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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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152/201

ヘフランのアルマ②

アルマ編は今回で終わりです。

「はぁ……」


 アルマは生返事をしてしまった。

 ラバートはすっかり意気込んでいるがーー野蛮なこと、この上ない。


「ラバート将軍、それはあまりに……」


 ライオットも咎めるものの、ラバートは意に介する様子もなく、


「訓練所にて待つ!」


 と言い放ち、中庭から立ち去った。

 残されたのはアルマとライオットだ。

 気まずい空気が流れるなか、アルマはため息をついた。


「強引な方ですわ……。逃げても色々言われそうですわね」


「受けて立つのですか!?」


 ラバートの言葉にも一理はある。

 これからを円滑に進めるなら、どこかで証を立てなければならないのも事実だろう。


 建前はそうであるがーーアルマは内心、あまりの物言いに怒っていた。

 アラムデッドにいた頃では考えられない無礼さで、ラバートはまくし立てたのだ。


 驚くライオットに、アルマは目を閉じて答えた。


「……もちろん怪我をしないよう条件を付けますが。負けはしないと思います」


 この300年、アルマはあらゆる挑戦を受けてきた。王都を襲った教団に比べれば、何の恐れがあるだろう。

 腕は立つかもしれないが、所詮はただの人間だ。


「立ち会いをお願いしますわ、ライオット様」


 太陽が城の影に移り、闇が徐々に広がっていく。

 アルマは苛立ちを感じながら、雑に白い髪をかきあげた。



 ◇



 夕陽が完全に落ちた頃、城中の訓練所にアルマはいた。

 相対するのは、ラバートだ。


 魔力灯が、ぼんやりと青白い光を放つ。

 100mほどで区切られた四角の部屋に、数十人の見学者がいる。


 彼らは呼び集められた将官であり、固唾を飲んでふたりを見守っていた。

 ライオットは審判として、部屋の中央にいる。


 アルマとラバートの手には、木剣がある。

 ルールは単純、一撃でも入れた方の勝利。そして致命的な攻撃は行わないこと。


 とはいえ、見学者たちは不安げにアルマを見ていた。

 2メートル近いラバートと150センチしかないアルマでは、体格が違いすぎる。


 まともに打ち合うだけでも、大けがに繋がるのでは。

 それが見学者の共通した考えだった。


「逃げ出しはしなかったか」


「……理由がありませんので」


「双方、準備はよろしいですか……?」


 ライオットは不安げに、ふたりを見た。

 アルマも騎士とは長年、接している。騎士同士が決闘沙汰になることは珍しくない。


 ディーン人は名誉を重んじ、必要な戦いは躊躇しない。

 結局ライオットも止めなかったのは、その辺りが絡んでいるのだろう。


「俺はいいぜ」


「いつでもどうぞ、ライオット様」


「……ええい、始め!」


 ぶん、とラバートが片手で木剣を振るって構えをとった。

 思ったよりも正統派な構えでラバートは向かってくる。


「ふぅ……仕方ないですわ」


「剣は不得手か? 氷の魔術を使っても構わんがな」


 せせら笑うラバートに、アルマは首を振る。

 じりじりと近づくラバートに対して、アルマは無造作に剣を構えた。


「あなたには必要ありません。剣で勝ちますわ」


 アルマは意識を集中させ、周囲の魔力を取り込み始めた。

 神聖魔術【強靭】ーー想像を絶する速度や筋力を働かせる技術だ。

 300年生きる中で最も得意なのは氷の魔術であるものの、アルマは一通りの武術も体得していた。


 そもそもヴァンパイアは人間種族で最強だ。

 しかも、今は夜。


 ラバートが腰を少し落とし、一気に踏み込んでくる。

 人間であれば脅威といってもいい速度だ。言うだけあって、かなりの技量を持っている。


 しかし、アルマは冷めた目でラバートの動きを見ていた。


「遅いですわ……」


 打ち下ろす瞬間が、アルマには手に取る様にわかる。

 軽く握った木剣を滑らせるように、ラバートの横を駆け抜けーーしたたかに脇腹を打った。

 全てが、まばたきよりも短い間の出来事だ。


 ライオットはしっかりと木剣の動きを追っていた。

 しかし、会場にいる者の中でも目視できたのは数人だけだろう。


「ぐはっ……! げ、げほ……」


 ラバートの後ろにアルマは回りーー悶絶する彼を見下ろした。


「これでよろしくて?」


「勝負あり!」


 あっさりと終わってしまった。

 見学者のほぼ全員が目を丸く、驚愕している。

 そのままラバートを捨て置き、アルマはライオットの元へと駆け寄る。


「……見事でございました」


「はぁ……フィラー帝国を牽制するのに、今のやり取りは役立ちますか?」


 アルマはライオットに小さく尖った声を出した。

 でなければ、あまりに納得できない流れだ。


 大方、兵を出したラバートが増長していたのだろう。

 元よりディーン王国とフィラー帝国の仲は良くない、しかし共に戦わなればならない。


 アルマが来たのはディーン王国の要請があってのことだ。

 フィラー帝国のラバートが面白いわけがない。


 軽く誘導すればーーいや、しなくても飛びかかってきたのかもしれないが。


「そこまで……お分かりですか」


「神聖魔術の使い手とそうでない者の差は覆しがたいですわ……。神聖魔術を知っている者ならば、常識です」


 アルマは少し疲れたように肩をすくめた。


「貸しひとつ、ですわ」

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