表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/201

舞う蝶のような②

第一章の「伯爵、消ゆ」の伏線をやっと回収いたしました……。

 レイア議員が、眉をわずかに寄せた。

 微笑みはもう、張りついた作り物になっている。


「……ずいぶんな物言いかと思いますが……」


「……こちらも、それほど選んでいられる状況ではないのです。すでにブラム王国と戦争は始まっていますーー決して後戻りできず

 、負けられない戦いが」


「…………」


「協力していただければ、もちろん相応の代価をお支払いたします。ディーンでしか手に入らない薬の材料も、安価にお渡しできるでしょう」


 これは、薬のルートを洗い出しているというサインだ。

 レイア議員の目が、用心深く僕を探るようになっていた。


「どうあっても……やり遂げるおつもりですか? もう、十分な情報は手に入れたでしょうに」


「流れ着いた人物たちについて、どうしても調べたいのです。ブラム王国に対抗するために……ひとつでも、情報が欲しい」


「ふぅ…………なるほど、決意は固いようですね」


 レイア議員が、天井を仰ぎ見ている。

 心中で、なにかがぶつかり合っているようだった。


「……たとえば、ブラム王国から流れ着いた人間がいるとして……その者は、罪に問われませんか? いかなる立場であったとしても?」


「人物と状態によりますが……イヴァルトにいる限り、ディーンの法で裁くことはできません。教会法でも、あえて捕まりに出てこない限りは……」


 ライラも僕の言葉に力強く頷く。

 これは、僕とライラとイライザで決めたことだ。


 強権を行使する前であれば、離反者やレイア議員を罰したりはしない。

 もとろん、表沙汰にならない限りーーではあるけれど。

 処罰を全面にすると、それこそイヴァルトは荒れるだろう。


 僕たちの目的は交渉と情報探索であって、本当にイヴァルトを責めることではないのだ。


「…………それに、二言はないですね? 契約魔術に誓えますか?」


「そこまで、ですか……」


 これも、ある程度は予想していた。

 赦免を願い出るなら、契約魔術で縛るのが一番だからだ。


 しかし、イヴァルトで契約魔術の解除はできなくても、ディーン王国では可能だろう。

 つまり、僕たちは後で一方的に契約魔術を破棄できる。

 そのくらいは、レイア議員もわかっていると思うけれど……。

 レイア議員は、僕たちの考えを知ってか知らずか、


「契約魔術には、ディーン王国やブラム王国への通報の制限を設けます……これならある程度、知れ渡るのに時間がかかるでしょうね。いずれ契約魔術を解除するにしても」


「ただの漂着者や逃亡兵には似つかわしくないくらい、厳格ですね……」


 僕のつぶやきに、レイア議員はため息をついた。


「……仕方ありません。ここにいるお探しの人物の命は、もうすぐ尽きます。私は彼女を助けたいーーけれど、私ひとりの力では無理と認めざるをえません。匿うことも、救うことも……です」


 なるほど、そこまで状態が悪かったのか。

 イヴァルトの医療で手に負えないなら、後は三大国か聖教会しか助かる道はない。


 そして、レイア議員と逃亡者の関係は、思ったよりも深そうだ。

 ブラム王国の離反前から、面識があったーーと考える方が自然だろう。


「……彼女の命を助けることに手を尽くすこと、それが案内する条件です」


 イライザとライラをちらと見る。

 ふたりとも、軽く頷き返してくる。


 いずれにせよ、話を聞ける状態にならなければ意味はない。

 それに、「彼女」に対して誠実である限り、レイア議員は僕たちの側につくだろう。


「わかりました、出来る限りのことはしましょう」


 その後、手早く契約魔術で僕たち一行とレイア議員が束縛された。

 文言の詳しいところは、イライザが監督してくれた。

 さすが、宮廷魔術師。


 儀式が終わると、僕たちは隔離病棟へと案内された。

 ここに、くだんの人物がいるという。


 静かで、室温も低く感じる。

 先頭を歩くのはレイア議員だ。


「……くれぐれも、よろしくお願いいたします」


 病室の扉の前で、レイア議員が頭を下げる。

 いったい、誰がいると言うのだろう?


 緊張しながら、僕は扉を開けた。

 広い病室の中央に、天蓋付きのベッドがある。


「……そんな」


 ベッドに眠る人物の顔を見て、僕は後ずさった。


「私、この方を存じませんが……ジル様は、お会いしたことがあるのですか?」


 問いかけるイライザの声が、遠い。

 正確には、会ったことはない。


 ただ、知っているだけだ。

 短い黒髪の、どことなく野心的な顔つきの女性。


 クロム伯爵の妹ーーリヴァイアサン騎士団のロア団長が、そこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ