表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/201

舞う蝶のような③

 ベッドの上にいるロアは、息づかいさえひそやかに、横たわっている。


「……どうやら、ジル様はご存知のようですね?」


 部屋に入ってきたレイア議員が、声をかける。

 僕は頷くしかない。


 見回しても僕たち一行でロアの顔を知っている人間は、他にいないようだった。

 正直に言うべきだろうか。

 ごまかすこともできなくもない――まだ、いまなら。


 リヴァイアサン騎士団は第一級の戦犯だ。

 ロアの名前は、いまや大陸中の怨みの的である。


 契約魔術に縛られているとはいえ、僕以外がどう反応するかわからない。


「……彼女の名前は……」


 僕の胸の中がちくりと痛んだ。

 クロム伯爵と、交わした約束がある。

 そして守らなければならない祖国がある。


「ロア・カウズだよ。リヴァイアサン騎士団の団長、のはずだ」


「えっ……!?」


 声を上げたのは、イライザだった。

 無理もない。全てはロアの兄であるクロム伯爵から始まった。


 誓いを破るつもりはない。

 表沙汰にならない限りは、と約束したばかりなのだ。


 ロアに罪があったとしても、それを裁くのは――今でも、ここでもない。

 それに、ロアなら様々な情報を知っているのも確かだ。

 なにせ教団と一緒に活動していたのだから。

 全ては、連合軍と戦争のためだ。


「…………言いたいことは、各自あると思う。でも、私はレイア議員との話を反故にするつもりはない。それだけは、はっきり言っておく」


 一番、複雑そうな顔をしているのはアエリアだった。

 彼女だけはアラムデッド王国の出身、直接故郷を攻められたのだ。


 同時に、アエリアの聡明さなら――僕の意図もわかるだろう。

 ロアから話を聞く前に、処断するわけがない。


 そして、僕は一度言ったことはディーンの貴族として、必ず守る。

 腹立たしくはあるけれど、クロム伯爵と誓ったのだから。


「そんな大物がいたとは……思わぬ収穫です」


 ライラが首を振りながらつぶやいた。

 表情を見る限りでは、ライラはロアの有用性に気を取られているようだ。


 よかった……。正直、ライラが処断を言い出すと説得に苦労すると思っていた。

 聖教会の出身であるライラの価値判断は、まだ掴みきれていないところがある。

 特に、こんな重大な件ではだ。


 僕は横たわるロアから目線を外して、レイア議員を見据えた。


「レイア議員、いくつか答えていただきたいことがあります……宜しいですか?」


「……はい。なんなりとお尋ねください。覚悟は、できていますから」


「まずロアとあなたはーーどういう関係ですか? ……どちらに与するかによりますが、普通なら連合軍かブラム王国へと引き渡すでしょう。わざわざ匿うには、理由があるはずです」


 ふぅ、とレイア議員はため息をついた。


「簡単です。彼女は……ロアは、私の妹ですから」


「……っ!」


「母は、違いますが……。これは、あなたたちは知らないでしょうがーーブラム王国の貴族の子息が、今のイヴァルトには多いのです。偽装されていますがその数は、ディーン王国とは比べ物になりません。この意味が、わかりますか?」


「……まさか。数十年前から、ブラム王国はイヴァルトへ手を伸ばしていたんですか?」


「おそらく、そうでしょう。……幼い頃は、ブラム王国で過ごしていましたから。この議員の家には、養子で入ったのです……相当昔から、決まっていたようですから」


「……なるほど。それで、妹のために……」


 あれ、と僕は思った。

 今の話だと年齢が少しあわない。レイア議員は、29歳ーーロアとは10歳以上、離れているはずだ。

 レイア議員が養子に出されたのなら、面識がそれほどあるとは思えないのだけれど。


「ロアは子どもの時から、剣の才能を見込まれてモンスター退治に行かされていました……グラウン大河にも、よく訓練で訪れていたのです」


「なるほど、そういうことですか……」


「事の経緯を考えると、ロアのほうが先に教団の計画に組みこまれたのでしょうね……いざという時の駒として、ロアは育てられていた。……それは、私も変わりありませんが」


 レイア議員の瞳に、強烈な憎悪がちらついた。

 それは、紛れもなくブラム王国への反発だった。


 妹、自分の境遇ーーそれがロアを匿う動機になったのだ。

 最初からディーン王国に好意的だったのも、危険を犯して僕たちを招き入れたのも、ある程度納得がいく。


 レイア議員は、僕と違って祖国を愛していない。

 あるいは、今の自分さえも愛せないのかもしれないが。


「……ロアはリヴァイアサン騎士団の人たちと、ブラム王国から逃亡したのでしょう。そして追われて傷つき、流れ着いた。今のロアの評判を考えれば、頼れる先は多くはありません……」


「イヴァルトは、人の出入りも激しいですからね」


「ええ、ここなら様々な国の人がいます。隠れるにはうってつけです。しかも私がいますからね……しかしーーロアは、大勢を連れてきてしまった」


 レイア議員は哀れみをこめた視線を、ベッドのロアに向けた。


「ひとりなら、逃げ切れたかもしれないのに……騎士団の部下を見捨てられなかったんでしょうね。ロアには、そういうところがありました。昔から最前線に立たないと、気がすまななかったのですから」


「経緯は、わかりました……。ありがとうございます。……ロアの容態は、良くないのですね?」


「手を尽くしていますが、回復の見込みはありません……。どうも、既存の魔術ではないーー呪いのようなものを受けているようなのです」


 ……呪い、か。その言葉を聞いた瞬間、どくんと僕の首飾りが鳴動した。


 首飾りが、僕に呼びかけているようだった。

 こんな反応は、初めてだった。

 まるでーー自分を使え、と言っているかのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ