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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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115/201

ベルモ

「今のベルモさんと、同じ存在ーー精霊ということですか?」


 ベルモは自分を精霊と言ったけれど、僕が知る限りでは喋る精霊なんて存在しない。

 精霊は魔力を受けて、仮初めの姿を与えられる。命令には従うけれど、それは魔力を与えた魔術師がそう形作っているからだ。


 しかしベルモは手を軽く振って否定した。

 頬をかきながら、もごもごと言い始める。


「ああ……いや、今のあたしみたいな存在のことじゃない。ごめんね、あたしと同じような首飾りさ。《神の瞳》を模して作られた宝石さね」


「それはベルモさんが作られた別の首飾り、ということですか……?」


 僕が手にしている首飾りは元々ディーンの王都にあったものだ。

 他のところにベルモ作の首飾りがあっても不思議じゃない。


「いんや、それも違う……あたしが作ったわけじゃない。死霊術師が作ったものだ」


「ど、どういうことです?」


「あたしの首飾りの由来は知っているだろう? 《神の瞳》を元に当時の人達が作ったって」


「ええ、だからーーあ!」


 気が付いてしまった。

 首飾りはベルモが作った武器だ。

 無意識に僕は決めつけていた。ベルモ以外の誰にも同じものは作れない、と。


 でも違うのだ、《神の瞳》の模造品である首飾りは作れてしまうのだ。

 死霊術師も同じものを作れる、それがベルモの言いたいことだった。


「死霊術師も、ベルモさんと同じように《神の瞳》を模して作れるんですか? この首飾りと同じようなものを?」


「正確には紅い宝石部分だね、金属部分は本当に飾りだから。1000年前からこっち、首飾りの力も死霊術師は目にしてきた。当然さーー自分達も作ろうとするのはね。それでもあたしの作ったものとは似て異なる……当然だけど死霊術そのものの力はないからね」


「《神の瞳》から2系統の模造品がある……ベルモさんと死霊術師と、よく似た2つの宝石……」


 僕は首飾りの紅い宝石を、指先で撫でた。


「そうさ、そしてあたしは感じ取ったんだ……このイヴァルトに同類がいるってね」


「……ちなみに、場所は詳しくわかるんですか?」


 今日回ったからわかるけども、イヴァルトは広い。立体的に建物が積み重なり、時に迷路のようになっている。

 闇雲に探すのは、結構厳しい。


「わかるよ、レイアって人に今日会ったよな? あんたが会いに行った、まさに同じ建物に紅い宝石があるよ」


「は、はぁ……!?」


「あたしの認識力はぼやけてて、あんたが会った人間と紅い宝石くらいしかわからないけど……」


 レイアと面会した建物、それは病院だ。

 イヴァルトの議員は全員、公共施設や生活の基盤となる事業に携わっている。

 レイアの扱う商品は薬関係で、富豪向けの病院も経営している。

 僕の訪問は日中だったので、レイアの仕事場である病院に行ったのだ。


 こめかみを押さえて、思案する。

 記憶では病院にはほどほどの結界は張ってあったけど、それくらいだ。

 厳重に守られているわけでは、決してない。

 どういう経緯で、紅い宝石があるんだろうか。


「ま、詳しいことはあたしにはわからない。明日からあんたが調べるんだね。……あぁ、最後にもう一つだ」


 ベルモは立ち上がり、僕を見下ろした。


「紅い宝石を作るには《神の瞳》が必要さ。逆に言えば《神の瞳》がある限り、紅い宝石は作れてしまうーー敵さんはどんどん増やすだろうね」


「それじゃ、僕の持っている、これは……」


 作れる人はいないんですか?  と、口にしようとして止まってしまった。

 封印の血族でないと、僕の首飾りは何の反応も示さない。

 僕はいわば抜け道的に使えているだけなのだ。


 ふっと見上げて、僕は息を飲み込んだ。

 ベルモからゆっくりと白い粒子が少しずつ飛び、姿が薄れていく。


 ベルモは発光し闇に溶けていく腕を透かして見た。そしてやや寂しそうに、僕の肩に手を置いた。

 そこに暖かさはあるけれど、重さはない。


「残念だけど、今のあたしにはわからないね……ごめんよ、今の大陸の事情はわからないんだ」


 僕は立ち上がり、ベルモに礼をした。

 別れの時間が近づいているのだ。


「いえ、本当にありがとうございます! 助かりました……」


「……いいってことさ。これも子孫のためだからね」


 舞い上がる粒子が激しくなる。

 光に包まれた彼女の輪郭がぼやけていく。


 はにかみながら、ベルモは手を振ってーー白い光になって消えた。

 最後までベルモは笑って去っていった。


 宵闇に浮かぶ宝石の光が一つずつ小さくなり、明かりが消えていく。

 そして、僕の意識もゆっくりと遠ざかっていくのだった。

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