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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
幕間

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80/201

会議①

 その日、僕はナハト大公に呼び出されて執務室へと向かっていた。

 イライザに求婚してから、さらに一週間が経過している。


 肩も完治し、今はディーン王国の要人たちと顔合わせの毎日だった。

 とはいえ、ナハト大公と会うのは先日以来だ。


 ディーン王宮内でもナハト大公の執務部屋付近は別格である。

 勇壮な警備兵も多いし、大理石の廊下にも傷一つなく、ホコリ一つ落ちていない。

 お飾りの政治家などではない、大国ディーンを動かす本物の実力者の空間なのだ。


 執務室前に到着すると構えた兵がノックし、扉をすっと開けてくれる。


 僕は入り口で直立不動に挨拶する。


「ジル・ホワイト、到着しました!」


「うむ、すまんのう。中に入りたまえ」


「はい……いいっ!?」


 僕は一歩部屋に入ると、変な声を出してしまった。

 ナハト大公の執務室には、あのアルマがいたのだ。

 ヴァンパイアでーーアラムデッド宰相の。


 アルマは椅子に座り、優雅にカップを傾けている。

 僕に気が付くと、アルマはすました顔で小さく手を振った。


 よく考えればアラムデッドの宰相であるアルマがここにいるのは、別におかしくはなかった。

 作戦会議だとしたら、むしろ僕がいることの方が奇妙でさえある。

 なにせ、僕のホワイト家では1000人以上の兵を統率したことさえないのだ。


「ジル様……そんなに畏まらなくてもいいですわ。私はもう、アラムデッドの宰相を辞めまし」


「そ、そうなのですか……?」


 あれだけの動乱があったのだ。

 特にレナールやエリスの件は、責められるだろう。


 それでも、すぱっと辞められるのはすごいことだ。

 意外とアルマは、権力の座に執着がないのか。


 ナハト大公は咳払いをひとつすると、


「アルマ殿について、今はディーン王国に客分として招いておる。対死霊術師として連合軍にも参加してもらうのじゃ」


「ということですわ、ジル様」


「は、はい……」


 ナハト大公が着席を促したので、僕もアルマの隣に座る。

 300年生きた彼女の経験と知識は、連合軍の要と言える。


 当然、アラムデッドも連合軍に加わるのでアルマとは再会するものと思っていたけれど。

 それでも、かなり早い再会だった。


 ……まさか、また血を吸いたいだなんて言わないだろうな。

 僕はちょっとだけ心の中で警戒する。


「さて……ジル男爵にもこれを見てもらいたい」


 そういって部屋に控える従者が、書類を持ってくる。

 どうやら商人が扱う交易品のリストのようだ。


 いついつに何をアラムデッドに持ち込んだか。

 美術品、年代物の家具……骨董品ばかりだ。

 それが何ページにも渡り、延々と書いてある。

 総数は数百件にもなるだろう。


 僕はこのリストを見て、ピンときた。

 王都での戦いの中で、一つ解せないことがあったからだ。

 不意に現れた片腕がなかったりする、簡素なスケルトン兵だ。


「王都に現れたスケルトンの兵……ですね」


「うむ、素晴らしい理解力だの。そのリストはスケルトン兵のパーツを運んだと思われる者たちじゃ……もっとも、みなそうとは知らなかったようじゃがな」


 王都に現れたアンデッドのうち、歪なスケルトン兵の出現の仕方は妙だった。

 まるで店の中から、そのまま這い出したような形だったのだ。


 王都の外からではなく、中から呼応したような動きだった。

 事前に準備されていたものじゃないかと思っていたが、当たっていた。


 しかも、このリストによると膨大な数のルートで入り込んでいる。

 骨董品などと偽ったり紛れ込ませたりして、王都にスケルトンを入れていたのだ。


「戦死した者が即座に敵に回るのも恐ろしいですが、このスケルトン兵もまた、非常に大きな脅威ですわ」


「途中でバラバラになっても、パーツが揃っていれば死霊術師の力により人型の兵隊へと戻るのじゃ。つまり先に骨を送り込んでおけば、合図一つでいきなり軍を生み出せる」


 なるほど、それは確かに脅威だった。

 一つ一つは弱くても、いきなり退路や補給路を遮断されてはどうしようもない。

 死霊術師は少数だろうけれども、その不利を補えるやり方だ。


 そしてこの方法はもちろん、アラムデッドより遥かに大きく、出入りの激しいディーン王国にも有効なはずだ。


「このディーン王国にも入り込んでいる……と?」


「ブラム王国と組んでいる以上、そうであろうな。スケルトンを潜り込ませない方が、不思議じゃ」


「バラバラのままだと、感知の魔術にもひっかかりませんわ……アラムデッドの王都では、そうでしたから」


 ますます厄介な話だった。

 それだと、もう入り込んだスケルトンのパーツは一つずつ見つけるしかない。

 後は、死霊術師を立ち入れないようにするしかないだろう。


「これについては、もう少し情報が揃ったら対処することになる。頭が痛いことじゃ……そして、もう一つ」


 ナハト大公の目がぎらりと光る。

 さらに悪い話があるのか、僕は身構えることになった。

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