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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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185/201

出立⑦

「ジル様、ごめんなさい」


 沈黙を破ったのは、イライザの震える声だった。


「もっと早く言うべきでした。本当なら、ジル様に……イヴァルトに行く前に言うべきだったのに」


 悔恨の声を止めるようと、僕はそっとイライザの頬に手を当てた。

 驚いたように彼女が、僕と目を合わせる。


 なんと言うべきだろうか?

 決まっている。

 驚きはしたけれど、僕の気持ちは少しも変わっていない。


 泣きそうな彼女を慰めたい。

 彼女の生まれが、彼女の責任になるわけがない。


「……気にしないで」


 そっと口にした言葉が、宙に舞う。

 偽らざる本心だ。


「でも……! 私は、言わなかった……言えなかったんです!」


「……どうして?」


「それは…………怖かったんです。距離を取られるかも知れないって……」


 そんな風に思われてたなんて、僕は思ってもいなかった。

 悩むイライザを放って置けるほど、僕は白状じゃない。


 それでもイライザを責める気には、到底なれない。

 貴族を貴族たらしめているのは、血筋。

 その事実からは逃れられない。


 僕にできるのは、気持ちを伝えることだけだ。


「取るわけないよ、イライザ」


 そのままぐっとイライザを抱きしめる。

 柔らかい彼女の身体が、僕の腕の中にくる。


「~~っ!」


「イライザは僕をいつも助けてくれた。支えてくれた。それなのに、生まれを理由にして避けないよ」


「でも…………他の人は…………」


 ああ、そうか。

 イライザは周囲の反応も気にしているのか。


 前に言ったプロポーズを受けてもらえない理由がわかった。


 ターナ公爵の娘かもしれない、いつかターナ公爵が認めるかもしれない。

 地位もあるかもしれないけれど、それを心配しているから、ナハト大公派の僕とは結婚できない……のか。


 違う派閥同士で結婚するのは、確かに困難だろう。

 周囲からとやかく言われるのは避けられない――今の僕が、すでにターナ派にあれこれ言われている通り。


 口で否定しても、王宮で生きてきた彼女を納得させるのは難しい。

 でも、僕にとってイライザは大切な人なんだ。

 諦めたくなんてないし、泣かせたままでもいたくない。


 どうしたら……?

 その時、ふっと閃いた。

 周りを気にするからいけないんだ。


「…………イライザ、全部終わったら……二人きりで隠居する? 王宮から離れてさ」


「ジル様……!?」


「王宮暮らしは、僕にはそんなに合わないし……僕は、イライザと一緒にいたい」


 家はフィオナが継いでもいい。

 名目的には妹にも爵位が認められている。

 おかしくはない。


 戦争が終わればレプリカを《血液操作》で使うこともなくなる。

 僕の役割も、それまでだ。

 これまでと同じように重用されるかどうか、わからない。


 まぁ、うまけいけば死ぬまでお金に困ることはないだろうし。


 それよりも、イライザを愛している。

 気兼ねなしに彼女といられる方が、ずっといい。


「……それじゃ、駄目かな」


「………………」


「イライザ?」


「そんなことを言われたら…………甘えたくなります…………」


「いいんだよ、甘えてよ」


「…………うううっ」


 もぞもぞと僕の胸の中で、イライザが悶えていた。

 かわいい。


 ぽんぽんと頭を撫でる。


「…………でも、ジル様」


「でも禁止」


「…………しかし…………」


「……それも禁止」


 僕は青い髪を撫でながら、呟いた。


「イライザの気持ちだけを、聞かせてよ。周りがどうのじゃなくて」


「…………私は……私も…………」


「続けて?」


「ジル様と一緒にいたい、です」


 よかった。

 同じだったんだ。

 僕はイライザの肩を起こして、真っ直ぐに目を合わせた。


 真っ赤な頬に、泣きそうな瞳。

 愛しい人の、顔。


「僕もだ」


 ゆっくりと顔を近付けて、僕は彼女にキスをする。

 イライザは、逃げなかった。


 やっと通じ合えた気がする。

 唇の感触が、それを確かにしてくれる。


 少しして唇を離すと、イライザが泣いていた。

 僕の瞳も、潤んできた。


 いつの間にか、抱き合って二人して泣いていた。

 でも、悪い涙じゃない。


 僕達はそれをもう確信している。

 手を繋げ、愛し合えることの涙なのだ。

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