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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
覚醒と帰還

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30/201

反乱の気配

 村長のシェルムに先導されて、僕たちは村の中を進む。

 谷に太陽が隠れつつある。


 威圧しないよう、入り口で馬は預けてきた。

 なるべく険しい顔をしないよう、朗らかに歩いていく。

 シーラはシェルムと手を繋ぎながらだ。


 しかし村の中に入ると、より一層生活の厳しさを感じる。

 暗くなりつつあるが、たいまつの類が少なすぎる。


 衣服も、ディーン王国では最下級の農民が着るものだ。

 村のエルフ達も、好奇心や警戒心よりも不安の色が濃い。


 日々生きることに、力を使い果たしている表情だった。

 武装している僕らを追い出すことよりも、追い出されることを恐れているのだ。


「どうぞ、村の会堂になります……」


 シェルムは村一番の建屋に、僕たちを誘う。

 それでも、二階建ての木造だ。

 王都で言えば、中級の宿屋くらいなものだった。


 通されたのは、20人くらいが座れる食堂だった。

 促され、僕たちは入り口近くに着座する。

 シーラだけは、シェルムの隣に座った。


「さて……まずは、ご来訪をありがたく思います。しかしここでは、満足なおもてなしも出来ません」


 シェルムは顔を伏せ、テーブルを見つめている。

 少しの間、シェルムは迷った様子だ。

 しかし、シーラの髪を一撫ですると意を決して話をはじめた。


「これは、お伝えしておくべきでしょうね……。シーラとの巡り合わせを無にするわけにはいきません。……実はエルフの村々で、不穏な気配があるのです」


 遠回しだが、その意味するところを僕は悟った。

 つまり反乱の計画だ。

 アエリアが真っ先に声を上げる。


「ふぁっ!? 正気ですか!?」


 シーラのような奴隷の差し出し、さらに貧しく厳しい環境だ。

 ディーン王国でも、反乱が起きて不思議ではない。


 それよりも、タイミングが良すぎる。

 僕は、言葉に出す前に息をひとつ整えた。


 確信めいたものがある。

 婚約破棄からすべての動きが、繋がっている。


「……ブラム王国から、働きかけがあったのですね?」


 シェルムが、小さく頷く。


「動きがあるのは、ブラム王国近くの村になります。信じてもらえないかもしれませんが、この村には接触はありませんでした……」


 この村はディーン王国に近すぎるし、シェルムの娘はアラムデッドに渡っている。

 包み隠さず僕たちを迎い入れたことからして、シェルムは反乱に乗り気でないのだろう。


「このあと10年くらいは、ブラム王国に近い村から王都へ人を差し出さなければなりません。それが大きな理由でしょう……」


 前に聞いたときは、部族で一人差し出すのが決まりだと言っていた。

 シーラは契約魔術もかけられて、今も完全な奴隷だ。


 自分の子どもを、喜んで差し出す親はいないだろう。

 シェルムも身を裂かれる苦しみのなかで、別れを決めたはずだ。


 子どもを差し出すのが近づいたとき、ブラム王国から誘いがあったら……。

 ヴァンパイアの支配から独立する好機に他ならない。


 村の様子を思えば、エルフの村々だけで反乱が成功する見込みはない。

 それほど貧しいし、今は僕がアラムデッドに婚約者として身を寄せている。


 もし大規模に反乱を起こしても、ディーン王国に背後を突かれて終わりだろう。

 その状況のはずが、今はあまりに不確定要素が多すぎる。


「ジル様はこれからディーン王国へ、戻られるのですね?」


「はい……そうです」


 僕の名前と事情は、把握しているようだ。

 当たり前か、あの盗賊ですら知っていたのだ。

 さすがにその程度の、情報網くらいはあるようだ。


 みんなの視線が、僕に注がれている。

 この話で次の動きをどうするか、決めなければいけない。


 ただ、この村でさえエルフは数百人いる。

 僕たちだけでどうこうするのは、全く現実的ではない。


 ブラム王国へ味方するエルフのことを伝えに、王都に戻るのは馬鹿げてる。

 とどまるのも、賢明とは思えない。


 ブラム王国へ味方するエルフが、僕たちを野放しにはしないだろう。

 そもそも全容が掴めていないのだ。


 当初の予定通り、ディーン王国に向かうしかない。

 エルフの間で出来ることは何もない。


「僕たちは、明日にはここを去ります……。対価は払います。食料を分けてくれませんか」


「それは、構いませんけれども……」


 シェルムも歯切れが悪い。

 そうだ、僕にこんな話をする理由がある。

 もう不穏な気配が形になるのに、時間がないのだ。


「……明日、私たちの会合が近くであるのです」


「その前に、立ち去ります」


 関わるのは、得策ではない。

 はっきりと僕は口にする。


 ヴァンパイアから逃れたと思ったら、ブラム王国の影が差していた。

 想像以上に、ブラム王国の計画は根が深い。


 背中に汗が流れる。

 僕は判断を、間違ったかも知れなかった。

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