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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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143/201

大河、闇、雨⑥

 監獄にまで戻った僕は、他の皆も無事なのを確認する。

 これより堅牢なのは、イヴァルトでは議場くらいだろう。とりあえずの避難場所としては申し分ない。


 監獄の中はすでに避難してきた名士たちで、かなり手狭だ。

 潮と雨の臭いがこもり、気持ちは良くない。


 窓から見ると、モンスターは溢れんばかりに上陸しつつある。ガストン将軍がどれだけ持つか、わからない。


 それでも幸運ではあった。

 この数日、接触してきたイヴァルトの有力者も監獄に避難している。


「あっ……ジル様、ちょっと待ってくださいね!」


 アエリアが人だかりから、ノルダールを突き出すように連れてくる。

 めざといーーそして、ありがたい。


 今となっては、イヴァルトが戦場になってしまった。

 なんとか協力して戦わなければならないがーーノルダールは異常事態に打ちのめされてるようだ。

 目は虚ろにぶつぶつと、


「……なんなのだ、これは……?」


「バルハ大司教が、最期に呼び寄せたようです……ガストン将軍がなんとか防いでいますが、すぐに助けないといけません」


 ノルダールの瞳に、ふっと計算高く利己的な知性が浮かんだ。

 今はあれこれ、言い合いたくはなかった。


「……これは連合軍とブラム王国の……」


「そんなことを言っている場合ですか!?」


 僕は声を荒げて、ノルダールの言葉を遮った。


「あのカバは何度もガストン将軍の陣を襲ったんです! 奴は普通じゃないーーここで倒さないと、何度でもイヴァルトを襲いますよ!」


 神妙な顔をしたライラが言葉を継ぐ。


「聖宝球の力を受け付けない……信じがたいことですが、この意味はおわかりでしょう。……イヴァルトにとっても、存亡の危機です」


 都市が存在できるのも、聖宝球の力でモンスターを寄せつけないからだ。

 特にグラウン大河は広大でモンスターも多い。聖宝球を無視してモンスターが現れ続けたら、イヴァルトもいずれ荒廃するだろう。


 そのことに気がついたのか、ノルダールの目が見開かれる。他の名士たちも口々に叫び始めた。


「それは……困る!」


「……なんとか……! 助けてくれ!」


 とりあえず、統率を取らないといけない。僕は片手を上げて、彼らを制した。


「ノルダール副議長、あなたがここの最高位の責任者ーーということでいいのですね?」


「……ああ、多分……そうなるだろう」


「なら、軍を出してください。あのカバを仕留めなければ……」


「……追い払うだけでは、駄目なのか?」


 頭を振って、ノルダールの言葉を否定する。

 魔力が尽きれば、またカバは大河に帰るかもーーそれでまた数百年は現れないかも知れない。


 しかし、それでは何も変わらない。

 バルハ大司教は「力を渡した」と言っていた。もし力を渡すのがある程度、容易ならーーイヴァルトは襲われ続ける。


「奴は死霊術の産物、人とは相容れない怪物です。今なら、僕たちがいますーー力を合わせればきっと倒せるはずです」


「どうするというのだ……? ディーン王国の兵も幾度となく苦戦を強いられたのだろう」


 ノルダールの懸念はもっともだ。

 ガストン将軍が何度戦っても、決定的な勝利は得られなかった。

 ライラと僕がいた時もだ。


 しかし、今ならーー手がある。

 とはいえ、僕たちの兵では多分無理だろう。

 土地勘のあるイヴァルトの兵が必要だ。


「奴を討伐するには、イヴァルトの軍も必要です。……奴を倒すのに、どれだけの兵をすぐ用意できますか?」


「……少し待ってくれ」


 ノルダールは名士のもとに行き、素早く言葉を交わしている。

 上陸した他のモンスターも討たなければならない。市民の避難にも大勢の兵が必要だ。


 たしかイヴァルト全軍で、1万の兵がいるかどうかだったはず。しかし大半は大河の警備やらで出払っているだろう。

 イヴァルト内にいる兵はせいぜい数千。カバ討伐のためにすぐ用意できるのは、いいとこ500人くらいだろうか。


「エルフの材木商と私たちヴァンパイアの商人は私兵も出す……。雑多だが、1000人は用意できる」


「……! ありがとうございます!」


「ただ、ディーンの精兵とは比べるべくもない。ガストン将軍の3000で討てないとなると……悲観せざるをえない」


 ノルダールを始めとして、イヴァルトの有力者の視線がじっと僕に集まる。

 僕は一呼吸入れ、彼らに請け負った。


「ノルダール副議長……少々、手荒になりますがーー策があります」


 胸元からベルモの首飾りを取り出す。

 紅い宝石は眠っているかのように静かだ。


 危険だけれど、やりようはある。

 イライザがすでに察したかのように、目を伏せた。


「……地図を持ってきますーー早急に決めましょう。奴を……罠にかける場所を」

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