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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
幕間

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78/201

アエリアとシーラ

 ディーン王都の高級宿屋で、アエリアはため息をついていた。

 刻限は夕方になり、いよいよ人手が多くなっている。


 アエリアはディーン王国にも何度か来たことがあるが、毎回心底驚かされる。

 とにかく人がーーいろんな人間が行き交い、手を取り合って生きている。

 二階の窓からも、エルフやドワーフ、獣人属が何の気兼ねなく歩いたり、商売したりしているのがわかる。


 対してアラムデッドではヴァンパイア以外は二等国民として、暗い顔を晒しているのが常だ。

 ヴァンパイアには平身低頭し、道を譲る。

 アエリアは全く好まないけれど、それが当たり前なのだ。


 ディーンは真っ直ぐ、にこやかに街がある。


「……今日も賑やかな夜になりそうなのに、どうしたのです? 最近、ため息ばっかです……」


 飽きることなく外を眺めるシーラが、アエリアに声を掛ける。

 シーラの奴隷としての身分は、とっくに終わっていた。

 しかし彼女たちは今もディーン王国からの要請で、王都に滞在していた。

 お小遣い付きなので、二人とも観光し放題、遊び通しなのだ。


 なのに、アエリアはため息が多かった。

 後悔、しているのだ。


「もっと……積極的にジル様に迫るべきでしたかねぇ……うーん、うーん」


「イライザさんに、恨まれますです」


 ぴしゃり、とシーラが言い切った。


「物凄くイライザさんは本気です……」


「……側で見ていても、それはわかるけれども……」


 やはり同じディーン人か、あのように包容力を発揮することはアエリアにはできそうになかった。

 アエリアが、またため息混じりに言う。


「かなりジル様の事は、本気だったんですけど……」


 血が美味しいとか俗物的な理由もあるが、年齢も近いしやるときはやる、そんな人だった。

 もちろん、血はとても美味しかったけれど。


「シーラちゃんはいいの? ご主人様でしょう?」


「第二夫人を目指しますです」


「はっきり言うのね……」


「……私が自由になれたのは、運が良かったからです。色々なことが重なって本当に何もかも、といっていいくらい思い通りになりましたです。あまり多くを望むと、罰が当たります」


 自由の身になり、家族にも会え、同胞の地位も救われた。

 アエリアはそこまで悪かったシーラの境遇に、同情していた。


「それでも、第二夫人は狙うんだ……」


「こんな良縁、滅多にありませんです……第二夫人が駄目なら、第三夫人でも第四夫人でもいいですけれど」


「そ、そんなになの……!?」


 アエリアはすっとんきょうな声を出した。

 公爵令嬢に連なるアエリアにも、縁談はちらほらやってくる。


 まだ身を固めるつもりはないが、それでも正室の誘いしかない。

 今の段階から第三夫人でもいいとか、シーラは割り切れてるなぁとアエリアは思ってしまう。


 自分は、まだそこまでの境地ではない。

 ジルへの想いは、本当だと自分では考えている。


 エルフの村で裸を見られそうになっても、嫌では全然なかった。

 むしろ、無茶苦茶勇気を出したつもりだった。


 あのあとベッドで悶えたし、なんとなく自分の魅力がないからじゃないかとへこんだりした。

 アエリアにとっては、少しだけ屈辱でもあった。


 身体や顔は、劣らないはずだ。

 大きめの胸にほっそりとした手足、イライザの知的さとは違うが、魅力はあるはずだった。


(そりゃ……私は彼女よりも慎みがないとか、騒がしいとかあるけれども)


 それでも、負けを認めるのは悔しい。

 好きになったのが後でも、変わらない。


(この辺りは、ヴァンパイアの血なのかなぁ……やだやだ)


 ヴァンパイアは独占欲が強くヴァンパイア同士の婚姻では、側室なんかはかなり揉め事になる。

 それもあって、貴族でも婚姻相手に人間やエルフを選ぶのは珍しくはない。

 ヴァンパイアの血は濃いので、数は少ないが生まれる子どもはほぼヴァンパイアだ。


 ましてジルはパラディンになったのだ。

 誰かに文句を言われる筋合いもない。


「不戦条約を結びましょう、シーラちゃん……」


「ジル様を狙う、ですか」


「確実にライバルは増えていきます……その前にというか、そうなっても私はジル様に愛されたいんです。一番は……難しくても、指をくわえて見ているなんて、ごめんです」


「いいですよ……邪魔はしあわない。それだけですけど」


 アエリアは、誰にともなく頷いた。

 まだ、自分は脱落なんてしていない。


(私はまだ諦めたくありませんからね……ジル様!)

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