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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
死の主

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56/201

血にまみれた世界へ

 僕は仰向けになりながら、《血液操作》を働かせていた。


「何を……するつもりっ!?」


 ネルヴァは、ナイフを握る力を緩めない。

 命を奪う青いナイフに、《神の瞳》の紅い光が反射する。


 ネルヴァの戸惑いの顔が、照らし出されていた。

 その様子に、僕は確信した。


 ネルヴァは《神の瞳》を知らない。

 彼はーー利用されているだけだ。


「君を……死霊術から解き放つ」


「できるわけがないっ! あいつから逃げられるわけが……」


 断言できる訳じゃない。

 それに生きている人間に《神の瞳》を使うのは初めてだった。


 ネルヴァに接した僕の血と《神の瞳》に意識を集中する。

 目をゆっくりと閉じて、深呼吸をする。


 僕たちを取り巻く霧は、濃く先を見通すことはできない。

 邪魔は入らないはずだ。


 甘いと言えば、甘い。

 ネルヴァが死霊術の禁忌に触れたのは、確かなのだ。


 でもそれを言えば、僕だってそうだった。

《神の瞳》がなければ、グランツォに取り込まれて終わっただろう。


 紅い光が、暖かみを帯びてくる。


「ネルヴァ、君も戦ってくれ……。操り人形をやめたいならーー」


「君ってば……ナイフを目の前にして、そんなこと言う?」


 はにかむように、ネルヴァが微笑む。

 真紅に包まれたナイフが、震えている。


「君がどうするのか知らないけれど、わかったよ!」


 僕は《神の瞳》への集中力を最大限に高めた。

 高台の時と同じく紅い光が強まっていき、間もなく爆発するのだった。



 ◇



 光が爆ぜた後、僕の意識は血を伝わりネルヴァへと直接流れこんだ。

 思った通り、《神の瞳》を使えば生きている人間にも干渉できる。


 アンデッドや魂へ出来るのだから、当たり前か。

 いまや僕は、ネルヴァの意識の中にいた。

 それは不思議な光景だった。


 赤くさらっとした血が、一帯に撒かれている。

 雲も鮮やかな紅だが、空は黒い。


 風はなく、風景に比べて臭いもない。

 地平線の彼方まで、何もない。


 ただ、ずうっと果てまで続いているように見えるだけだ。

 まるでーー世界の終わりのような、不気味な心象世界。


 僕自身は、変わりなく立っている。

 外界で活動するのと、まるで同じ感覚だった。

 手を握り血の剣を作るのも、普段通りに出来る。


 恐らくここに、ネルヴァの精神の中に彼を縛りつけるものがあるはずだ。

 グランツォの剣をクロム伯爵が引き抜いたときの、支配が弱まったように。


 この世界にも、同じような楔があるはず。

 それを見つけて壊せば、ネルヴァは自由になる。


 空から一匹の小鳥がやってくる。

 手に乗る程度、青く涼やかな羽が印象的だ。


 小鳥は羽ばたきながら、言葉を紡いだ。

 人間そのままの発音で。


「やぁ……ようこそ。最悪の世界へ」


「ネルヴァ……?」


「うん、まぁ……ここはイメージの世界だからね。俺の姿も自分で思い通りにはならないのさ。ジル男爵は変わらないようだけどね」


「とある力のおかげで、融通がきく」


「ここに、来れたのもそのおかげか……」


 ネルヴァが、僕の左肩にそっと降りる。

 重さはほとんど感じない。


「……なんとも痛々しい風景だね」


 ネルヴァが首を振る。


「これは俺の心象風景じゃない。レナール……あの黒いヴァンパイアのものさ」


 ネルヴァを通して、繋がっているのか。

 あるいはグランツォの底知れなかった闇にあたるのが、この血で濡れた風景なのか。


「俺が知ってるレナールの力は、苦痛を与えた相手を乗っ取る……そういうものだ。傷つければ、奴の思う壺になる。おっと、今まで喋れなかったのに……なんでだ?」


「……どうやらそれが僕の力でね」


「なるほど、勝算はあるわけだ」


 地面の血が、波打ち始めている。

 雲も、北へとうごめいていた。


 どこかへと、世界そのものが動いている。


「レナールが呼んでいるよ」


「僕が来たのを知ったのかな?」


「たぶんね……見てわかるだろうけど、ろくでもない奴さ。覚悟はしてくれよ」


 僕は右手で肩に乗るネルヴァを撫でた。

 なんというか、生きている感触がする。


 目の前の地面が傷のように、開いていく。

 黒い穴が空き、血が虚空へと滴る。


 見たところ、底はないようだーー最もここは精神の世界だ。

 全ては見せかけに過ぎないはずだった。


 レナールの誘いだ。

 僕は穴の縁に立つと、勢いよく飛び込んだ。

書籍化、決定しました!


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