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行軍⑥

第2巻、11月12日発売になります!

3万字以上加筆しています、ぜひともよろしくお願いします!

 サイネスが去った後、僕も天幕を出た。思ったよりもすぐに話は終わった。

 うっすらと手のひらの汗を拭う。思ったよりも緊張していた。


 天幕のすぐ外で待っていたのはイライザだ。

 僕の顔を見て、彼女は明らかに安堵していた。


「無事に終わったよ、イライザ」


「それは良かったです……」


「ただ、何事もなくとは行かなかったかな。ふぅ……」


 僕は布包みを丁寧に懐から取り出す。中身はあの黒い宝石だ。

 イライザはそれを不思議そうに見つめた。


「サイネスからこの布包みを渡されたんだ。……中身はここで見せられない。天幕で見せるから、ライラも呼んでくれないかな?」


 僕の言葉にイライザが背筋を伸ばす。ただならない雰囲気を感じ取ってくれたらしい。


「承知しました、ジル様」


 今、僕が持つ紅い宝石はライラから渡されたものだ。

 元はディーン王国の大聖堂に安置されていたものだったか。


 過去の遺物について、最も詳しいのは審問官のライラだろう。

 ライラならこの黒い宝石のことも知っているかもしれない。


 とりあえず情報が欲しい。

 壊すにしろ、ディーンの王宮に送るにしろ。

 このままではどうにもできないのだから。



 ◇



 それからすぐにライラが僕の天幕に来た。

 彼女もサイネスとの話し合いを心配して、待機していたようだった。


 今、天幕にいるのは僕とイライザとライラの三人だけだ。

 僕はテーブルの上で布包みを開き、黒い宝石を二人に見せる。


 さらに僕はその隣に、比較のために紅い宝石を置いた。

 ふたつを見比べて、ライラが感想を呟く。


「たしかに似ていますね。私がジル様へと渡した宝石にそっくりです」


「ええ、本当に……。まさかこれほど似ているなんて」


 イライザも同意してくれたけれど、ふたつの宝石はよく似ている。


 明かりのあるところだと、本当に光の反射加減が同じなのだ。

 大きさもほとんど変わらず、違いはまさに色合いが紅か黒かだけだろう。


「ライラ、君は僕の持つ紅い宝石以外にも紅い宝石を見たことがあるんでしょ? どう、それらと比べて見て」


「そうですね……まず、形はどれも小さかったです。色合いも濁りぎみで真紅と言えるものはありませんでした。宝石の価値としても、ジル様が今持つものが最高のはずです……聖教会とディーン王国にあるもののなかでは、ですが」


「それ以外を調べるのは情報漏洩のリスクがありますからね。由緒あるディーン王国以上の物があるとも思えませんし」


「そうだね、しかし……」


 僕は心中でため息をつく。うまく押し付けられてしまった。

 イライザが言いにくそうに、


「紅い宝石と同じなら、ジル様のスキルで何かが起こるとは思いますが……」


 おそらく、そうだろう。皆で見ても黒い宝石と紅い宝石はよく似ていることで一致した。

 血脈かスキルで、何かが起きる可能性は極めて高い。


 問題は、何が起きるかだ。


《神の瞳》は過去の情景を写したけれど、その強烈なイメージには堪えた。

 紅い宝石はそんなことはなかったけれど。


 イライザは《神の瞳》について、常に慎重であるように求めてきた。

 今もありありと態度で伝わってくる。

 ライラもイライザの言葉に頷いて同意する。


「アルマ様に見せるつもりだった、というサイネス様の考えは間違いではないでしょう。黒い宝石はヘフランまで持っていくのが良いかと」


「ディーンの王宮に送らずに? まぁ、送っても封印するしかないだろうけど……」


「もし有用なものであった場合を考えると、このまま携帯した方がいいのではないかと。問題があるようなら、ヘフランで壊せばいいのでは?」


「……それもそうだね。王宮に知らせだけは届けて、実物は僕が持っていよう」


 僕の言葉にふたりは頷いた。

 と、イライザが少しだけ目を細める。ちょっとだけ威圧感が増した気がする。


「くれぐれも不用意に、黒い宝石を用いませんように。由来のわからないものに身を任せるべきではありません」


「わかってる。僕も一軍の将だからね。迂闊なことはしない、と約束するよ」

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