしていくだけなのだ。


「はい……!!」


 状況はどんどん進む。

 立ち止まってる暇は、僕にはない。


「うむ……それと今回のイヴァルトにはイライザ殿も行かせよう。死霊術師にもヴァンパイアにも詳しいからの」


「イライザもですかっ!?」


 声が大きくなってしまった。

 この前の話から、また離れるのかもーーそう思っていたけれども。

 嬉しい話だった。


 あれ、でもヴァンパイア?

 イヴァルトはヴァンパイアの国ではなく、多民族国家だったような。


「そのルートであるが……ヴァンパイアが元締めのようだの。アルマ殿は、顧客にもヴァンパイアが多いと言っておった……。その点からも、そなたが適任じゃ」


 僕の《血液操作》を知った上での発言だった。

 確かにそれならーー僕が適任なのだった。



 ◇



 出発は2日後と決まった。

 まずは僕とライラ、それに何人かがイヴァルトに先行する。

 ナハト大公はすでに3千の軍をイヴァルト周辺に置いているが、まずはそこに合流ということだ。


 グラウン大河からブラム王国の侵攻を警戒するのと、圧力をかけるのと。

 兵を置いているのはそういうことだろう。


 3千の軍を率いるのはガストン将軍ーー僕も知らない人じゃない。

 僕の父と戦場をいくつも共にした叩き上げの戦術家だ。


 父の葬式にも現れて、すまなさそうに頭を下げていた。

 ひげも髪も真っ白な、小柄だけどがっしりとした騎士だ。

 僕の方が申し訳ないくらいの態度だった。


 僕がいくぶんか気が楽なのは、イライザの存在もある。

 やはり彼女と一緒に取り組めるのは、いろんな意味でやりやすいのだ。


 あとは……ライラか。

 ナハト大公の口振りだと、僕とライラが中心で動くようだ。


 高等審問官である彼女について、会ったばかりだけどあまりいいイメージがない。

 教義にうるさく、融通がきかないーーそれが審問官に対する一般的なイメージだ。


 僕が不利益を被った出来事はないので、偏見かもしれない。

 いずれにしても、ライラともっと打合せして歩調を合わせるべきだろう。


「高等審問官のライラ殿が、来られました……!」


 部屋の外から、緊張した護衛の声が聞こえる。

 まぁ、無理もないが……。

 これが審問官に対するありがちな反応なのだ。


「……どうぞ、入ってください」


 時刻はすでに夕方、鮮やかな夕陽が僕の部屋を照らしている。

 雲は少なく、オレンジ色にあらゆるものが染まっていた。


 僕は立ち上がり、ドアまでライラを出迎えたのだった。

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