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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
死の主

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贖罪の祭壇

 アラムデッド王都、贖罪の祭壇。

 くすんだ壁画が刻まれた洞窟を、死霊術師によって放たれた蛍たちが照らしていた。


 塵と湿った石の臭いが鼻につく。

 それは、この空間に人が訪れていない証だった。


 贖罪の祭壇は、王都にある小さい丘をくり貫いて作られた建造物だ。

 立ち入り禁止区域の外からは、単なる丘にしか見えないだろう。


 頂上にも祭壇があるが、《神の瞳》が納められているのは丘に入った部分である。

 厳重に閉められた石の扉を開くと、丘自体まるごと空洞になっていた。


 リヴァイアサン騎士団と再誕教団は、最深部にて一堂に会している。

 洞窟自体は、聖堂ほどの広さがある。


 丘の周囲は茂みになっていたが、洞窟には荘厳な雰囲気が漂っていた。

 教団では重要な儀式の際には、灯りに魔術で育てた蛍を使うのだという。


 野生にはない光量を背にした蛍が揺らめき、行きつ戻りつを繰り返していた。

 そのせいで洞窟は天井まで照らされて、ろうそくよりもよほど明るいくらいだ。


 数百人の死霊術師たちが洞窟内でひざまづき、呪われた祈りを捧げている。

 リヴァイアサン騎士団の面々は、それを見守っていた。


 小さな石造りの祭壇の上に、騎士団長のロアはことさらに強力な結界があるのを見てとった。

 しかし結界は教団の魔術によって、ゆっくりとはがれ綻びていく。


「そろそろ、か」


 洞窟には数十人のリヴァイアサン騎士団がいる。

 緊張が高まるのが、ロアにもわかった。

 祭壇から赤い光が漏れだし、死霊術師から一斉にため息がこぼれる。


 彼らの悲願となる《神の瞳》の封印が、ついに破られたのだ。


「……これで……はぁ、約束は果たしましたね」


 祭壇前に立つ黒の魔女も、いくらかの高揚をにじませていた。


「ご苦労だった、大司教殿」


 柄に手をかけたロアは短く声をかけると、祭壇に歩み寄っていく。

 王都強襲の主導権は、ブラム王国にあるとロアは当然考えていた。

《神の瞳》を持ち帰るのは、リヴァイアサン騎士団でなければならない。

 作戦は成功に終わりつつある、いまこそ裏切りの可能性があるのだ。


 祭壇の前には、真紅の宝石がはめられた金の首飾りがある。

 結界の赤い光がばちばちと爆ぜて、元に戻ろうとしていた。


「一つはレナールとやらが、持ち出したままか」


「……その通りです。……結界が元に戻りますので……お早めに……」


 ロアは《神の瞳》を掴んで、布袋へと納めた。

 この小さな秘宝のためにロアの兄のクロム伯爵は死に、ブラム王国は全てを敵に回したのだ。


 後は《神の瞳》を無事に持ち去らなければならない。

 取り戻されては意味がない。


「王宮に動きがありましたぜ」


 ギリアムが急ぎ足で、ロアに報告をする。


「アルマ宰相がこちらに来るか」


「偵察の報告では300ほどですかね。この祭壇を強襲するつもりだ」


 ロアは、ギリアムと黒の魔女に頷いた。

 ここまでの流れは全て計算の内だ。


「予定通り、私は一隊とともに遠回りして王宮に向かう。エリス王女がもう一つの《神の瞳》を持っているので間違いないな?」


「……そのはずです……」


 リヴァイアサン騎士団は、これまで王宮の攻撃を行ってこなかった。

 あえて陽動と贖罪の祭壇の確保に尽くし、あまり乱戦に巻き込まれないようにしていたのだ。


 アンデッドを先に見せれば、聖域が守るためアルマが動くとの考えも当たった。


 後は王宮に向かい、残りの《神の瞳》を手にする。

 クロム伯爵が手に入れていれば楽だったが、強行手段に出るしかない。


「作戦は正午まで、それ以上は帰投に支障が出る。お前たちはここで採掘をするとか……。本気か?」


 すでに死霊術師たちは、壁の壁画やら床やらに蛍を動かして調べ始めている。


「ここには神の足跡が残されています……。せっかくの機会です、何か他にないかも……確認したいですし。……とはいえ、適当な時間に引き上げさせてもらいますが……」


 いっそ死霊術師のいくらかがヴァンパイアに八つ裂きにされればいいのに、ロアは心中で思った。

 王命で《神の瞳》を奪ったとはいえ、死霊術師の力が強くなりすぎるのは好ましいはずがない。


「神の封印とやらは、解けないのか?」


「……よくご存じですね……」


 高い背を揺らして、少し不満そうに黒の魔女が反応する。

 この情報は、ブラム王国首脳の切り札だった。


「ここからなら、エステル様の力を借りるのは、ある程度容易そうですが……道具もなく、時間がありませんので……それはまたの機会に……」


 教団の話では大陸にはいくつか『冥界のほとり』に近い場所があるという。

 贖罪の祭壇はその一つだ。


『冥界のほとり』なら、死霊術の力を死の神エステルから得られるとのことだった。

 さらの贖罪の祭壇で《神の瞳》をうまく使えばエステルを甦らせる、まさに神話めいた真似も夢ではないらしいが。


(王国首脳の話でも、手綱は握れということだった……。所詮は得体の知れない爪弾き者どもだ、信用するべきではない)


「妙なことをすれば、これまでの協力が水泡に帰すぞ。それだけは忘れるな」


「……ええ、ここまできたなら……」


 ロアはギリアムに近づくと、小さく声を掛けた。


「こいつらから目を離すな」


「……もちろんですぜ」


 ロアは騎士団に合図し、洞窟から外に出た。

 丘の外には、騎士団の半分ーー200人が待機している。


 王都は混乱の極みにある。

 混沌を駆け抜けることこそ、リヴァイアサン騎士団の本領といっていい。


 望むものの半分は、もう手にいれた。

 兄の命をかけたもう半分も、すぐそこにある。

 ロアは剣を掲げて、騎士団に命じた。


「行くぞ、これより死地だ……!」

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