模擬戦①
チーム戦……?
個人戦もしていないのに、急な話だった。
僕が首を傾げていると、
「ふん……午前の調練に来ない頭でっかちの男爵様に、戦えるものかよ」
「ああ、目にモノを見せてやろうぜ」
……周囲の貴族から、そんな声がちらほらと聞こえてくる。ライラがそっと近づいて、僕に耳打ちをする。
「すみません――午前中、他の貴族は他の貴族で集まって訓練をしているのです。私たちは神聖魔術などがありますから……」
「なるほど……同席してやるわけにはいかないのか」
ライラがこくりと頷く。神聖魔術は聖教会の秘術だ。今でも、僕たちは訓練所をひとつ貸し切って使っている。
事情を知らない他の貴族には、身体を使う訓練をサボっているように思えるのだろう。
「チームを組む制限は特にない。互いに合意して5人が組めば良い。チームのリーダーは私に名乗り出ること、以上だ。30分で諸々の準備を含めて決めたまえ――すぐに模擬戦を始める」
ツアーズは言い切ると、教壇に椅子を引いて腰かけた。
僕のチームは僕自身にイライザ、アエリア、シーラ、ライラの5人でもちろん決まりだ。悩むまでもない。
「で、誰がリーダーをやるかだけど……」
『ジル様です!』
「……そ、そうなる? 声を合わせなくても……」
模擬戦なんだし。
多分、武器を打ち合うならシーラやライラの方が強いよ?
『じーっ……』
「わ、わかった……」
言ってみただけなのに。気圧されるまま、ツアーズに報告する。
さらさらっと名前を書き写したツアーズは、目線を紙に落としたまま、呟いた。
「切り札はできることなら、見せないように。あと、くれぐれも無茶は避けなさい」
「……それは……」
「今日のこれは、ターナ公爵の差し金だ。それしか言えん」
それっきり、ツアーズは口をつぐんだ。
「お言葉、感謝します」
小さく礼をして、僕は下がった。
やはりターナ派の嫌がらせ――あるいは、偵察かもしれない。
他の貴族たちも出身や血縁でまとまっており、チーム分け自体はスムーズなようだ。
元々、嫡子ではないが宮廷にそれなりの繋がりがある貴族ばかりだ。
あっという間に10組ほどのチームが出来上がった。
全員が分かれたのを確認したツアーズは、
「よし――では野外訓練所に移動する。ついてきなさい。模擬戦の概要は、リーダーに紙で渡す。各々、歩きながら確認するように」
ツアーズは合理的に物事を進めていく。
従者から渡された紙には、次のようにあった。
『模擬戦は最初に二人同士で戦う。次にリーダーを含む三人同士で戦う。戦う順番は各チームで決めること』
ふむ、勝ち抜き戦ではないのか。
結局全員が戦うわけだけど――割り振りはよく考える必要がありそうだ。
最初の二人は前衛で、後の三人が後衛といったイメージだろうか。
『重傷を負わせるような攻撃は禁じる。武器は当方で用意したものを使うこと。スキル・魔術については使用制限はない』
あ、僕の《血液操作》が使える。
この類いの模擬戦では、スキルの使用は禁じられることが多い――強いスキルの持ち主が有利すぎるからだ。
身のこなしや精神的タフさを見たいときには、スキルは邪魔にしかならない。
それが今回は許されている――ということはかなり実戦的な戦いになるだろう。
『時間は一戦五分間とする。勝敗だけでなく、決着に至るまでの過程も重視する。無様な戦いはしないように』
これはまぁ、そうだろう。
スキルの相性によっては一瞬で決まることもありうるが――勝負を投げたり、恐怖に負けることの方がよほど問題なのだ。
戦場では、貴族は常に前線に立つわけではない。それでもスキル持ちの敵精鋭と戦う可能性がない訳じゃない。
そうした時に慌てふためき、統率を乱すようでは話にならない。
そうでなくても、敵は死霊術師なのだ。どのような戦術を仕掛けられても――味方が屍となっても動揺してはいけない。
回廊を歩きながら、僕は組分けを考える。
まず僕はリーダーなので、後の三人組に決まっていた。問題は残りをどうするか。
イライザが紙を覗き込みながら――ちらっと僕を見る。
「危険を避けるだけなら、私とライラ様とジル様で一組作る方が……」
「……戦力がちょっと片寄ってない? 危険があるとしたら、僕だけじゃないと思うけど」
「それは、そうですが……」
そうこう話しているうちに、回廊を抜けて野外訓練場へと到着した。
訓練場は一面を芝生に覆われ、周囲を小さな林に囲まれている。
林との境界には、魔力に満ちた柱が何本も立っていた。
からっと晴れた、陽気な天気だ。
身体を動かすには、ちょうどいいと言えた。




