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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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109/201

商業都市イヴァルト

 その夜は酒精が入ったこともあって、ぐっすりと寝ることができた。

 翌朝目覚めると、まだぽつりと雨は降っていた。


 それでも薄い雲の向こうから、朝陽がうっすらと照らしている。

 イライザを始めとして、魔力はちゃんと回復したようだ。


 今日はいよいよイヴァルトへ乗り込む日である。雨具をまた着込み、僕達はガストン将軍の陣から飛行騎兵で飛び立った。


 ただ飛行騎兵のうちの二人は、報告のために王都へと戻らせている。

 カバと聖宝球の不調の可能性について、ナハト大公へ指示を仰がないといけない。

 ガストン将軍も急使を出しているけれど、恐らく飛行騎兵の方が早い。


「それでは……お気を付けてくだされ」


 整列するガストン将軍の兵に見送られながら、僕達はイヴァルトへ向かう。

 風も和らぎ、薄日のグラウン大河がくっきりと望める。


 濃い青の水流が視界いっぱいに広がり、対岸に何があるか見通せない。

 南に進路を取り、空からグラウン大河を下っていく。


 少しすると、新緑の旗を立てた船団が見えた。数本の帆柱を立てたガレオン船だ。

 イヴァルトの紋章ーー緑の下地に三ツ又の槍の旗を掲げて勇壮に川上りをしている。


 船の数は10、甲板にも荷物を積み込んで上流へと進んでいる。

 遠目からでも、船の側面には細かく魔術文字が刻まれているのがわかる。

 船首の多くは、太陽の神ーー長い髪をもつ中性的な麗人で槍を持つ像を備えていた。

 中央の母船には他に、大きな光柱が設置されている。ガストン将軍の陣でもあった移動式の聖宝球だ。


 これにより、モンスターは船団へは近付けず安全に航行することができる。

 イライザが大河の先を指差し、


「もう一団、来ますね……すごいです」


 同じような船団がもう一つ続いて、上ってきている。

 ディーンにも湖や川はあり船もあるが、これほどの船を動かせる貴族は、ディーン王国にはいないだろう。


 陸軍国内のディーン王国では考えがたい規模だ。

 あれらの船に積まれた交易品は大陸中を巡ることになる。

 水軍ではイヴァルトに優位があるのは間違いない。

 言うことを聞かせるほどの軍事力の差がないのだ。ゆえにディーン王国や聖教会からの参戦要請にもすぐに応じないのだろう。


 2つの船団とすれ違いながら、僕達はいよいよイヴァルトが近づくのを感じた。

 彼方の湾に、灰色と緑の綺麗な建物が見えてくる。大河には緑の旗を立てた数十の小型船が行き来していた。

 イヴァルトの街は湾の小さな島を覆い尽くすように並んでいる。


 他にも赤や紫、黄の色鮮やかな旗の船がひしめいている。イヴァルト以外の独立商業都市の船だ。


「そろそろだね……」


 改めて緊張してきた。

 アラムデッド王国へは婿として行った。僕の立場は保証されていたのだ。

 イヴァルトへは特使だ。しかも恐らく、イヴァルトの立場では歓迎せざる使者だ。


 小雨のなかで鮮やかな船が浮かぶ大河を横切り、イヴァルトの小さな広場へと飛行騎兵を寄せる。

 事前に打合せしていた降下場所だ。


 近寄るにつれて、イヴァルトの賑やかさを再確認する。

 段々と見えてくる人達は思い思いの服を着ている。大陸中から集まっているかのようだ。

 その人通りの多さ、色彩の豊かさはディーン王国の王都に勝るとも劣らない。


 芝生の敷き詰められた広場に降り立つと、すでにイヴァルトの役人が待ち受けていた。

 緑のゆったりとした制服に身を包み、畏まっている。


「ようこそ、イヴァルトへ……歓迎いたします、ディーン王国の使者の方々。雨のなか、よくぞ来られました」


 目配せをしながら、イヴァルトの役人は挨拶をしてくる。

 僕達も挨拶を返し、イヴァルトの街へと案内される。ちらちらとこちらを見る目には、若干の険しさと不信感があるように思える。


 とはいえ、儀礼的には特に差をつけられているわけではない。

 連れられて広場から出ようとする僕達の前に、黒い傘を差した一団が近付いてくる。


 先頭の一人は黒服で、背が高い紳士だ。

 青白く冷たい視線を投げかけてきた。

 イライザが小声で教えてくれる。


「イヴァルト議会のノルダール副議長ですね……今回の交渉での肝になる人物がいきなり登場してきました……」


 ノルダールの歳は30くらいだ。僕は彼の目付きに見覚えがあった。間違いなく、ヴァンパイアだ。

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