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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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151/201

ヘフランのアルマ①

 ジル一行がイヴァルトへ旅立ったのと同じ頃。

 アルマは参謀として城塞都市ヘフランへ着任していた。


 夕焼けが畑と林を赤く照らし、城壁に囲われた街と城をも茜色に染め上げている。

 事前の打ち合わせ通り、城の中庭へと下っていく。


 飛行騎兵から優雅に降りると、白い髪をなびかせて誰ともなくアルマは呟く。


「思ったより、堅苦しい場所ではないのですね」


 城壁も高くはなく、水堀もない。

 壁の内側には城下町があり、上空からでも非戦闘員が大勢いることが見て取れた。


「ここは穀倉地帯が近く、交易の拠点でもありますゆえ……お初にお目にかかる、アルマ殿。ヘフランを預かるライオット・マークと申します」


 きらびやかな護衛を連れて現れたのは、40代くらいの騎士だった。

 金髪碧眼でいかにも貴族出身の品の良さが、にじみ出ている。


 顔つきは細いが、しかし眼光は獅子のごとく鋭い。

 軽装鎧も震えるほどの魔力を帯びて、ほのかに青白く光っている。


 アルマはライオットの名を聞き、即座に片膝をついて頭を垂れた。


 初対面ではあるが、アルマはライオットの名前をよく知っていた。

 ディーン王国の誇る最強の《三騎士》のひとりだ。ヘフランの総大将でもある。


「貴殿の御高名は常々うかがっております。アルマ・キラウスと申します。貴国とーー大陸の安寧秩序のため、軍議の末席に加わるべく参上いたしました」


「これは恐れ入ります……お立ち下さい、我々こそアルマ殿の高名は聞き及んでいますよ」


 屈託なく手を差し出すライオットに、アルマは遠慮気味に立ち上がった。

 正直なところ、ナハト大公のお墨付きがあるとはいえーーヘフランの駐留軍にどう思われ扱われるかアルマは懸念していた。


 普通なら、他国の宰相からいきなりの鞍替えである。信頼はされないだろう。

 しかも己の軍兵を持たない参戦だ。ありがたみも薄い。


「……ありがとうございます」


 ライオットはまず、可もなく不可もなくの対応だった。

 なるべく早く、ヘフランの将全員と個別に接触した方がいいだろう。


 自分の立ち位置をよく確認しなければ。

 アルマがつらつらと考えていると、荒く野太い声が響き渡った。


「まるで幼子ではないか!? 戦場に揺りかごはないぞ!」


 もじゃもじゃの髭に、赤ら顔の大男が現れる。

 アルマは鋭敏な感覚で、大男から漂う酒気に気がついた。

 顔をしかめそうになるのを、自制する。


 ここでは客分だ。何事も控えなければならなかった。

 大股で威嚇しながら歩く男に、ライオットはたしなめるように声をかける。


「幼子とは、また礼を欠いていますね。この御方がアルマ殿ですよ。アルマ殿、こちらはフィラー帝国のラバート・ブロウ将軍です」


「……アルマ・キラウスと申します。お初にお目にかかります、ラバート将軍」


 アルマは丁寧にお辞儀をして、挨拶する。

 まさか、すでにフィラー帝国の将がいるとは思わなかった。

 ヘフランはフィラー帝国と接していないとはいえ、一大軍事拠点だ。


 長年ディーン王国はフィラー帝国と争ってきたはずだった。

 にもかかわらず、早々にフィラー帝国との共同戦線を認めるとは、かなり割り切っている。


 アルマはぼんやりとジルの父親がフィラー帝国との戦争で戦死していることも思い出した。

 それもつい1年前の話のはずだ。


 過去の遺恨を棚上げにせざるをえないほどに、状況は良くないのかも知れない。

 アルマはさらに、記憶の中からラバートの名前をひっぱり出していた。


 アラムデッド王国はフィラー帝国とは国境を接していない。ほんのちょっと外交の場で顔合わせした程度の情報しかなかったが。


(たしかラバートはフィラー帝国の内陸にいる貴族ですわね……昔、ブラム王国と交戦した経験がーーあったような)


「ふん、ラバート・ブロウだ……。ライオットよ、本気で彼女を軍議に加えるつもりなのか?」


「無論です。ナハト大公もそのように仰せです」


「元々はアラムデッド王国がこそこそ隠し事をして、教団につけこまれたのが原因ではないか! 信用できるのか!?」


「ラバート将軍、言葉が過ぎますよ。ヘフランにおいてはディーン王国が主導権を持っています。従えないなら……」


 アルマは頭を抱えたくなった。

 いきなり、自分が原因で内輪揉めが起きてしまっている。


 ディーン王国とフィラー帝国との関係を考えれば、無理もない。

 それに自分の評価を考えればーーフィラー帝国ではアルマの名前はさほど意味を持たない。

 国としてのフィラー帝国は、アラムデッド王国の数倍の大国なのだから。


 どうするべきかとアルマが思案をしていると、ラバートは歯を剥いて唸り出した。


「他の連中もすんなりと納得はするまい。なにか、証がなければな」


「……と、申しますと?」


 アルマが見上げると、ラバートは拳をべきべきと鳴らした。


「決まっていよう! アラムデッドでは、自ら教団の手先を退けたのであろうが。模擬戦だ! 力を示してみよ!」

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