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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
死の主

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45/201

ネルヴァ

 剣はもう仕舞われていたが、はりつめた空気はいや増している。

 周りも、この問いの意味を理解していた。


 下手に答えれば、終わりだ。


 ミザリーは《神の瞳》を知っているのだろうか。

 もしーー僕が《神の瞳》を使ったと知ったら、ミザリーはどう出るのか?


 言葉は、慎重に選ばなくてはいけない。


 今もシーラの感知能力をすり抜けて、刃を向けられたのだ。

 挨拶代わりのハッタリだろうが、姿勢が透けて見えるようだった。


「一度、ディーンに戻ろうとしたのですが……途中成り行きで死霊術師を倒し、エルフを助けたのです」


 つっかえながらだが、嘘は言っていない。

 死霊術師、と聞いてミザリーの肩がぴくりと動く。


「……続けるであります」


 ここからが問題だった。

 僕が王都に戻るのは、《神の瞳》を返すためだーーそれを率直に言うかどうか。


 賭けだが、言うべきだ。

 ミザリーは、敵じゃない。


 死霊術師と戦う同士のはずだ。

《神の瞳》の力の件は、王都に戻ってから詳細を話すのでもいい。


 とりあえず、持っていることは伝えよう。

 エリスからの贈り物でもある。

 それを伝えれば、無茶はしないだろう。


 それに、すでに《神の瞳》を探し回ってる可能性もある。

 後で嘘をついたのがバレたら、そちらの方が言い訳できない。


「エリスからもらった宝石が何やら重要なようで、アラムデッド王国に返却するためーー有志のエルフと王都に戻る途中でした……」


「ふぅむ……」


 ミザリーは唸ると、腕を組んで考え始めた。

 僕とミザリー、両者にとってこの遭遇は想定外だ。


「その宝石というのは、どういうものでありますか?」


 少し手が震えながら僕は、胸元から《神の瞳》を取り出す。

 今のところは眠っており、何の変哲もないルビーだ。


 しばし、じーっとミザリーは《神の瞳》を凝視していた。


「はた目には、ただきれいなルビーでありますね。……魔術師でない私には、よくわからないのであります」


 ミザリーは何も知らないのか……?

 そうなると、《神の瞳》を知っているのは王族かアルマぐらいになりそうだった。


 しかし、僕にもミザリーに聞きたいことがある。

 ミザリーは王都を守る要のはずだ。


 それが、なぜこんなところにいるのだろう。

 《神の瞳》を懐に戻し、僕は聞いた。


「ミザリーさんは、なぜここに……?」


 ミザリーは腕組みを崩さないまま、僕をみつめた。

 素直に困ったという表情だった。


「ブラム王国と接する砦のひとつと、連絡が途絶したのであります……。そのため、王都周辺の貴族をかき集めに行く途中でありましたが……」


 そこで、ミザリーは口をつぐんだ。

 霧の中を伺うように、見回す。


「……お出ましでありますよ」


 急に不機嫌そうな声を出したミザリーが、林の一本を見上げた。

 僕も、その方向に目をやる。


 濃い霧が覆うなか、人影があった。

 林の太い枝にーー1人の少年が立っていた。

 背中に翼がある。


 珍しい有翼の獣人だ。

 年と背格好は、僕と変わらない。


 好奇心と面白さに突き動かされてそうな、お調子者っぽい顔だった。

 今もかがんでこちらを眺めながら、にやりと笑っている。


「やぁやぁ! やっぱりミザリーさんはすごいなぁ……。どうして俺の気配がそんなに早くわかるのさ?」


 ミザリーの顔見知り?

 だが、ちらと見たミザリーは怒っているようだ。


「気安く人の名前を呼ぶな、であります!」


 ミザリーは、いきなり剣を抜き放った。

 しかも二刀流、噂で聞いた本気の戦闘スタイルだ。


 少年は慌てる風でもなく、枝の上で立ち上がる。

 翼があるためか、少しも身体が揺れない。


「おっと、自己紹介くらいはさせてよね! 聞かれる前に名乗るのが、俺の流儀なんだからさ」


 甲高い声で、少年は続けた。


「俺の名前はネルヴァ! 再誕教団、五芒星大司教が1人さ! ま、一番の新参者だけどねぇ」


「なっ……!?」


「あれ、その反応……どこかで俺の教団について聞いたことある?」


 しまった、あまりのことに反応してしまった。

 いや、違う!

 あいつはーー敵だ!


「ミザリーさん、あいつは……!」


「わかってるでありますよ!」


 ミザリーは、すでに跳躍していた。

 それも、ネルヴァに向かって一直線に。


 両手の剣が、交差するように一閃する。

 剣の軌跡を目で追うだけで精一杯だった。


 霧もともに切り裂く剣撃だ。

 だが、剣が通り抜ける瞬間にネルヴァの姿が歪んで消える。


「このぉ……!!」


 樹木を蹴って、ミザリーが跳び跳ねる。

 その先を見やると、そこにいつの間にか、ネルヴァがいる!


「瞬間移動っ!?」


 僕が叫ぶと同時に、ミザリーが再び剣を振るう。

 まさに、まばたきの間に切りつけている。


 しかしまたもネルヴァの姿は霧の中に紛れて消えている。

 援護したいが、そもそも動きが早すぎてついていけない。


「う~ん、俺のはもうちょい手が込んでるよ?」


「うあっ!?」


 僕の足元に、ネルヴァが姿を現す。

 その一瞬の後、ミザリーが着地し二刀流を見舞うーーと同時にネルヴァは姿を消していた。


 空全体から、ネルヴァの声が響き渡る。

 姿形はなく霧全体から反響しているようだった。


「ミザリーさん、最初に比べると動きが鈍ってるね。今日はもう寝たら~?」


 立ち止まったミザリーが、ぎりりと歯を食いしばっている。

 しかし反論はせず、悔しそうに剣をしまった。


「俺の信条は不殺、あと2日で計画は終わるーーはずさ。それまで、おとなしくしててよ!」


「まさか……」


 僕はミザリーのさっきの言葉を思い返す。

 貴族たちに会いに行く途中で、とミザリーは言っていた。


 ミザリーは、力なく肩を落とす。


「そう……私たちの一隊は、もう2日も霧の中をさ迷っているのでありますよ」

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