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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
死の主

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52/201

黒の羽より

 僕の右腕から舞い上がった血が、霧雨となっていく。

 どうやら、うまくいってはいるようだ。


 普通なら操作系スキルで、質量は変えられない。

 これも《血液増大》《血液操作》を併用するからこそ出来る芸当だった。


「……器用なことをするね。君の考えは悪くないけど、大事なことを忘れてる。魔力あるほど操作しづらくなるでしょ? この霧は、そう簡単に君のものにならないよ」


 実際に霧を目にしながらの操作だ、僕の血が霧になる速度は徐々に早くなる。

 宙に浮かんだ紅い霧が、拡大していく。


「そうだね、その通りだ。魔力があるとーー僕の血は弾かれてしまう」


《血液操作》では例え血でも魔力が薄い箇所は影響を与えることができて、濃い箇所は出来ないということだ。

 つまり、魔力の濃淡はわかるはずだ。


 それだけで十分だ。

 林全体の霧をカバーするなんてどだい不可能、そこまでの必要はない。


 もちろん魔力の濃淡がわかっても、僕一人ではどうしようもない。

 そこから先をどうにかする力はない。


「ネルヴァ……君に敵意がなくて、良かったよ」


 本当にそう思ってしまう。

 例えば瞬間移動での攻撃、霧に毒を混ぜたりされたら、お手上げだったろう。


 僕の紅い霧が、林の上空を覆っていく。

 ちくり、とこめかみが痛くなる。


 ここまで大量に速く血を噴出したのは、初めてだ。

 細かい霧雨とはいえ、血の総量はすでに致死量を超えている。


 見上げると、真っ赤な帳が林に蓋をしているようだ。

 朝の陽光と血が交差して、ちかちかと光っている。


 その一角に、ぽっかりと白く見えない部分があった。

 僕の力が、及ばないのだ。


「あそこですっ!」


 シーラが大声で、指差す。

 その先には、黒く痩せたカラスがいた。


 木の間を、蛇行しながら器用に飛んでいる。

 僕には、紅い霧を避けているように見えた。


 僕の考えが正しいかどうかは、わからない。

 それでもあのカラスが鍵の気がしてならなかった。


 一度場所をとらえれば、後は追い込んでいくだけだ。

 カラスの近くでは、僕の霧がとたんに動かなくなる。


「場所がわかれば、いけますです……!」


 最も身軽なシーラが一足飛びに木を駆け登っていく。

 カラスも身をくねるが、僕の霧に触ることはできない。


 もし触れれば、その部分を固めることができるのだ。

 うねる紅い霧が段々とカラスに接近し、シーラが先回りするように枝に掴まる。


「なんで……俺を狙わなかった?」


 ネルヴァは、観念しているようだった。


「もしこの霧の結界が完全無欠なら、君が出てくる必要なんてないーーそうだろ? ミザリーさんのしたことは、全部無駄だった訳じゃない。多分、林を手当たり次第に壊すのを続ければ良かったんだ」


 ネルヴァが挑発すれば、無視できなくなる。

 壊した部分が元通りになるのを見れば、諦める。


 要は、そういう風に意識を持っていかせる結界なのだ。

 心理の隙をつく、あるいは焦る気持ちを利用するというか。


 とはいえーー僕もグランツォと会っていなければ気が付かなかったろう。

 時間をとことん浪費したはずだ。


 シーラは着実に枝を踏み台にして、カラスに肉薄していく。

 霧の中で見えづらい枝や幹の位置をちゃんと把握していって、加速しているようだ。


「俺は直接は言えないんだけどーー後悔するかもよ」


 ネルヴァが、心配そうに呟く。


「……どういう意味?」


「霧がある限りは、俺の好きなようにやっていいんだ。でも、霧が終わるということは……俺の役割もなくなってしまう」


 紅い霧はいまや、カラスが飛ふのと同じくらい素早く動いていた。

 広げる必要はもうない、追いかけるだけだ。


 あと一歩……!

 シーラが一撃を入れる構えの寸前、カラスが急降下する。


 そのまま地面に激突しそうな勢いで、僕の目の前に着地する。

 カラスの身体が空気を包んだ布のように膨らみ、弾けとんだ。


 不吉な漆黒の羽が、辺り一面にばらまかれる。

 その中に人間が屈んでいるのがわかった。

 羽は魔力と呼応して、竜巻のように巻き上がる。


 全身黒づくめで、紙だけがさらっとした銀髪だ。

 肩幅が広く、僕は男だと直感する。


 立ち上がると、かなりの背の高さだ。

 しかし、頬骨が浮き出ており異常に痩せていた。

 年は20歳の半ばくらいか?


 僕は、彼の顔にひっかかりを覚えた。

 直接の面識はないはずだがーー。


「ネルヴァ……失敗だな。役に立たない少年だ。ここからは、僕がやるしかないか……」


 じっとりと絡みつくように、首を傾ける。

 声を聞いて、僕は思い出した。


 面識はないが、知っている。

 夢の中で、見たのだ。


 彼の名前はーーレナール!

 エリスの兄が、そこにいた。

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