表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/201

就任式⑤

 ライラの言葉にどう返せばいいのかわからなくなる。

 間近に接するライラの熱が、うざったいほどに暑い。


 確かにライラの言うような誤魔化しは好きじゃなかった。

 かといってむやみに騒ぐほど正義感が溢れるわけでもない。


 シンプルに、どうすればいいかわからなかった。

 どれくらい僕は答えを出せずに目線をさ迷わせていただろうか。


 結局、僕は思ったありのままを言うしかないと覚悟した。

 どのように言い繕っても、彼女は満足しないだろう。


 僕の愛は、イライザのためにある。

 今、僕が異性として好きなのはイライザだけなのだ。


 ライラの顔を見られずぴんと立ったライラのふさっとした耳に目線を合わせた僕は、やっと言葉を口にできた。


「……嬉しいけれど、僕は君の愛には応えられない」


「愛など必要ですか? 平民の子どもでもないのに……」


 ぞっとするほど冷たく、ライラが即答する。


「私達に必要なのは、互いに割りきって付き合うことではありませんか? 今すぐでなくてもいいんです。ジル様は、私のために何かしてくれないのですか」


 恐ろしくて、僕はライラの瞳を覗き込むこともできない。

 どろりとした情念がまとわりついてくる。


 イライザの献身やアエリアの対等、シーラの主従といった親愛とは全く違う。

 あえて言うなら、執念。


 愛するためには手段を選ばす、見返りをもぎとることも躊躇しない。

 でも僕はあくまでも、自分の思う通りを言葉にした。


「……もし君が引き換えに何か望んでも、僕は応えられない。それに、ライラは何が欲しいの? 僕が愛してるって言えば満足するのかな」


 ある意味、突き放すような言葉に初めてライラがわずかに震えた。


「私は――私は、愛して欲しい。イライザ様と同じくらいでなくてもいいから……私を見て!」


 ぐいっと頬に手を添えられ、ライラに目線を合わせさせられた。

 いつかと同じ、泣きそうな顔のままだ。


「ごめん……だけど、僕の答えは変わらない」


 僕は言いながら、ふと思った。

 ライラはいつも張り詰めた顔ばかりで、あまり楽しそうじゃない。

 そうだ、僕はあまりライラが笑っているところを見たことがない。


 そして、そこがあまり好きではないのだ。

 なんとなくだけれど、僕は笑う女の人が好きなのだ。


 僕は、空いている手でライラの頬をふにっと摘まんだ。


「な、なひを……」


「あんまり笑っているライラを見たことがないと思って」


「っ!?」


「うん……きっと、笑顔が似合う人になったら――僕は君をもっと見れる気がする」


 さっきもライラの雰囲気が怖かった。

 意趣返しというわけでは、ないけれど。


 今度こそライラは一歩、僕の胸の中から遠ざかった。

 僕の頬からライラの手が離れる。


「というわけなんだ……ごめんね」


 もう一度、むにっと頬を摘まむようにして僕も手を離す。


「うぐぐっ……ジル様は本当に……16歳ですか…………?」


「そ、そうだけど……」


「はぁ……年上なのにあしらわれてしまいました」


「人聞きが少し悪くない? それを言うなら、ライラだって……」


 むう、とライラは頬を膨らませた。

 さっきまでの刺々しい感じがだいぶ和らいでいる。


 よかった。このまま引き返せないところまでいかなくて。

 ライラのこういう話は、本当に寿命が縮む。


「じゃあ、僕はもう戻るからね……」


 言って、僕はライラに背を向ける。

 けっこうな時間、ふたりで話し込んでしまった。


 どのみち、そろそろ戻らなくてはいけないのはたしかだ。


「……わかりました。私はもうちょっと風に当たってから戻りますね」


 僕は内心ほっとしながら、ライラの側を離れた。

 歩きながら、これで良かったのかな……とか思い返す。


 なんだかアエリア、シーラ……と続いてライラにも結構なところまで告白されてしまった気がする。


 アエリアはもとから、祖国よりも僕の事情を優先させてくれた恩がある。

 恋愛というよりは、友人と言った方が近いだろうけれど。


 シーラもエルフで僕に付いてきてくれた以上、その行く末は面倒を見なくちゃいけない。

 だけれど、それは雇用主としてだ。


 ライラはどうなんだろう?

 確かにイヴァルト前からの付き合いだけれど、彼女がしてくれたことは決して小さくはない。


 うーん……難しい。

 僕はほほをかく。


 答えは多分、すぐには出ない。

 ても、彼女が言うことも間違ってはいない。


 いつかは――何かを返さなければ、いけないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ