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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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179/201

出立①

「あ、ありがとうございます」


 つっかえながら返事をする僕の背中を、トーマがばんばんと叩く。力が入りすぎて、ちょっと痛いくらいだ。


「男爵程度の年齢で、俺とここまで戦えるとはな……。誇っていいぞ、筋がいい!」


「は、はぁ……」


「さて、他にも稽古をつけて欲しい奴はいるか!? まとめてでもいいぞ!」


 トーマの一声に、外野から反射的に声が出る。サイネスの組以外、ほとんど全員が名乗りを上げていた。


「で、では私から!」


「俺もつけてもらいたい!」


「抜け駆けするな、俺もだ!」


「はっはっは、よおし。こっちに来い! 付き合ってやるぞ!」


 そのまま上機嫌なトーマは僕たちからちょっと離れていく。周囲からの注目とヤジが、やっとなくなった。


「本当に大丈夫なのですか……?」


 いまだに心配そうなイライザに、軽く微笑む。本当に身体の痛みは取れている。

 世の中には凄いスキルがあるものだ。


「大丈夫だよ、ちょっと疲れたけれども」


「心臓が止まるかと思いました……」


 トーマのスキルによって、むしろ身体は快調だ。でもそれを表に出すと、せっかくの口裏合わせが台無しになる。


 なんとなく眉を寄せながら、サイネスの方を眺める。

 彼も眉を寄せて、僕の方を見ていた。


 でも視線はぶつかり合うことなく、サイネスは僕の視線に気づかない。


「……どうかしましたか、ジル様?」


「あ……いや……」


 サイネスの反応を見ていた、とは言えず。僕に合わせて、イライザが顔を傾ける。


 同時に、ばつが悪そうにサイネスが視線を切った。


(ああ、なるほど……彼が見ていたのはイライザか……)


 サイネスが僕に仕掛けてきたのは、イライザやライラのことがあるかも――もしかしたら、それだけが理由なのかも知れないが。


 なんというか、僕には理解しがたい。諦めるのが美徳とは言わないけれど、度を越している。


 とはいえ、なんとか傷も負わずに終わらせることができた。

 精神的に疲れたのは事実なので、原っぱに腰を下ろす。


 厳めしい顔をしたツアーズが、


「……大丈夫か?」と気づかってくれる。


「はい……疲れましたけれど」


「さもありなん。今日の出番は終わりだが、どうする? 自室に戻っても構わないが」


「いえ、最後まで見ていきます」


「わかった、こちらは気にするなよ」


 トーマたちは大人気で、手の空いた者とずっと手合わせをしている。

 じっと他の人たちを眺め、さっきの対戦に思いを馳せる。


(神聖魔術を――持てる全部を使えば、どうだったのかな?)


 トーマはサイネスの話に乗った振りをして、僕にケガをさせるつもりはなかった。

 全力ではなかったわけだけど、本気の本気なら……。


「……欲しいなぁ……」


「どうしたんですっ? たそがれて」


 アエリアの声に、引き戻される。


「ん、いや……本物の騎士って強いなって」


 答えになっていない気がするけれど。

 でも、僕は改めて思うのだ。


 あんな風に、強くなりたい――と。



 ◇



 それから毎日が飛ぶように過ぎていった。

 午前は鍛練、午後は座学。

 ターナ派からのやっかみはなくならなかったけれど、王宮内での扱いは多少変わった。


 それは多分、トーマとの決闘のおかげだろう。あそこまで戦えたのは、本当に珍しいことらしかった。


 王宮の騎士から宴に誘われ、話をせがまれることさえあったのだ。

 座学の時間でも、ばりばりのターナ派はしょうがないとして――中立に近い人たちの態度は軟化していた。


 ガストン将軍の帰還が近づく中、座学の時間でツアーズから告知があった。


「次の日は全員必ず来るように。現時点で配属が決定した者を発表する」


 講堂の空気が、熱を帯びる。あるものはヒソヒソ声で隣と会話を交わし、あるものは落ち着きなく貧乏ゆすりをしている。


「明日、配属が決まらなくともチャンスはある。選ばれた者も、気を抜けば交代させられることはありうる。最後まで、気を付けるように」


 僕は前に、ナハト大公から3000の兵を率いるようにと通告されている。

 筆記でも実技でも問題はないはずだ。


(気になることがあるとすれば、やっぱりサイネスか……)


 ヘフランへはサイネスも出陣する。

 ディーン王国の慣習として、戦地では貴族位よりも率いる兵数によって序列が決まる。


 兵を持たず大きな顔をする貴族のせいで、失敗するのを避けるためだ。

 そういう意味では、3000の兵はかなりの影響力になる――おそらく、ヘフラン派遣軍では3番以内には入るだろう。


 その日の夜は久しぶりに胸が高まって、眠りが浅くなった。

 ……どんな軍の編成になるのだろう?

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