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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
死の主

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69/201

頂上

 僕とネルヴァは、アルマと別れて贖罪の祭壇近くの建物前に集合していた。

 祭壇に近づいてわかったが、周囲はゴーストが飛び回り警戒していた。


 皆で接近できるのは、ここまでだ。

 激しい金属音と爆発音が、通りの向こうから響いてくる。

 アルマたちが贖罪の祭壇へと攻撃を仕掛けたのだ。


 僕は傍らに立つネルヴァに声をかけた。


「問題はなさそう? ネルヴァ」


「さっき飛んで、頂上の祭壇は見たからな。ゴーストはいるけど兵の姿はなかったし、問題ないよ」


 僕はみんなを見据えて、頷いた。

 皆も頷き返してくれる。


 どうあれこれが最後の戦いだ。

 もうもうと、白い霧が立ち込めてきた。


 水気が僕たちの顔にそっと触れていく。

 すぐに僕たち皆が霧にまかれる。


「これは、俺の霧じゃない! 俺はまだーー」


 何だって?

 ネルヴァの叫びが聞こえる。


 じゃあ、これは一体なんなんだ。

 この霧はネルヴァが使っていた霧、そのままなのに。


 考える間もない。転移が始まってしまう。


「ジル様ッ!」


 かすかに見えるのは、イライザが呼び掛けてくる顔だった。

 イライザが僕の手を掴んでくる。


 そして、僕の視界は光に包まれた。



 ◇



 ぱちりと目を開けると、足元に岩の感触を感じた。

 馬はいない、僕とイライザだけが手を繋いで岩肌に倒れていた。


「ここは……贖罪の祭壇?」


 身体を起こしてみると霧はすでになく、目の前には白い石柱がそびえ立っている。

 手を伸ばせば、触れるほどの近さだった。


 建物三階分にもなる高さで光沢はないが磨かれた柱には、魔術文字がびっしりと掘りこまれている。

 柱の根本には、また正方形の石のテーブルがあった。

 これが、祭壇だろう。


 ゆっくりと見回すと、苔が点々と生えている以外は単なる岩肌だ。

 少し遠くには、煙立ち上るアラムデッド王都の尖塔や建物がある。


 僕とイライザだけが、恐らく贖罪の祭壇の頂上へと連れてこられたのだ。


「どうやら、そのようですね」


 同じく周囲を確認したイライザは一度だけ、ぎゅっと僕の手を握りしめた。

 こんなことが出来るのは、死霊術師しかいない。

 先手を打たれたとしか思えなかった。


「誰の仕業だ……出てこい!」


 イライザの手がそっと離される。

 立ち上がり僕が呼ばわると、柱の影からちかりとろうそくのような光が浮かんできた。


 いくつも、いくつも、小さな灯りが柱の影から空を飛んでくる。

 この光に、僕は嫌な思い出しかなかった。


「……蛍、ですか?」


「うん、気をつけて。 死霊術師がいる!」


 冥界のほとりでも、同じく蛍が現れていた。

 僕は教団の大司教級が待ち構えていると感じ取った。


「あら、死霊術師……? 私はもっと高尚な存在よ」


 白い柱に手をつき、寄りかかりながら現れたのはーーエリスだった。

 薄衣の服に、身体のラインが際どく出ている。


 まるで寝間着のような場違いな出で立ちだった。

 そのエリスの周りを、ひらりと蛍が飛びかっている。


 あの夜に別れた時と、見た目は変わらない。

 だけれども、僕はエリスから濃密な血の臭いが漂っているのに気が付いていた。


 イライザも目を細めて、最大限に警戒していた。

 本来ならエリスがここにいるはずがないーーなのに、僕は得心してしまっていた。


 誰かの変装か幻覚か。

 エリスの姿を借りているのは、冥界のほとりでもあったことだ。


「君はエリス……それともエステルとか呼ばれてる存在なの?」


 僕は一歩前へ出て、問いかける。

 エリスは身体を白い柱へと押し付けた。身体を絡ませ、僕を煽り立てるかのように。

 うっとりとした目線を僕に投げながら、エリスは答えた。


「ああ……ジル、私のことを聞いてくれるの? 知りたいの? なら、正しく答えましょう……。身体はエリスとして生まれて、精神はエステルになった。それが、今の私よ」


「そ、そんな……降神しているのですか!?」


 驚愕の声をイライザが上げた。

 エリスが髪をかきあげて、柱からゆったりと離れる。


「少しは知っているのね。なら、わかるでしょう。世界はこれで変わる……忌々しい神の時代は終わり、真の神の時代が来る。死が永遠にない世界が来るの!」


 エリスは大げさに天を仰いだ。


 僕は血の刃を一瞬で作り出し、エリスへと向けた。

 殺すつもりはないけれど、彼女は敵だ。

 それだけはわかった。


 エリスは首を戻し血の刃を見ると、朗らかに笑った。

 いままでにないーー穏やかで優しげな笑みだ。


 なんだ、どうして今そんな表情を?

 僕は戸惑いを隠せなかった。


 そんな様子を見て、エリスはなおさら屈託のない顔になる。

 誇り高く気紛れなヴァンパイアの王女の面影は、消え失せていた。


「ジル、私はあなたと戦うつもりなんてないの……むしろ逆よ。私はあなたと愛し合いたいだけなんだから」

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