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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
覚醒と帰還

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32/201

エルフ村の温泉

 塩味がきつすぎる肉、豆の薄いスープが晩餐だった。

 静かに情報を交換しながらの食事だ。

 この村は今、北に住むエルフから警戒されていると言って良かった。


「アルマ宰相から課された税は、ほとんどないのです……王都に何かを献上できるほど、豊かでもないのですし」


 シェルムは、エルフがなぜこの地に住まうのかと問われて、ゆっくりと答えた。


「定期的に、見込みのある子どもを引き渡す。それ以外には、かなり自由にできます……。他のヴァンパイアも恐れて、姿も見せません」


 聖宝球がない代わりの、苦しい自由だ。

 それでもいつか豊かになるのを夢見て、エルフ達はやってきた。


 しかし、不満は募っていく。

 終わりのない貧しさ、奪われる子ども、どちらも希望を無くしていくのに十分だった。


 食事が終わり、僕は通された宿泊部屋へと行く。

 すでに窓の外は真っ暗だ。

 鎧や荷物の点検が終われば、やれることはそれほどない。


 椅子に腰掛け、僕は少し力を抜く。

 ここ数日の旅で、体が休みを求めていた。


 でも明日は、また早くから出発するするしかない。

 エルフの反乱に巻き込まれれば、帰国どころではなくなってしまう。


 そういえば、小さいが魔力を含む温泉があるとシェルムが口にしていた。

 ささやかな水浴びで身体をきれいにするのも、限度がある。

 一度さっぱりするのも、いいかもしれない。


 僕は護衛に伝えて、建家裏の温泉へと向かう。

 ディーンにも温泉はあるが、気分転換としては最高なものの一つだ。

 しかも魔力を含むなら、相応の効力がある温泉ということだ。

 物資が少ないこの村のエルフにとっても、重要な娯楽だろう。


 向かった先は、木のついたてに囲まれた一角だった。

 大きさ的に、一度に入れるのは5人くらいだろうか。


 本当にこじんまりとしたものだ。

 ついたてを見ると、ある程度の結界は張ってあるらしい。


 かごに布がかけられて置いてある。

 もう先客がいるみたいだ。


 僕も加護の装飾品やらは外していく。

 剣とエリスから渡された金の首飾りは、念のため持っていくけれども。


「んん……この気配はっ!」


 ついたての向こうから、声が上がる。

 アエリアが入っていたのか。


「ジル様、やっぱりジル様ですねっ」


 声が、段々と近くなる。

 ついたての扉が開き、布を巻いたアエリアが飛び出してくる。


 僕は、唖然としてしまう。

 いくらなんでも、慎みというものが……。


「遠慮はいりません、一緒に入りましょうよ!」


「いや、それは……」


「かわりばんこだと、時間かかるじゃないですか。一度に入った方が、効率的ですよ?」


「どう考えても、まずいでしょ……」


 僕は、たじろぎながら抗議する。

 さすがに男女一緒に温泉に入る勇気はない。


 アエリアは、胸元を押さえながらずずいっと近づいてくる。

 布で隠されているとはいえぽよん、とした胸がまぶしい。


 そのまま、アエリアの濡れた顔が僕の顔にまで近づいてくる。

 湯がしたたり、すごい肉感的だった。


「……二人きりで、話したいことがあるんです。あまり他のエルフの方々には聞いて欲しくなくて……」


 いつもの声の高さとは真逆に、低い声だ。

 ここなら、エルフ自身の結界がある。

 部屋で結界を張るよりも、不審がられはしないだろう。


「それに、私はメイドですからね。お背中流しますよ!」


「……いや、それは本当にいい……」


 僕はふう、と息を吐く。

 アエリアなしでは、ここまで来ることは出来なかっただろう。


 アエリアの話したいことを無下にすると、ろくなことにならない気がする。


「わかった……けど、湯船には一緒に入らないからね」


「は~い……もう、堅物なんですからっ」


 アエリアは僕から離れると、ついたての方を向いた。

 あれ……湯船に戻らないの?


「逃げようとしても、わかりますからねー……」


 そんなつもりはなかったけれど、アエリアが近くにいるのでは捕まるだけだ。

 うーん、アエリアには押されっぱなしだなぁ。


 僕は手早く服を脱ぎ、布で体を隠す。

 終わると同時に、アエリアがくるっと向き直ってきた。


「さ、いきましょう!」


 手を握られ、そのままひっぱられる。

 もう夜だ、ヴァンパイアの腕力にはかなわない。


 金飾りと剣を手にして、ついたての扉を通る。

 岩の間に温泉がはられ、もうもうと湯気がたちこめている。


 ディーンと同じ、岩間の温泉だ。

 一人じゃないのがあれだけど、よさそうな感じだった。


「……ようこそ、ご主人様」


「うわっ!? シ、シーラ!?」


 湯気の中に、ひっそりとシーラが立っていた。

 シーラも布で体を隠しながらだ。

 とはいえほっそりとした体つきと、湯気にあてられてる髪が艶かしい。


「ご主人様……早く行きますです」


「ちょっ、ちょっと!?」


「あ……シーラちゃん、一緒はだめみたいですよっ!」


 空いてる片腕をシーラに取られそうになるのを避けて、僕は温泉からちょっと離れた岩に腰かけた。

 良かった、この二人だととても勝負にならない。


 僕が座ったのを見ると、アエリアが足元にくる。

 どことなく、普段とは違ってしおらしい。


「ジル様……私、謝らなくちゃいけないことがあります」

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