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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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181/201

出立③

「な……! 大公ッ!?」


 サイネスが驚愕しながらナハト大公を見ていた。

 いち早くイライザがナハト大公へと深々と礼をする。サイネスへと鼻を鳴らしたツアーズも、それにならった。


「ご足労頂きまして、まことに恐れ入ります」


「なんのなんの、元はわしが言い出したことゆえのう。区切りくらいは、顔を出さねば。でなければ、収まらぬ者もいよう」


「……ぐっ……」


 まさにその真っ最中だったサイネスは、歯噛みして押し黙るしかない。

 さすがにナハト大公相手に、ツアーズと同じ様に食って掛かるのは不可能だった。


「血気盛んなのは喜ばしいことではあるがのう、サイネスよ。ツアーズも困っておろう。わしでよければ、代わりに聞こう」


 太い身体を揺らしながら、ナハト大公が教壇に近づく。彼の言葉に不満や苛立ちは少しもない。

 むしろ、親戚の子どもに言い聞かせるかのような調子だ。


 サイネスは一度目を閉じて呼吸を整えると、


「なら、お伺いしよう。なぜジル男爵を将軍に? しかも3000の兵を委ねるなど、いささか過大評価が過ぎるのではないか。無論、歳も若すぎる……率直に言って、私を含めて皆が不安を抱くのもわかろうというものだ」


 と、一息に言い切った。


「ほうほう……ひとつずつ答えていくとしようかの。まずジル男爵を将軍にしたのは、聖教会の意向もあってのこと」


「聖教会……?」


 サイネスの訝る声に、僕ははっとした。僕が守護騎士になることも、知らないのだ。


「もう公にしてもよかろう。そこのジル男爵は、この出陣の前に700年間、空位になっていた守護騎士に就任する」


「なぁっ!?」


 一気に講堂内がざわめく。イライザは少し、得意気だ。


「これは決定事項ゆえのう。もはや覆る余地はない」


「ば、ばかな……守護騎士、だと……?」


 わなわなと震えるサイネスが、イライザを見て――僕に視線を移す。紛れもなく、困惑していた。


「ええ、少し前から内定されています」


「知ってたのか、それを……」


「無論です」


 言葉を無くすサイネスを置いて、ナハト大公は続ける。


「アラムデッドの騒乱は、かつてない危険が――死霊術師の災いがあることを明らかにした。それを未然に防いだジル男爵の功績は大きい。いまだ全てを明らかには出来ぬが、聖教会もジル男爵を高く評価しておる」


 こほん、と咳払いをしたナハト大公は、ライラに立つように促す。


「……ここにおられるのは、高等審問官のライラ殿だ」


 講堂の貴族たちがぎょっと固まる。

 僕も初対面の時は、そうだった――審問官に対する警戒心は、貴族でも拭い去れるものではない。


 軽くお辞儀したライラは、


「あえてこれまで身分は語りませんでしたが、改めまして。高等審問官のライラです。ナハト大公の仰ることは全て事実――守護騎士になるジル様には、教主も多大な期待を寄せています」


「うむ、その通りじゃ。守護騎士の名は……重い。それなりの立場を与えねば、示しがつかぬでな」


「し、しかし……いくらなんでも、荷が勝ちすぎる。皆もそう思うであろう!?」


 なおもサイネスは呼び掛け、食い下がる。


「ジル男爵の成績を、そなたも知っておるはずじゃが……。補佐としてガストン将軍をつければ、問題はなかろう」


「だ、だが! 聞いたことがない! 男爵で20歳未満で、将軍などと……!!」


「たしかに前例はないのう……」


 そこでナハト大公はわざとらしく、ため息をついた。


「困った、そなたらがここまで反発するとは…………。これでは【戦後】も考え直さなければならんな」


「……戦後?」


「どうあれ、ブラム王国の領土は大幅に削られる。ヘフラン派遣軍はそのまま、ブラム王国へと反攻させ――領地は切り取り次第にしようかと思ったのだが」


 それは初耳だった。これまでの大陸の戦争では、領土は結局奪い奪われだ。

 特に三大国の領土は、数百年単位で見ると大きく変わってはいない。


 しかしナハト大公の発言は――それを崩す、というように受け取れる。

 ブラム王国を滅ぼし、その土地をディーン王国の支配下にすると聞こえた。


「若いそなたらに先陣と武功の機会を――と思ったじゃが……余計なことだったか?」


 くすぐるような調子で、ナハト大公は講堂の貴族を眺めた。

 少しの沈黙の後――グロノ子爵の矢のような叫びが響いた。


「大公様、そのお言葉は本当ですか!? 武功によっては、さらなる領土も……!」


「二言はない。フィラー帝国とも、大筋で合意しておる……つまりは早い者勝ちじゃ」


 その言葉で、ぎらりと貴族たちの目の色が変わった。

 それはサイネスの敗北のように、僕には思えた。

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