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アエリア③

 その目付きは、明らかにわたしの言葉を信用していない。

 ディーン王国の特使と来訪しているのだ、当然である。

 だけれど、話し合いを即座に打ち切るつもりもないようだ。お手並み拝見、というところだろう。


「アラムデッド王国の政治体制が変わり、実務的にも様々な変化が出てきています」


 最大の変化はアルマ様が辞任され、ミザリー様が宰相になったことだ。もちろん、それだけじゃない。

 ブラム王国に近しい貴族の影響力、政治力は大きく減退した。王都を攻められ、娘を失ったカシウ王の絶望と悲憤は凄まじかった。


 アルマ様は最後の仕事として、20人を超える貴族の爵位剥奪や財産没取を実行した。

 強制隠居や謹慎処分といった軽微なものを含めれば、100人を超える人間が直接に処罰されたのだ。


 余波として、実務を担う人間も様変わりせざるを得なかった。

 さらに連合軍結成に向けて、首脳陣は奔走している。現在、アラムデッド王国は建国以来の人材不足の最中にある。


 と、ここまではノルダール副議長も知っている話だ。


「商業や貿易の官僚が大勢交代しましたからね」


 いささか遠い目をして、ノルダール副議長が首肯する。

 イヴァルトにとっては全てが突然の出来事で、混乱と戸惑いがあったに違いない。

 ここまでは、お互いに知っていることをなぞっただけだ。


 わたしは、ぐっと気を引き締めた。

 ここから先は一歩間違えるとご破算になりかねない。

 ジル様達の了承は貰ったとはいえ、成功させなければいけないのはわたしだ。


「その上で……今のアラムデッド王国は才能があり実務経験豊富な人材を求めています。ノルダール副議長、アラムデッド王国に戻られる気はありませんか?」


 ノルダール副議長は、目をぱちくりとさせた。

 そのまま、畳み掛けるように言葉を続ける。


「もちろんすぐの話ではありませんし、ノルダール副議長でなくても構いません……お子様は12歳、甥は20歳ですよね?」


「ふぅ、突拍子もない話ですね……。イヴァルトを捨てて、アラムデッド王国に移住することにどんな意味が? 甘く見ないで頂きたい」


 腰を浮かせるノルダール副議長を、わたしは手で制する。


「意味はありますよ。連合軍が戦争に勝てば、イヴァルトにいる親ブラム王国派は破滅です。当面の間、粛清と吊し上げでイヴァルトは大混乱に陥ります。交易そのものがストップするはずですよ。その時、連合軍に居場所があった方が圧倒的に優位でしょう」


「やれやれ……そもそも連合軍が勝てるかどうか、戦争の行く末を悲観していると申し上げたはずです」


「そんなのはお金と兵を出したくない建前ですよね? 本気でそんな風に考えてるんだとしたら、どうかしてますよ」


 ノルダール副議長が眉間に険しい皺を寄せる。はっきり言い過ぎたかも、と思ったけどもう止まれない。


「総兵力でいえば相手になるわけがないですよね。ディーン王国とその同盟国だけで20万ですよ。対するブラム王国は8万。死霊術師だけで10万もの兵力差を埋められるなら、とっくに大陸は終わっているはずです」


「……それは」


 ノルダール副議長が座り直し口を開くのに構わず、まくしたてる。


「イヴァルトの戦略的価値はディーン王国にも十分伝わっています。でも、もう焦らすのは止めましょうよ……。今が一番高値でイヴァルトを買ってくれる時です。売り時を誤れば丸損です」


「まぁ、一理あるが……」


「それに同じヴァンパイアなら、アラムデッド王国の居心地の良さはわかりますよね。 いくら血を吸っても咎められない、上流階級全てがヴァンパイア……生きづらさを覚えることもない」


 わたしの言葉に、ノルダール副議長が顔を歪めた。ヴァンパイアは長命で優秀、気位が高い。

 大抵、アラムデッド以外でもそれなりの名士になっている。


 それでも日光や水が苦手なことや血への渇きは、地位があっても足枷になる。

 逃れられない弱点と欲望をさらけ出せるのは、アラムデッド王国だけなのだ。


「見たところ、ノルダール副議長は特に日光や水に強くはないですよね……その地位にたどり着くまで、着いてからも大変な苦労をしたでしょう。子孫全てに同じ苦労をさせ続けるのですか。せっかく、アラムデッド王国に戻れる機会があるのに」


 ノルダール副議長は初めて対面したときに傘を差していた。ヴァンパイアの中でも日光に弱い血統ではないだろうか?

 ぎらぎらと直射日光が当たらない日でも、日傘が必要なのだ。

 イヴァルトでは種族人口的に、ヴァンパイアは他種族の生活に合わせなければならない。

 はっきり言って、かなり苦しい生き方のはずだ。


「……私と私の血族だけがイヴァルトを離れられる訳がない。アラムデッドに身を置けても、これまでの全てを失ってしまう」


「違いますよ。イヴァルトにいるヴァンパイア商人でアラムデッド王国に来たい人は皆、来ればいいんです。ノルダール副議長が旗振り役になって」


 ノルダール副議長が虚を突かれた顔をした。

 わたしはテーブルをばん、と叩き大声を出した。

 びくつく心を、無理やり鼓舞する。


「ディーン王国ではなく、アラムデッド王国への援助なら周囲の理解も得やすいでしょう。後は裏で話をまとめれば済むことです。違いますかっ!?」

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