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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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103/201

ガストン将軍

 雨音と濁流、戦場の激しい音が鳴る。

 泥の冷たい感触が手にしみる。


「それはかまいませんが……! モンスターは目の前です! な、何をなさるおつもりで……!?」


 普通の兵は貴人ではないので、スキルについての知識は乏しい。

 突然の僕の行動に戸惑っているようだった。

 それでも呼ばわりながら、後退を指示してくれる。


 説明したいが、暇はない。

 さらに迫ってくるモンスターへ、上空の飛行騎兵が急降下しながら魔術攻撃をしかける。

 これまでよりもはるかに急接近しての攻撃だ。


 モンスター達の腕や頭が届くぎりぎりで反転し、魔術を放っていく。

 狙いは外れず、先頭のモンスター達に打撃を与え、血しぶきや怒声が巻き起こる。

 モンスター達を引き付けるために危険をおかしての攻撃だった。


 暗い空にモンスターの魔術の軌跡が踊るが、飛行騎兵はたくみに避けながら離脱していく。

 しかしずっとモンスター達の鼻先で飛び回るわけにはいかない。撃ち落とされてしまう。


 飛行騎兵はまた飛び上がり、上空を旋回しながら攻撃の機会をうかがう。

 一連をはらはらしながら見届けた僕の血は、

 泥の上を伝わっていく。


 兵達はこの時には、上空からの支援もあり槍や盾でモンスター達と間合いを空けていた。

 猛然と流れ出す血が兵の間を抜けて、モンスターの足元まで到達する。


「今、壁を作ります!」


 僕の血よ、壁になれ!

 足止めのために、被害を抑えるために!


 兵とモンスターの間に血の壁が立ち上がる。

 地面よりせり上がる壁は、十メートルの長さに渡って形成された。

 長さを優先したので、高さはそれほどでもない。腰よりちょっと高いくらいだ。

 自分の思った通りよりも断然低い。


(いつもよりコントロールが出来ない…………!)


 多量の血液を流しているはずだが、赤黒い壁は思うように作られていない。

 構造としては単なる壁のはずなのに。


 それでも足止めにはなっていた。

 突然の壁にモンスター達は足を止めざるを得ない。


 血の矢と壁の硬度は変わらない。

 まさに鉄の壁だ。

 紫のトカゲのモンスター、パープルリザードがぶつかるものの、壁は揺れるだけだ。


「おお、これは…………ありがたい!」


 兵達は槍でパープルリザードを刺して押し止める。

 早くもモンスター達は渋滞をおこしつつある。

 押し合う形になり、先頭が前に進めなくなっているためだ。


 本当ならトゲや槍を壁に作ればさらに効果的なのだが、うまくいかない。

 僕は前を睨み付けるように眉を寄せる。


 その僕の肩に、ずしりと手が置かれた。

 振り返ると見事な白髭をたくわえたガストン将軍がにかっと笑っていた。


「がっはっはっ!! こりゃジル様がおやりになられたのか!? ありがたいことじゃ!」


「ガ、ガストン将軍……!! ご無事で!」


 ガストン将軍の鎧にはモンスターの返り血がまばらについている。

 戦闘の後なのだ。しかし、彼は簡単に死ぬような騎士ではない。


 そう思ってとりあえずモンスターの対処を優先したのだけれど、一安心した。


「右から回り込もうとする奴等がおりましたのでな、そこを叩いておりましたぞ。正面がいささか不安ではありましたが……おかげで戻るまでの時間がありましたわい!」


 ガストン将軍は肩に担いだクロスボウを構え、矢を取り付けて放った。

 空気が破裂したかのような圧倒的な発射音がした。身体が震え、腹の底に音が響く。


 放たれた矢はパープルリザードの首をあっさりと貫いていった。

 青い血が吹き出し、そのままパープルリザードは力なく壁にもたれ掛かる。

 すごい、パープルリザードは外皮が固いモンスターでないが、一撃で倒してしまった。


「ようし、鉄盾隊! 前に出て戦えい!!」


 脇から黒ずんだ重装鎧、大盾と白く光る槍を持った一団が最前線へと駆けていく。

 ガストン将軍の親衛隊だ。物言わぬまま戦い始めるが、その質は段違いだ。

 槍は魔力を帯びて、的確にモンスターを攻めていく。


「グラウン大河の水は魔力が濃い、それにモンスターの体液も地面に流れておりますじゃ……。恐らくそのせいで操作系がうまく働かぬのでしょうな」


「あっ…………」


 ガストン将軍の言葉に、僕ははっとする。

 いままで便利に使っていたが、操作系の弱点は異物がーー特に魔力が混じると動きが悪くなることだ。


 それを忘れてしまっていた。

 でも同時に別の使い方もある。なんとかもう少し力になりたかった。


 ガストン将軍が新しい矢を取り付けようとするのを見て、僕は矢自体が特別でないことを確認した。

 傍らに立つガストン将軍へ、僕は矢をーー作り出した。

 片手を地面へとつけたままなのは変わらずだ。

 血の壁を維持したまま、真紅の矢を生み出したのだ。


「ほう……!? 器用なもんですじゃ、これは一本取られましたな!」


「使ってください、ガストン将軍!」


「ありがたく!」


 がっと真紅の矢を掴んだガストン将軍の力は並みではない。

 異常は早さでまた、クロスボウに矢を取り付けるのだった。

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