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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
幕間

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76/201

求婚

 僕はディーン王国の、王宮内の庭園にいた。

 ナハト大公からの呼び出しから、また2日が経っている。

 今の僕は療養中ということで、王宮への滞在を許されていた。


 王宮庭園の一つであるここには、四季の樹木、草花が品格よく配置されていた。

 好きなのは、ここが少し開けているということだ。


 背の高い樹木はなく、ぱっと空の青が自然の花と混じり合う。

 日差しはいよいよ強いが、その熱が庭園を見事に青々と繁らせ、咲く花に力を与えていた。


「お体は大丈夫ですか、ジル様」


「うん、もう肩も痛まないよ」


 隣にいるのは、薄目の服をまとったイライザだ。介抱役として側にいてくれている。


 整えられた青色の髪が、太陽に輝いて本当に美しい。


「パラディンへの就任、本当におめでとうございます」


 イライザがすっと頭を下げて祝福してくれた。


「……まだ、正式には少し先らしいけれども。色々準備があるってさ……」


 当然、守護騎士の就任式は恐ろしいほど盛大にやることだろう。

 ナハト大公はある程度、連合軍の形が見えたら式を執り行うと言っていた。


「ジル様は……ブラム王国や教団に対する重要な象徴になられるのです。歴史に残る晴れ舞台になることでしょう」


 イライザの言うとおりだ、僕は死霊術師へ立ち向かった英雄だ。

 自分では無我夢中に、目の前の事をこなしていただけれども。

 療養中を名目に、ほとんど面会者が来ることもない。


「それとジル様……。アラムデッドのエルフの処遇が出ました。アエリアも含めてお咎めはなし、アルマ宰相はエルフたちに待遇改善を約束したそうです」


「そっか、よかった……それだけが心配だったんだ」


 王都を抜け出した手伝いをしたアエリア、ブラム王国と一部繋がりがあったエルフたち、どちらも戦い終われば調べられるに決まってる。


 ナハト大公を通じて、僕は彼女たちの赦免を嘆願していた。

 彼女たちがいなければ、贖罪の祭壇を破壊するという荒業も不可能だったからだ。


 エリスが闇に飲まれて、暗黒の淵そのものがなくなったという。

 クラーケンも跡形もなく消滅した。


 イライザが、かすかに憂いを帯びた目で、


「気掛かりがはなくなりましたね、ジル様」


「……そうかな」


 小鳥が遠くで鳴いている。

 夏の風が枝を、花弁を揺らす。


 それなりに長く、濃い付き合いだ。

 僕はイライザの瞳に差す影の理由を察していた。


 それでも、僕は踏み出そうとしていた。

 アラムデッドで僕は、イライザを何度も泣かせた。

 そして、何度も助けられた。


 情がわく、というのは良くない言い方だけれども、そうなのだ。

 もっとイライザと一緒にいたかった。


 誰よりも、強くそう思う。

 それが今の僕の、嘘偽りない本音だ。


 頭が熱く、血がどくりと動いていた。

 言うべき言葉はわかっているのに、唇が動かない。


 ゆっくり息を吸って、吐く。

 穏やかな風に運ばれ、優しい花の香りが僕を少し落ち着かせてくれる。


 突然過ぎるかも、断られるかもしれない。

 それでも、パラディンになればどうなるかわからない。


 ずっと会えなくなる可能性もある。

 僕たちはもう、アラムデッドへは戻らない。


 イライザは宮廷魔術師の仕事があり、僕は守護騎士になる。

 まして、連合軍のこともある。

 自分で好きに動ける立場ではないのだ。


 だから、きっと今日言うべきなんだ。

 明日のことは、わからない。


 ……後悔はしたくない。

 僕はなんとか、思っていることを言葉にできた。


「イライザ……単刀直入に言うけれど、僕と結婚して欲しい。ずっと側にいて欲しい」


 イライザの目が見開かれ涙が一筋、頬を流れた。

 彼女の細い腕がこわばり、肩を縮める。


「……駄目です、ジル様」


「どうして……?」


「ジル様もわかっておられるはずです……。私では、今のジル様とは釣り合いません」


「そんなことないっ!」


 僕の上げた声に、イライザが首を振って否定した。


「いいえ、そうです……ジル様なら、諸国から多数の良縁が舞い込むでしょう。もちろんディーン王国でもそうです。ブラム王国の征伐が上手く行けばーーもしかしたらディーン王家からお声が掛かるやも」


 言葉を切ったイライザは、息を吸って一拍置いた。


「私もジル様をお慕いしています……心の底から、ずっと。でも……もう許されません。ジル様の御相手は、私では絶対駄目です」


 僕は否定したかった。

 しかしイライザの言葉は、認めたくないけれど恐らく正しい。


 僕も考えないわけではなかったけれど。

 でも守護騎士という実感のなさ、あまりに急なことに僕の想像がついていなかった。


 逆に普通なら、側室でもいいからとイライザを説得するだろう。

 そんな貴族は掃いて捨てるほどいる。


 僕はとてもそこまで割り切れない。

 血筋自体が、上流人に染まっていない。


「諦めないよ……なんとか、どうにかする」


 僕は、雲一つない空を見上げて呟いた。

 イライザが僕を好いていないなら、仕方ない。

 でもそれ以外の理由なんて、受け入れたくない。


 考えられるのは、功績を積み上げること。

 誰にも口を出せないほど、僕自身が発言権を持つことだけだ。


「……意外とジル様は、諦めが悪いんですね」


「そう、かな……」


 自分では、思ってもみなかったけれども。

 ああーーでもそうだ、いつか二人で抱き合って言い合った。


 負け続けるのは、嫌なんだと。

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