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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
死の主

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55/201

代償

 シーラは着実に黒づくめのヴァンパイアーーレナールに連撃を打ち込んでいた。

 周囲の林の位置は、すでに完全に把握している。

 精霊の助けを借りながら、軽快に飛び回る。


 それだけではない。黒い羽をまとわせ軽く空に浮かぶレナールに、一撃を入れ続ける。

 しかし、手応えが薄い。

 まるで皮の袋を殴っているかのような感触だ。


 金髪をはためかせるシーラは、徐々に焦りを覚えてきた。

 レナールから、攻撃らしき攻撃をしてこないのも謎だった。


「なるほど……少女ながら、相当の手練れだ。不思議なのは魔術式が、エルフだけでなくヴァンパイアの色彩も濃いものというところだが……」


「……あなたには関係、ないですっ!」


 シーラは叫び、正面からレナールの肩口を殴りつける。

 骨と肉が砕けるはずだが、やはりぐんにゃりとした袋を殴ってるかのようだ。


「いや、大いに関係はあるーーが、やはりエルフだな。魂の相性が悪い……」


 ひとりごちるレナールに、シーラが距離を取った瞬間だった。


「今です!!」


 イライザの号令が飛び、エルフの精霊術が放たれる。

 シーラは魔術の波から、これが数十人の精霊術があわさったものだと察知した。


 さすがに得体の知れない力を持っていても、無事ではすまないはず!

 周囲の樹木の枝が伸びて、レナールを拘束しようとする。


 枝の精霊の力は、目視できるほど強い。

 絡みつくだけでなく、帯びた魔力が身体を破壊するはずだった。


「なるほど……よく見ている。間合い、タイミングも素晴らしい……だが惜しいな。僕には、効かない」


 レナールに巻きついた枝から瞬時に、魔力が消え失せる。

 あり得ない光景にシーラは絶句するとともに、1つの可能性に思い至った。


「スキル……っ!」


「そうとも、いささか卑怯かな? 《魔術無効》とでもいうか……魔術を含んでいるもので、僕を傷つけることは不可能だ」


「……そんな……」


 真実なら恐ろしい……が、シーラは心の中でレナールの言葉を否定した。

 もしそうなら、明らかにする必要はない。


 ネルヴァを盾に使ったこともそうだ、レナールの言葉にはまだ真意がない。


「あなたは……」


「うん……? 僕がついに恐ろしくなったか?」


「……いえ、嘘つきですっ! 怖くありません!」


 シーラは枝をへし折り、レナールへと突進した。

 拳や蹴りを身体強化して攻撃するのがシーラだが、逆に言えばそれ以外の攻撃は未熟そのものだ。


 精霊術も補助のみ、もし魔術が効かないのが本当ならこれしかない。

 枝はもちろん、一撃程度しか持たないだろうが。


「はああああっ!!」


 両手でシーラは枝を横に薙いで、レナールの顔に叩きつける。

 枝が木っ端微塵になり、レナールの体勢が崩れる。


「これなら……どうですか!?」


 そのままレナールの服を掴んで引っ張り、木を蹴ってシーラは急降下する。

 レナールごとシーラは、地面に落下するつもりだった。


 身体強化してもシーラにもダメージはあるだろうが、もう決定的な技がなかった。

 やれることは、全部試すしかない。


 轟音とともに、草木に両者の身体が叩きつけられる。


「素晴らしい……君の戦い方、ヴァンパイアのようだな。エルフの発想ではない」


 涼しい顔をしたまま、レナールは仰向けになっている。

 おかしい、シーラはレナールの側に立ち、荒く息を吐いた。


 いくらなんでも、手応えが無さすぎる。


「ああ、気に病む必要はない……実際には魔術でなければちゃんとダメージは貰ってるからね。……君にしようかとも思ったが……」


 レナールの視線が、シーラから外れて明後日の方に向く。

 シーラは、これまでにないほどの強い殺気を感じ取った。


 ゴーストではない、生身の針のような殺意だ。

 ものすごい速度で、シーラたちに近寄る者がいる。


 身構えたときには、殺意の主ーーミザリーはシーラの隣に現れていた。

 ため息とも怒りとも取れる声が、ミザリーから聞こえてくる。


「レナール……!」


 流石に無茶をしたのか、息を切らしている。

 ミザリーは剣を2本ともすでに抜いていた。


「おや、早かったな……私の特徴をよく伝えたと見える。久しいな、ミザリー……?」


「どうして、あなたが……ここにいるのでありますか!?」


「知れたことだな……復活だよ。アルマや君に粛清された同胞、友人……取り戻さなければならないものが、なんと多いか」


「ミザリー様……! ゴーストが!」


 イライザはよくエルフを指揮してゴーストを防いでいた。

 しかし、縦横無尽にまとわりつくゴーストは厄介極まりない。


「……ゴーストを止めて、私とともに王都に来るであります」


 南の離宮に幽閉されているはずのレナールが、ゴーストを従えてここにいる。

 死霊術との繋がりは切れていなかったのだ。


 ぎりりと奥歯を噛み締めるミザリーに、レナールは場違いに微笑みかける。

 両手をだらしなく、地面に投げ出しながら。


「……嫌だね」


 ミザリーの剣が、ぱっと閃く。

 ぶつり、とレナールの両腕が絶ち切れていた。


「次は脚を、切り落とすでありますよ……!」


 ミザリーは怒気を隠さず、王族のレナールに剣技を浴びせていた。

 どのみち廃嫡されている上、もはや言い逃れなどあり得ない。

 ミザリーに容赦はなかった。


 しかし、レナールは笑みを崩さない。

 苦痛の一声も上げない。


「今の一撃で、首を斬るべきだった……倒れた僕に、油断した!」


 ミザリーの手首がしなるのと、レナールの口角が歪むのは同時だった。

 そこで、ミザリーは自分の失敗を悟った。


「僕を傷つけたのなら、代償を負うべきだ……僕のために動き、働け!」


 ミザリーの双剣がレナールではなくーーシーラへと一直線に閃いた。

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