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それは罰か救済か②

「ここは……?」


 ロアは闇の中、倒れた状態で目を覚ました。

 静かに水が流れる音が聞こえるが、それ以外は全く見えない。


 地面はどうやら砂利のようだ。

 見上げても星はなく、このような場所に覚えはなかった。


 恐る恐る、ロアは砂利を掴む――動く。身体が、動く。

 痛みはない。

 動かせる、立ち上がることもできる。

 ロアはぼんやりと考えられる状況を口にした。


「…………夢?」


 きっと、そうだ。そうとしか考えられない。

 それとともに、ロアは直前に起こった出来事に身震いした。


 よりにもよって、アラムデッド王国のエリス王女が目の前に現れたのだ。

 冷静に考えれば現実のはずがなかった。


 罪の意識か、はたまた激痛か。

 いずれにせよ正常とは言い難い精神が産み出した、幻覚だろう。


 嫌に生々しかった、紫の魔力を別にすれば――。


「……あれは夢ではないわ」


 闇の彼方から、涼やかな声がした。

 ばっと声の方向にロアが振り向くと、そこには蛍に囲まれたエリスがいる。


 照らし出されるエリスは川の上に立ち、得意気にロアを眺めていた。

 幻想的な美しさだ。


「少しだけ、ここに来てもらったの…………お話がしたくて」


「話すことなどない。これは……単なる夢だ。現実じゃない」


「まぁ、そうとも言えるわね。なにせ不完全に無理やり精神を連れてきただけだから。『器』にするにしても、中途半端なのは否めない」


「……何を言っているんだ?」


 夢だと思っても、意味不明な言葉を聞き返してしまった。


「私も失敗したわ。ジルは思いの外、この世界が好きなのね……あなたも助けた」


「……そうだ、彼は――私を助けた」


「やり方を変えなくちゃ。……この今の器も、それを望んでいる」


 エリスはゆっくりと川の上を歩き、ロアに近づいてくる。

 だが、あと一歩で川から砂利に移る手前で、彼女は止まった。


「《神の瞳》を持たない相手だと、やっぱりここが限界のようね。川の向こうには、私だけでは進めない……」


「…………」


「私はあなたに力を与える。夢から覚めれば、あなたは動けるようになるわ」


「……本当に?」


 これが夢だとしても、そんな希望があるのか。

 藁にもすがりたい気持ちが、ないとは言えない。


 どのみち目が覚めてもやることはないのだ――身体が動かない限りは。

 ロアは少しだけ、夢に付き合うという気持ちになった。


「私の望みは、2つ。ジルを殺させないようにすること……ブラム王国や教団からね」


「彼をか……? どういう意味があるんだ」


「私の力を受けた人間が死ぬと、それはもう私の手から離れてしまうの。2つのスキルを持つ魂は脆くなって冥界に留まれなくなる。エリスと血縁にあったレナールが死んで、私と教団は――いえ、地上の誰とも連絡が出来なくなってるのよ。ここにいながらにして、世界の全てを知りえているというのにね」


 言っている意味はわからなかった。しかし、ロアは矢継ぎ早に言葉を続けた。


「……彼になぜ執着するんだ?」


「それは……望みの2つめ。私はジルに愛されたいの。あなたにわかるかしら、この気持ち?」


 両手を胸に当てる仕草は乙女のそのものだ。

 だが、ロアは言い様のない不安に襲われつつあった。


「まぁ、人間に神の意識を理解してもらおうとは思っていないわ。私が望むのは奉仕よ。あなたという駒があれば、私の望みは叶うかもしれない」


「私が、何かをすると思うのか?」


「ええ、私は知っているもの。あまねく全ての死は、私の前を過ぎ去るの。あなたの仲間は、まだ死に絶えていないわ。良かったわね」


「――!!」


「私はあなたに力と情報を与える。あなたのお仲間は北の地、ヘフランにいるわ。私の愛しのジルも、そこに向かう」


「それは……」


「あなたも彼には恩があるでしょう? 返したいとは思わないのかしら」


「それは、そうだ……彼は立派な騎士のように振る舞った」


 ロアが視線を泳がせているわずかな間に、エリスの姿が徐々に闇へと溶け込んだ。

 同時に闇の全てが遠ざかっていく。

 エリスの声だけが、闇の中に響いていく。


「なら、行きなさい――彼がそこで待っている」


 ロアは呆然と立ち尽くし、意識が引っ張られるのを感じた。

 これは夢なのか?

 わからない。

 しかし、もし本当なら。夢でないのなら……。


「私の、私がなすべきことは……」

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