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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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鍛錬②

 イライザの魔力が広がり、僕とシーラの足元を淡く照らす。

 彼女は僕を見ながら、


「……実を言うと、私も神聖魔術が使えたようです」


「うん……? 使えたようって?」


「宮廷魔術師になると、魔力増強法を教わるのですが……それが神聖魔術のようでした」


 イライザの言葉をライラが首肯する。


「シーラちゃんも同じですね。神聖魔術にはいくつかの側面がありますーーしかし、体系的に教えることができる人は、数少ないはずです。恐らくは各々、継承できるところだけを引き継いでいたのでしょう」


「多分、そうでしょうね。私の師も、神聖魔術と意識はしていなかったと思います」


「……なるほど。イライザは魔力が強くなる神聖魔術が使えるーーってことなんだね。色々あるんだなぁ……」


 僕の言葉を受けて、ライラがぴょこんと狐耳を立てる。


「神聖魔術には【強靭】【瞑想】【付与】の3つの系統があります。【強靭】は私やジル様、シーラちゃんの使う身体能力の強化です」


 イライザが魔力を弾けさせて、


「【瞑想】が魔力の強化ですね。私が習得しているのは、実はこれでした……」


「魔術が苦手なので、私は【瞑想】を使えません……【瞑想】は魔術師のための神聖魔術ですね」


「……最後の【付与】は?」


 僕の言葉にライラが狐耳をぺたりと伏せた。


「わかりません……。聖教会でも使い手が見当たらないーー少なくても私から見て、誰も名前しか知らないのです」


「途中で失伝したってことかな……」


「あるいは、高等審問官の私にも教えられないのか。まぁ、いずれにしても今は気にしないでください」


 ライラは言葉を切って、シーラを見た。


「……そろそろ行きますです」


 シーラはしゅしゅっと拳を振るう。すでに動きが半分見えないけれど。


「私は結界を張っています……この中なら、相互に傷つかないようにできます。衝撃を和らげますので」


「わかった……」


 どうやら、結構本気でやることになりそうだ。これで全員が神聖魔術を行いながら時間を過ごすことになる。



「ジル様、シーラちゃん……あくまで動きを洗練させるためですからね。神聖魔術を維持するのを最優先にしてください。イライザ様も【瞑想】をずっと続けるように」


「はい……!」


「わかりました! いくよ、シーラ!」


 僕はかけ声とともに、進み出た。

 じわりと距離を詰める。

 シーラの動きを注視するがーーぐっと踏み込んだかと思うと、彼女の姿がかき消えた。


「……上っ!」


 シーラは一気に跳躍して迫ってきていた。

 木剣でシーラの打ち下ろしを防ぐ。

 重い一撃に、体勢が崩れそうになる。


 シーラは着地して、今度は回し蹴りを放つ。

 身体を反らし、なんとか避ける。


「ぐっ……!!」


 シーラはそのまま、飛び込むように突進してくる。

 正解はーー横に飛ぶか、薙ぎ払うかすること。


 頭では思い浮かぶけど、そこまでだった。

 シーラの動きについて行けず、神聖魔術も解けてしまう。


「うわ……っ!」


「……あう」


 衝突するかと思ったけれど、触れる瞬間に魔法陣が強く輝いた。

 シーラが僕の腰にしがみつくような形になりーーそのまま転んだ。


 痛みも衝撃もない。

 単にもつれてーー柔らかいベッドに倒れこんだみたいだ。


「だ、大丈夫……?」


 胸の中にシーラを抱きとめるような形になる。


「は、はいです……ご主人様」


 柔らかい感触と、しっとりとした香水の匂いがする。

 ぐりぐりと頭を擦りつけて、シーラは離れた。


 ……なんだか甘えられてる?

 そんな風に考えていると、ライラから声が飛ぶ。


「なるべく神聖魔術を切らさないように……ダメージはイライザ様の魔術で極限まで抑えこまれていますが、神聖魔術が解けた時点で仕切り直しです。色々動いて、戦う時間を引き伸ばしてください」


「わかりました……!」


 便利な魔術だ。これなら怪我を心配せずに戦える。


「ライラ様が私を呼んだ理由がわかりました……この防御結界は消耗が激しいので、あまり使い道がないのですが……」


 イライザは目を閉じて集中を高めているようだ。


「ふたりの動きが、手に取るようにわかります……身体の芯から、鋭い閃光が走っているようですね」


「それが神聖魔術です。イライザ様なら、なんとなく魔力の流れを掴めるのでは?」


「はい……【強靭】の技術的側面を感じます。私にも、得るべきものは多いですね。それに…ジル様にも驚きました。シーラの攻撃を防げるのですから。本当に達人級の動きが身に付きつつあるようです」


「そ、そう?」


「ええ、鎧を引き裂くような一撃ですよ? ディーンの騎士でも、最上位の力があるはずです」


「……そう言えば、そうだったね」


 僕とシーラだけでなく、イライザもまた強くなれるのは良かった。

 補助をやらせて置いてきぼりでは心苦しい。


 後はアエリアだけどーーちらとアエリアの顔を見る。

 ぐるぐると、とにかく無我夢中みたいだった。


「ふむ……さすがヴァンパイア。筋は悪くないようですね……」


「は、はい!! ありがとうございます!」


「……これなら多少は使い物になりそうですね」


 どうやらアエリアも問題はないらしい。

 いやまぁ、アエリアはただのメイドなんだけど。


 とはいえ、僕たちは戦いに向けて力をつけることになる。

 誰も死なないようにーー何が待っていたとしても、だ。

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