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次なる任務①

 それから一週間ほど、僕たちはイヴァルトに滞在した。

 後処理を行いながら、事の顛末を飛行騎兵でナハト大公へと報告したのだ。


 ナハト大公からの返書には、後処理が一段落したら帰還するようにと書いてあった。

 予想通り、僕の任務は一段落したと判断されたのだ。


 ベヒーモスを討ってからは、晩餐会やらにひっぱりだこだった。現金なもので、イヴァルトに来た当初とはずいぶん対応が違う。


 とはいえ、それは僕たちの行動が変化を与えたということに他ならない。

 最後の夜に盛大なーーイヴァルトの有力者が集まっての晩餐会を行い、僕たちはイヴァルトを離れた。


 それから、来た道を再びディーン王国へと戻る。

 イヴァルトとは全然違う塩気のない風が、大河から離れていることを物語っていた。


 帰還後ナハト大公の執務室へ、僕とイライザとライラはすぐに呼び出された。


 大きめの身体を揺すりながら、微笑んでいる。よかった、上機嫌なようだ。


 僕たちが席につくと、ナハト大公は開口一番、


「任務、ご苦労であった。報告は受け取っておる……バルハ大司教を生きて連行できなかったのは残念であるが、上々と言うべき結果じゃな」


「ありがとうございます……!」


「想像以上に早くイヴァルトの勢力図を塗り替えたことで、今後の戦略も変わってこよう……無論、そなたらの得た造船の情報も含めてじゃ」


「はっ……恐縮の至りです」


 ナハト大公は、そこで言葉を切った。

 一枚の書類に視線を落としている。


 眉を寄せ、ことさらに強調するようにナハト大公は言った。


「……ブラム王国からの亡命者がイヴァルトにいるとな」


 やはり聞かれた。ロアのことだ。

 彼女の名前は伏せて、単なる亡命者ということにしている。

 間違ってはいないし、仮に問い合わせがあってもイヴァルトは知らぬ存ぜぬを通すだろう。


「……はい。死霊術への忌避から、大河沿いの商業都市へ逃れようとする者が多数いるようです」


「ふむ……連合軍に逃れるより、中立よりの独立商業都市へと向かうか……」


 ナハト大公は、少しだけ身体を前に出した。

 老獪な政治家の視線を、僕は受けている。


「わかっておろうがーー逃れた者が単なる農民や兵士程度ならばよい。しかし貴族や騎士といった、スキル所持者ではそうもいかぬ」


「……心得ております」


 胃が痛くなるよう話だった。

 おくびにも出さないようにしなければ……と思っていると、ナハト大公はころっと雰囲気を変える。

 いくぶんか、僕を面白げに試すような感じで。


「くれぐれも、その辺り……肝に命じるように。漏れがあっては、意味もなくなる」


 もしかして、ナハト大公は全てを知っているのでは?

 そう思わせる変わりようだった。


「……はい」


「そう、固くなるでない。逃れた者を厳しく罰しても得がないのは、為政者ならわかろうというものじゃ……示しがつかぬと言えなくもないが、締め上げるのが常に正解とは限らん。のう、ジル男爵よ」


「仰せの通りかと……」


「うむーーそなたもわかっているのなら、よい」


 そこでナハト大公はイライザに視線を移した。


「イライザよ、そなたもご苦労であった。報告書も大変読みやすかったわい」


「お褒めに預かり、光栄にございます」


「そなたには引き続き、ジル男爵の補佐をしてもらおうと思っておるのじゃが……構わぬかな?」


 僕は心の中で、歓声を上げた。

 恐れていたことのひとつが、イライザと別れ離れになることだ。

 でも、ありがたいことにナハト大公にはまだそのつもりはないらしかった。


 イライザも安堵の息を吐いて、


「はい、異存はありませんーー大公閣下」


「年が近いゆえかの、そなたらの相性はとても良いようじゃ……今後ともよく相談をしながら、任務をこなしてもらいたい。さてーーライラ殿」


 ナハト大公はライラに向き直る。

 顔つきはイライザに対するのと、さして変わらないように見えた。


「そなたは聖教会の所属であり、こたびの任務は正式には教皇様より命を下された形になっておる」


「……私はそのようには考えておりません。連合軍として、我々は一体です」


「ふむ……それは今後ともディーン王国と歩調を合わせるーーあるいはその下で働くという意味でとらえてよいのかの?」


 ナハト大公が、あごを撫でながら興味深そうに問いかける。


「もちろんです、閣下」


「……あいわかった、そなたもジル男爵が気に入ったか」


「いささか、危なっかしいですが」


 即答するライラ。

 今回も覚えがあるだけに、ぐさりとくる。


「うっ……」


「ほっほう、それはわしも少し感じた。ライラ殿なら、また違った視点からジル男爵を支えられよう」


 ええっ……?

 むしろ、僕が抑える側では。


 ちらとそんな風に思ったけれど、ライラは胸を張ってナハト大公の言葉を受けた。


「お互いに、良き影響を与えられるでしょう」


「……自覚はあったんだね」


「何か?」


「なんでもない……」


 ぽろっとこぼした僕に、ライラは目を細める。

 危ない。気安くなったとはいえーーにらまれていいことなんてなかった。


 ナハト大公は咳払いをひとつすると、重々しげに言葉を放つ。


「ふむ、そなたら3名は組んだままで良さそうじゃな。……その上で、諸君らに次なる任務を言い渡そう」

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