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手分けをして

 探るべき対象が増えていく。

 それ自体はいいけれど、手分けしないととても追い付かなさそうだ。


 レイアの病院は疫病対策のために中心街から外れている。

 魔封じの帯もいらず、魔術で陰謀を企むことができる場所にある。


 しかし、ぐずぐずしていると、首飾りが移動されてしまうかもしれない。

 そうなったら振り出しに戻ってしまう。

 情報収集は広く浅くやるべきだろう。


「皆で手分けしてもらうのがいいかな……シーラ、アエリアにざっと情報を集めてきてもらう。イライザは僕と打合せしながら半日くらい情報収集に当たる。どうかな?」


「そしてジル様はここで待つ、ですね……その方がいいかも思います」


 僕が動き回ると無用な警戒を引き起こしかねない。レイアの周辺を探るには、もっと小回りが効く方がいい。


「ライラさんには聖教会関連を中心に回ってもらおうか……カバの情報も欲しい。教会の古い資料はライラさんでないと読めないし」


「そうですね……その方向で問題ないと思います。……空いた時間には、少し威圧的な交渉の練習をしましょう」


「……うん。後、夢の話をライラさんにするのは問題ないよね?」


 首飾りの夢を話すのは勇気がいる。

 審問官として、どう判定されるのだろうか。


「ディーンの秘宝ですし、問題はないかと……ベルモ様について私は存じ上げませんが、もしかしたらライラ様には心当たりがあるかもしれませんね。むしろ夢の話を信じてもらえるかが……」


「そこが重要だよね……」


 少しだけイライザが顔を曇らせる。

 付き合いが長く、アラムデッドでの経験があるイライザは僕の話を信じてくれる。

 問題はライラだ。

 手詰まりなのはライラも認識しているだろうけど、情報元を信じるかは別問題だ。


「ジル様、素直に言うしかありません……。遠回しの言い方は多分、逆効果です」


「……わかった」


 その後、ライラが合流して昨夜の夢と今後の方針を伝達した。

 イライザの勧めに従い、夢の話はなるべく細かくそのままを伝える。

 ライラはわかりやすく、つんと立っている狐耳をぴくつかせた。

 でも反応はそれだけだった。

 話が終わると、ライラは深く息を吐いた。


「とても興味深い話ですね……」


「どうかな、ライラさん? ベルモさんにも覚えがある?」


 ライラが知っていれば、夢の内容が正しい確率が高まる。


「ベルモ、という名には聞き覚えがあります……ドワーフの名工ですね。聖教会にあるいくつかの美術品。どれもが極めて価値あるものですが、それらの製作者です」


「じゃ、じゃあ……!」


「ええ……教会以外で製作物は見つかったことはありませんし、性別も生年月日もわからない人物です。1000年以上前の人物ですし。その首飾りの製作者でもあるとは初めて知りましたが……」


「作者不明の品物だったんだね……」


「なにせ、古すぎますからね。銘もなく、由来も曖昧、神話と伝説が入り交じった頃です。正直、ベルモという名前が出てくるとは……」


 ライラは肩をすくめる。

 それは夢の話を信じる、という仕草のように思えた。


「地道な有力者周りが続くかと思いましたが、いいでしょう……お二人の案に乗ります」


「ありがとう、ライラさん」


「的を絞った方がいいのは確かですしね」


 朝食を食べた後、今度は皆を集めて会議をした。基本方針は決めたけれど、誰がどう動くかは決めなければならない。


 アエリアとシーラを連れてきたのは正解だった。

 アラムデッド公爵令嬢のアエリアは、主にイヴァルトに住むヴァンパイアを担当してもらう。僕は自分の血を容器に詰めてアエリアに託した。

 ヴァンパイア同士で血の贈り物をすれば、口も軽やかになるだろう。


 エルフの担当はもちろん、シーラだ。

 貴族の血筋であるシーラの金髪は、相手の警戒心を和らげるのに役に立つ。


 薬の調合はイライザの専門分野だ。レイアの病院で何か不審な品物の動きがあるかどうか、見抜いてくれるだろう。


 あれ、僕の役割は?

 なんかいなくても話が進んでいきそうなんだけれど。

 さあっと胸が締めつけられる。


 なんか、とんでもないことに気付いてしまったかも。


「ジル様、何か心配事が……?」


 イライザが僕の顔を覗きこむ。

 顔に出ているらしい。


「なるほど……首飾りがレイア議員の手元にあるなら、それを巡って戦闘になるかもしれませんね。ジル様の《血液操作》が必要になる可能性も……」


 イライザは僕の顔色の悪さを誤解していた。

 だけど、イライザの言葉で僕は自分のやるべきことを思い出した。

 今はまだ、僕の出番じゃないだけだ。


「そ、そうだね……!」


 色々と交渉やらもやらなくちゃいけないけれど、ひとつだけ譲れないものがある。

 死霊術師と戦って、勝つ。

 それだけは、僕がやりきらなければならない責務なのだ。

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