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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
覚醒と帰還

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34/201

負け続けた僕とイライザ

 僕には僕の利益があり、動機がある。


 エルフの動向を見極めるのは、ディーン王国の利益にかなう。

 僕が逃げたのはヴァンパイアに拘束されて、ディーン王国の足手まといになりたくなかったからだ。


 貴族たるもの、国の礎となるべきだ。

 それが民のためにもなる。


 とはいえこの計画は、イライザの協力なしには不可能だった。


「……認めてくれるかなぁ」


 利があるのは明らかだと思うが、僕の話次第だ。

 一呼吸して、僕はイライザの部屋をノックした。



 ◇



 イライザの部屋も、僕と似たり寄ったりのそっけなさだった。

 荷物のうち、幾分かは部屋で開けられている。


 イライザは僕の様子を見るや、簡単に結界を張った。

 椅子に座り、僕は『計画』を話始める。


 変装して行くこと、うまくすればエルフ達の議論に混ざれることだ。

 イライザは何も言わず、頷きながら聞いてくれた。


 一通りの話を聞くと、イライザはベッドに腰かけたまま、うつむいた。


「ジル様、私は……反対です。そこまでする必要があるのですか?」


 あえなく、反対されてしまった。


「宝石を持って帰れば、お金になるはずです。エリス王女の書状があれば、ディーン王国も多少は動きやすくなります。それで……終わりではないですか」


「……でも、エルフの動向は重要だよ。本当に危険そうなら、余計なことはしないし」


 ほんの数時間の遠回りで、貴重な情報が得られるかも知れない。

 あるいは、本当にうまくいけばエルフ達の反乱にも影響を与えられる。


「本当のことを、言ってください」


 イライザが立ち上がり、僕に向かってきた。

 ほんの少しだけ、苛立っているようだ。


「ジル様は何を感じて、そんなことを?」


 イライザがかがんで、僕を見据える。

 目と目とが、同じ高さになる。


 感じている、か。

 僕の心は揺さぶられていた。


 建前でなく、本音をイライザは求めていた。

 理由ではなく、感じたままを。


 婚約破棄からここまでの旅、僕のありようを聞きたがっていた。


「僕は……」


 イライザの瞳は真剣そのものだ。

 ごまかすことなんて出来なかった。

 僕は、拳は握りしめる。


 初めて、口にする言葉だ。

 言いたくないけれど、それだとイライザは納得しないだろう。


 それに、イライザならわかってくれるかもしれなかった。

 甘えと言われれば、そうだろう。


 愛想をつかされるかもしれない。

 それでも妹を除けば、口にできるのはイライザしかいなかった。


 言葉にすれば、認めることになる。

 それが、辛い。


 でもイライザが聞きたいのは、それだと直感していた。


「……もう負け犬は、嫌なんだ。逃げたくないんだ」


 心がずきりと痛む。

 それでもしっかりと一言ずつ力をこめて、僕は言った。


「エリスから婚約破棄されて、ヴァンパイアに囲われそうになるのを逃げて……エルフから逃げれば、三度目だ」


 手切れ金として渡された金飾り、今は僕の首にかかっている。

 僕はシャツの下にある飾りを、指でなぞった。


「自分が……情けない。許せなくなりそうなんだよ」


 イライザの瞳は、動かない。

 僕は初めて、奥底を絞り出していた。


 妹にだってこんな自分は、見せたことはなかった。

 声がうわずっているのが、自分でわかる。

 半分、泣きそうになっていた。


「僕がこのまま戻ってエルフが反乱すれば、エルフはたくさん死ぬだろう。所詮、ブラム王国に利用されてるだけだ」


「……そうでしょうね」


「やらせてほしい。出来ることが、まだあるんだ。僕には……僕だから、やれることがしたい」


 僕は、視線を下げた。

 イライザの顔を、見れなくなっていた。


 イライザが近づく気配がして、僕はそのまま抱きしめられた。

 優しく、僕の体を包みこむように。


「わかりました。負けるのは、負け続けるのは嫌ですよね……」


「……イライザ?」


 僕を抱きしめる力が、少し強くなる。

 イライザの声も、震えていた。


「私も、ずっとエリス王女に負けてましたし……」


「…………っ!」


「もし単にエルフを助けたいだけ、ディーンのためになりたいだけなら……反対です」


 つとめて静かに、イライザが僕の耳元で言う。


「でもジル様がどうしても、そうしたいなら……心の底からそうしたいなら、私は手助けするだけです」


「……うん」


 僕は、イライザをそっと抱き返した。

 僕よりちょっと年上で、頼りになって、しなやかに強い人だ。


「無茶はしないでくださいね……それだけは、約束してください」


「もちろん、わかってる……」


 父が死んで僕は覚悟を決めた。

 妹と、家名のために生きようと。


 だからこそ、僕は出来ることはなんでもしたのだ。

 アラムデッドに来たのも、それが理由だった。


 結局、何もまともには出来ていない。

 今もディーンに戻る途中だ。


 断ち切りたい。

 それが一番だった。


 確かに感じるイライザの体温が、僕を暖めてくれている。

 本当にいい人が、僕の側にはいた。


 意味がなくても、危険であっても、一人で出来なくても。

 何か、何かしたかった。


 ただ立ち去るだけじゃなくて、関わりたかった。

 勝手な思いだけど、イライザは受け止めてくれた。


 情けないような、ほっとしたしたような。

 僕は、イライザに深く感謝した。

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