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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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110/201

悲観

 ノルダールは僕達の前にくると、恭しくお辞儀をした。ゆったりと深く頭を下げてくる。


「空の旅、お疲れ様でございました……ようこそ、商業の国イヴァルトへ。私はサーネス・ノルダールと申します。過分にもイヴァルト議会の副議長を拝命しております。……滞在中に何かあれば、遠慮なくお申し付けください」


 ヴァンパイア特有の憂いを持つ美形の紳士だ。顔を上げたノルダールの、軽く撫で付けられた金髪が目を引く。


 僕達もそれぞれ自己紹介し挨拶を交わす。

 僕達の来訪は連絡済みだし、イヴァルトは大陸中に情報網を持つ。

 僕達のプロフィールなんて筒抜けだ。

 ノルダールは僕達一行の名乗りに、何の驚きも示さない。


 一人一人の顔と名前を確かめたノルダールは頷きながら、


「さて……少し早いですが昼食会などを企画しております。大河の珍味を食しながら、如何でしょう? 本題に入るというのは」


 意外だった。僕達の来訪理由はイヴァルトの参戦を促すことだ。


 当然、今もって乗り気でないイヴァルトは、のらりくらりと僕達をいなすつもりだと思っていた。

 それがいきなり、イヴァルト側から本題を切り出してきた。乗らない選択肢はない。


「ありがたくお受けします、ノルダール副議長」


「快諾、感謝いたします。それでは行きましょう」


 案内されながら僕達は広場を出る。

 一歩、広場を出るとイヴァルトの熱気に僕は圧倒された。大通りには見渡すばかりの人の山だ。


 遠目でもわかってはいたけれど、間近だと度肝を抜かれる。

 服装が全く統一されていないのだ。

 あまりに色とりどり、その鮮やかさは無秩序でさえある。例えるなら、綺麗な花を片っ端から並べた花園だ。


 ディーン王国ではあまり見ない、大陸北部に住む褐色人もちらほらと歩いている。

 背が低くがっしりとしたドワーフや部族単位で暮らすことを好むエルフ、獣人もいる。


 ごちゃ混ぜの人間がわいわいと歩き、道端で露店を開く様はディーンの王都を凌ぐ。

 さすが商業都市だ。


 ほどなく大通りに面した会堂の前でノルダールは足を止める。

 艶のある大理石、入口は20人が横に並んでも一度に入れる大きさだ。


 読んだ地図では、第二会堂だったと思う。

 それでも彫刻の高級感や外壁の品の良さは、ディーンでも王宮以外には見当たらない。

 改めて、イヴァルトの財力を思い知る。


「こちらです、どうぞ……」


 会堂の警備も最敬礼で僕達を迎えてくる。

 広間は宝石を配したシャンデリアの明かりと、薔薇の香りに満ちている。

 中央には彫像が一つ、置かれていた。


 右腕を上げて槍投げの構えを取る、太陽の神の彫像だ。

 ゆったりとした布地に身を包み、男とも女ともいえる中性的な体つきをしている。


 これは大陸中で見かけることができるモチーフだ。

 死の神との戦いで、太陽の神は幾つもの勝利を槍投げによって得た。

 この彫像はよくそのモチーフを活かしていた。

 僕は感嘆しながら、


「本当に、見事な造りですね」


「お褒め頂き光栄です……ディーン王国の方にそう言って貰えれば、先人も恐悦するでしょう」


 金糸の絨毯が敷かれた階段を登り、食堂へと到着する。

 香木のテーブルに銀の燭台が置かれていた。


 席に座るとまず杯が差し出される。

 祈りを捧げて乾杯すると、料理もすぐに並び始める。

 貴族同士だと長い文句もあるが、さっと始める様は商人らしい。


 白く濁った酒は舌に含むと、とろりと上品な甘さが喉ごしを過ぎた。

 飲みやすい。けれど、知らない酒だ。

 ノルダールは僕の顔を見て、


「フランジェリコというアルコールです。ヘーゼルナッツから作られたもので甘く、高級菓子にも使われます」


「へぇ……初めて頂きました」


 なんというか、あまり酒に慣れていない僕向きだった。

 料理もディーン王国ではあまり見ない貝やエビを使ったものが多い。

 珍味に舌鼓を打ちながら、僕はいよいよ本題を持ち出していった。


「ノルダール副議長、イヴァルト議会は……何ゆえブラム王国征伐の軍を出すのに消極的なのでしょう?」


「……率直に申し上げて宜しいでしょうか」


「ええ……もちろん」


「勝てないからですよ。ディーン王国ではブラム王国に」


 ノルダールはナプキンで口元を拭きながら言い放った。衝撃的な発言だった。

 それが聖教会も含めての話なのは、明確だった。

 イライザの手が一瞬止まり、近くのライラがぞわりと殺気立つ。


「聞き捨てなりませんね、副議長。それは……死霊術を用いたブラム王国を許容しているとも取れる。大陸に住まうものとして……いかなるお考えによるのですか?」


 ノルダール副議長は肩をすくめる仕草をした。


「誤解しないでください。私はあなた方の味方ですよ……今のはイヴァルト議会の大多数の意見です。私としてはディーン王国に積極的に兵を出すべきと言っているのですがね……しかし、議員の大半は戦争の行く末を悲観している。それが、現実なのです」

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