就任式①
日々を忙しなく過ごす内、ガストン将軍が王宮へと帰還した。
後続の軍に引き継ぎしても、すぐにヘフランに向こうことになる。
有能ゆえに過酷だけれど、ガストン将軍は文句ひとつも言わない。
おそるおそる、僕から指揮下に入ることを彼に告げる。
心配する必要なんてないかもしれないが、彼は指揮下に入ることも、喜んでくれた。
涙ながらに彼は僕の手を取ってくれる。
素直に嬉しかった。
「ジル様、これは誇らしいことですぞ! 父君が生きておられれば、さぞお喜びになってでしょう!」
「ありがとう、ガストン将軍。でも……実務は正直あなたに頼ることになりそうだ」
「なんのなんの、この死に損ないで良ければいくらでも粉骨砕身いたしましょう! それよりも、もうワシは将軍ではありませぬ! 将軍はジル様の方ですじゃ!」
がはは、と快活にガストン将軍が笑い飛ばす。
孫ほど年の離れた僕にも、こんな風に接してくれるのが彼なのだ。
僕としても安心して任せることができる。
それから軍の編成をガストン将軍とイライザに手伝ってもらい、いよいよ守護騎士への就任式がやってきた。
就任式が終われば、僕達はヘフランに出立することになる。
……僕の肩に連合軍の行く末がかかっているんだ。
◆
守護騎士の就任式の当日。
空は快晴、風もない。
会場には王族を始め、多くの来賓者がいる。もちろんディーン王国の国民や聖教会の偉い方々もだ。
しかし、喧騒はない。
静かにその時を待っていた。
僕は控え室で、守護騎士の衣裳に着替えている。
白を基調とし、マントも純白だ。
ところどころに5つの神の意匠が組み込まれている。
太陽、森、山、獣、月だ。
全体的には落ち着いた印象になっている。
宝石の類いはほとんどなく、高潔な騎士という出で立ちだ。
「よく似合っておりますよ、ジル様!」
「そ、そうかな……?」
700年振りの就任であり、前例もざっくりとしか記録には残っていない。
今回のためにあつらえたらしいけれど、とてもいい物だった。
イライザはいつもの宮廷魔術師の服だけれど、アクセサリーを多目につけている。
指輪やネックレス、腕輪なんかだ。
宮廷魔術師団から借りたもので、僕とお揃いに5つの神をモチーフにしたものばかりだ。
おめかししたフィオナも穏やかに微笑み、
「ええ、兄さんの雰囲気にとてもよく合っています」
と誉めてくれる。
「本当に――信じられません。ホワイト家がこれほどの名誉にあずかれるなんて」
「そうだね、期待に応えないと」
「無茶だけはなさりませんよう……。国を代表する騎士なのですから」
「……うん、わかってるよ」
衣裳合わせも終わり、僕はいよいよ会場に向かう。
道も式のために調えられたものだ。
一歩ごとに緊張感が高まっていく。
いよいよ、式が始まるのだ。
隣を歩くイライザは平気そうな顔をしている。
外交役である彼女は、こうした記念式典や行事にも大いに慣れている。
僕もアラムデッド王国で鍛えられているとはいえ、どうしても緊張はする。
きゅっとマントがつままれる感覚がある。
後ろを歩いているのは妹のフィオナだ。
フィオナは僕と一緒に入場して、そのまま貴賓席に座る流れになっている。
僕と同じく、遅れて緊張感が頂点に達したらしい。
はぁはぁと息を激しく吐いている。
「少し待つから、深呼吸してみたら……?」
「……申し訳ありません……ええ、そうします。すーはー……すーはー……」
「すーはー……すーはー……」
「……兄さん?」
「いや、僕も緊張しちゃって……」
「ふふふ、兄さんも――まぁ、主役ですからね」
二人して顔を寄せ合い、笑い合う。
おかけで落ち着いてきた。
イライザが感心したように、
「本当にお二人は仲がよろしいのですね……貴人では少し、珍しいくらいです」
「そうかな……物心ついてから、ずっとこんな感じなんだよね」
さらさらとフィオナの髪を撫でる。
フィオナも黙って撫でられてくれる。
「ええ、子どもの頃から変わりません」
特に理由もなく、そうなのだ。2人にとってはお互いが安定剤。
辛いときも何するときも、家族を想えば耐えられるしやり遂げられる。
おかけでちゃんと落ち着いた。妹も大丈夫そうだ。
「よし……行こうか」
振り返り、道を見る。
もうすぐそこが、式の始まりだ。




