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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
死の主

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霧の拠点

 予想だにしない答えだったが、まず反応したのはイライザだった。


「そ、そんな……この霧をあの少年が生み出したと……?」


「他には、ゴーストくらいしかいないのであります……本当でありましょう」


 顔を伏せたイライザが、ゆっくりと僕に近づいてくる。

 わなわなと、震えている。


「……もしその通りなら……信じられない魔力の持ち主です。私の、100倍……? これは……」


 僕も魔術師ではないけれど、聞いたことがない。

 山ひとつをすっぽりと覆いつくし、人を迷わせる結界なんて。


 完全に規格外の魔力だった。

 ミザリーが斬りかかったのをいなしたのも見ても、すぐにどうこうはできそうにない。


《神の瞳》も、どこまで有効かどうかわからない。

 最悪の場合は、霧を少し打ち払ってーー持っているのがバレて、奪い取られかねなかった。


「この先に廃村があって、私たちはそこを拠点にしているのであります。まずは、村に移動するのであります」


 ミザリーが、ゆっくりと草を踏みしめながら歩き出す。


 とんだ足止めだ。

 不安顔のエルフ達とともに、僕はミザリーについていくしかない。


「ジル殿……村についたら、二人きりで話をしたいでありますよ。色々と……聞きたいことがあるのであります」


 何気ない調子で、ミザリーが口にする。

 やはり、あの説明で納得はしなかった。


 どこまで、話したものだろうか。

 僕は胃の辺りが、急に重くなるのであった。



 ◇



 イライザは村に到着し確認も終えると、ベッドに腰掛けた。

 部屋は狭いが、逆に小さなろうそくでも明るくなっていた。


 ここは村というよりは、季節ごとに使う狩猟の拠点みたいなものだ。

 この山はモンスターが少なく、逆に周囲のモンスターを狩る足場に適している。


 親切にも井戸があり、小屋が数十あった。

 これなら、数日は影響はない。


 ミザリーの一隊によって、結界も張られていた。

 ここなら、安心して休めるはずだ。


 そしてネルヴァの言うことは、真実と思うしかない。

 殺すつもりはなく、ただの妨害なのだ。


 しかし、この状況そのものが問題だった。

《神の瞳》を返しに戻れない、2日もここにいたら手遅れになるのではないか。


 さらに、無茶はないと思うがジルはミザリーに呼び出されてしまっている。

 気は焦るが、見通しが立てられなかった。


「……難問ですけどもー……あまり根つめないほうがいいですよぉ」


 同室のアエリアが、床に藁を敷いている。

 その手つきは、実に鮮やかだ。


「いいんですか……? 私がベッドで」


「私は結構、旅慣れてますからね。これくらいはなんでもないです。それより、イライザ様の体力の方が重要ですし……」


 ぼふっ、と藁に飛びこみながらアエリアは答える。


「ところで……ジル様のことは、どうされるんです?」


「……藪から棒に、何を……」


 イライザの胸が高鳴る。


「王都から出て、イライザ様とやっとゆっくり話せるなぁ……って思っただけです」


 イライザは、アエリアの顔をまじまじと見てしまう。

 日課のことは、イライザも重々わかっていた。


 嫌いな相手から、血を舐めようとする人はいない。

 つまりアエリアもジルのことを、憎からず思っているはずだった。


 イライザは、アエリアの意図を感じ取っていた。

 どうあれーージルとエリスの別れは決定的だ。


 王都に戻り決着がつけば、今度こそ本当に帰国することになるだろう。

 アエリアは落ち着ける今この時に、イライザの気持ちを確認していた。


「私は……」


 イライザは、迷う。

 他人に、ジルへの気持ちを打ち明けたことはもちろんなかった。


 でもアエリアは、唯一友人といえるヴァンパイアだ。

 色々な転機に、彼女は立ち会っていた。


 イライザにとって、誤魔化したくない相手だ。

 一息呼吸を整えて、イライザはしっかりと言葉にした。


「……ジル様へ結婚を申し込もうと思います」


「やっぱり、そうですかぁ……」


 アエリアはわかってました、と言わんばかりだ。

 イライザは、顔が赤くなるのを自覚した。


 貴族であるジルは、交際などという生温いことを受ける立場にない。

 あるのは、基本的に婚約だけだ。


 外交官でもあり王宮勤めの宮廷魔術師なら、ジルとも釣り合いがとれる。

 おかしくは、ないはずだった。


「もし私の気のせいなら、ジル様を取っちゃおうかなぁ……って考えてたんですけどね」


「やめてください……」


 アエリアは、イライザとは違う魅力に溢れていた。

 明るく活発、自分の可愛らしさを使うことをいとわない。


「心配しないでください、イライザ様の方がお似合いです。……私は結局、ヴァンパイアですからね。血が好きなのかその人が好きなのか、わからなくなる時がありますから」


 ヴァンパイアは、同じヴァンパイアの血では決して美味いと感じない。

 それゆえ、他種族を必要としているのだ。


 そして、アエリアはそんな自分のあり方が肯定しきれない珍しいヴァンパイアだった。


「でもイライザ様……そうなると早くした方がいいでしょうね。アルマ様は、もう次の縁談とかを用意してるかもですよ」


「うっ……」


 イライザが言葉につまる。


 シーラをあてがったアルマのことだ。

 エリスが破談になった代わりの婚約話を持ち出してくることは十分あり得た。


 それに、確かエリスには妹がいたはずだ……まだ社交界にデビューしてはいなかったが。


 年齢は14歳、あと少しでエリスと同じく結婚相手を探す年頃になる。


「覚悟、決めた方がいいですよ~」


 藁に顔をうずめながら、アエリアはもごもごと言うのだった。

 あえて顔を見られたくないような仕草だ。


「……はい」


 イライザには、その軽さがありがたかった。

 アエリアがどの程度、ジルを気に入っているのかはわからない。


 でも、決して適当なことは言わない女性だった。

 しなやかに強い女性だ。


 その助言を決して無駄にはしない、イライザは心に決めたのだった。

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