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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
覚醒と帰還

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35/201

エルフの会合へ

 イライザの協力はとりつけた。

 情けないところも見せてしまったけれど、仕方ない。


 その次は、シェルムの許可を得なければならない。

 だが、これはそんなに難しいことではないと踏んでいた。


 僕とシーラの二人で、シェルムに会いに行く。

 夜は更けていたが、シェルムは快く応対してくれた。


 この『計画』の成否は、シェルムの行動にかかっていると言っていい。

 僕の『計画』を聞くと、彼女は目を見開いて息を呑んだ。


「……効果はある、と思います。ちゃんとエルフに変装できるなら、ですが」


「参加者全てが反乱に賛成と言うわけではない、ということですね」


 少しだけ居心地を悪そうにしながら、シェルムは頷いた。


「ブラム王国の接触がない、私の村も呼ばれています。多分、反乱賛成派による説得会のようなもの……になるでしょう」


「迷っている村もかなりある、と」


「はい……ブラム王国が接触したらしいのは、特に血気盛んな村だけです。全体の割合としては、私の村も含めて3分の1くらいは乗り気ではありません」


 残りの3分の2が、不穏な気配を見せているということか。

 とはいえ、一枚岩ではないのはわかった。


「シーラは神童として、多くの村で有名でした。……娘が戻ったのを知れば、多少の迷いが出るはずです」


 厳しい環境と奴隷、それが反乱の動機だ。

 奴隷であったシーラの帰還は、エルフにとっても重要な情報になるはずだった。


「ご主人様と母上と私、その三人なら会合に入れるはずなのです……母上が認めてくれれば」


 シーラが、シェルムの手を握る。


「シーラ、私は……」


「お願いします、母上」


 シェルムは、ふっと微笑む。

 そして、シーラの髪をそっとすくいあげた。


「あなたを手放したのは……村とエルフ全体のためと、ずっと言い聞かせてきました」


 そして、シェルムは僕を見つめた。

 親としての覚悟を、僕は感じた。


「そんなあなたが、エルフのことをまだ考えていてくれるのなら……私は止めません」


 そう言うと、シェルムは僕に頭をすっと下げた。


「私の方からお願いします……ジル男爵様。どうか、お力を貸してください」


 僕の方こそ、シェルムの助けが必要だった。

 僕もしっかりと頭を下げる。


「こちらこそ、力添えをお願いします……!」



 ◇



 翌朝、イライザに変装を手伝ってもらい、僕たちは会合場所に向かった。

 村から小一時間くらい馬で行くと、高台がある。

 空はかなり曇っており、心をざわつかせる。


 直接向かうのは、シェルムとシーラとエルフに変装した僕だ。

 イライザ、アエリアと護衛は、かなり離れたところにいてもらう。


 会合場所の高台には、魔術文字が刻まれた灰色の石が立ち並んでいた。

 一つ一つが人の背丈くらいだ。


「あの石の近くでは、魔術が弱まるのです……モンスターも近寄りません」


 シーラが小声で指し示す。

 エルフは魔術が得意だ、お互いの身の安全もあるのだろう。


 すでに、多くのエルフが集まっていた。

 遠くの村から来るエルフは、前日に到着するようにしていたらしい。


 くすんだテントが張られ、緊張感が漂っている。

 シェルムの話では、40の村からおよそ70人くらいがあつまるとのことだった。


 余力のない小さい村は、人数も送れない。

 それにもとより参加しない村も、あるとのことだ。


「エルフの総勢は、大体2万人……その行方が決まるのです」


 従者を含めて、高台に集まったのは数百人程度だった。

 通り過ぎるエルフの顔に浮かんでいる表情は、様々だ。


 今にも剣を取って飛び出しそうな人、疑り深く周囲を見回す人、ばらばらとしか言いようがない。


 高台に近づくにつれ、周りがどよめく。

 どうやらシーラを見て、驚いてるようだ。


「オリーブ杖の村長シェルム、久しいな……隣にいるのは、まさかシーラか?」


 高台につくと、リーダーとおぼしい年を取ったエルフが出迎えてくれた。

 シェルムが深々と頭を下げる。


「議長……お久しぶりです。運命の巡り合わせにより、娘と再会できました」


 議長はシーラをまじまじと見て顔をほころばせる。


「まさに奇跡だな……」


 議長は、感嘆の息を漏らした。

 次に彼は、僕に目をとめる。


「そちらの若者は?」


「親戚のホワイトです。長くディーン王国との付き合いがありまして……有益な知識を提供できるのではないか、と」


 ふむ、と議長は腕組をする。

 僕は商人のように、軽い動作で挨拶した。


 僕はシェルムの親戚で、ディーン王国の内情に精通している、という設定だ。


 議長はシェルムに、ひそやかに声をかけた。

 心配するような、しっとりとした口調だ。


「……シェルム、この会合の意味するところはわかっているな?」


「議長、承知の上です。その上で連れてきました」


「なら、いいが……ブラム王国の使者も間もなく到着する」


「…………っ!」


 予想の一つにはあったが、すでにそこまでブラム王国は動いているのか。

 だが、議長の顔にあるのはむしろ困惑だった。


「我々をなんとしても、前線に立たせたいのだろうな……。我先に飛びかかるほど血の気が多いのは、一部の村だけだ」


 議長は首を振ると、皆のところに戻っていく。

 背中は曲がっており、むしろ頼りなさが浮かんでいる。


「有意義な議論になることを、期待しているよ……」


 僕は、声を抑えながら答えた。


「……もちろんです」

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