大群
右手から素早く血を弓矢にした僕は、眼下のモンスターに向けて真紅の矢を放った。
イライザやシーラ、アエリアや護衛も魔術を放ち、モンスターを攻撃し始める。
風の刃や青い精霊による遠距離攻撃だ。
ひしめき合うモンスターは避けることも出来ない。
真紅の矢も魔術も全て命中する。
モンスター達の皮膚が裂け、青い血が吹き出す。
トカゲやカニ、ドジョウに似た巨体のモンスター達が苦痛の声を上げ、叫び始める。
モンスター達は目の前の陣に気をとられて、僕達の攻撃はまともに受けたようだ。
まずは狙い通り、一撃を食らわせた。
当然、モンスター達も僕達を認識する。
モンスター達の何匹かが魔力を放射し始めている。
モンスターは獣と同じように野生に突き動かされているが、魔術を使うことができる。
巨体によるパワーも厄介だけれど、モンスターによる魔術も危険きわまりない。
「次、魔術を放つ奴を優先的に!」
僕は続けざまにこちらを睨み付け、魔術を放とうとするモンスターを矢で射っていく。
魔術を放つのを止めるには、頭を狙うべきとされている。
もちろん、馬車や大きな個体になるとテントほどにもなるモンスターだ。
頭を狙うのはそんなに簡単じゃない。
しかし今は飛行騎兵で高所の利がある。
しかも怒りにかられたモンスター達は、僕達に頭を向けているのだ。
口を大きく開け威嚇するモンスターへ弓が命中する。
モンスターの外皮は一様に鎧のように固い。それでも口の中は別だ。
ついに痛みに耐えかねたモンスターの何匹がその場で暴れ始める。
上陸し続け列になっているモンスター達は、途端に混乱し始める。
爪や尾が周囲のモンスターに激突し、制御を失った魔術が別のモンスターを攻撃する。
モンスターの数は多いが統制されているわけではないし、様々な種類が混じり合っている。
これが僕の狙いだった。
一度起き始めた混乱は、洪水のように広がっていく。
「モンスターはまだ河から上陸してくる!?」
「……はい、あと数十体は来ますです!」
「くっ……とりあえず混乱を拡大させるんだ! ガストン将軍が体勢を整えるまで、近づかせるな!」
それでも先頭の無傷なモンスターや、同士討ちを避けたモンスターはガストン将軍の陣へと突撃していく。
だけれど、兵達も最初の混乱からは脱しつつあるようだ。
盾と鎧を装備した重装兵が前線に現れ、距離を取りながらモンスターに対峙する。
人数は少ないながらも、魔術攻撃が始まりモンスターを食い止めている。
それでも数が多い。
このままだと大きな被害ーー1千人規模の被害が出かねない。
それでも一匹、また一匹と陣へとモンスターは攻め寄せる。
僕達もモンスターに捕捉され始めていた。
水球や風の刃といった魔術が放たれ、僕達を叩き落とそうとする。
空から落とされたら下はモンスターの大群だ。命はない。
あるいは皮膜のような魔術で防御を固めるモンスターもいる。
こうなると僕達の遠距離攻撃では埒が明かない。
対モンスター戦の基本は適切な距離を取ることだけれど、敵の攻撃を回避し続けながらでは難しい。
「無駄かも知れないけれど……やるしかないか……!」
僕はイライザへと大声で、
「《血液操作》で足止めの壁を作ってみる! 援護してくれ!」
《血液操作》は魔力を含んでいると操りきれない。
それに荒れ狂うモンスターの達の前では、レナードの時のように即座に拘束は無理だろう。
それでも兵は3千人もいる。
柵や壁程度でも効果はあるはずだ。
イライザは一瞬迷ったようだけれど、
「わかりました……! くれぐれもお気を付けて!」
僕は手綱を取ると飛行騎兵をモンスターの上空から、兵達の前線へと駆った。
そのまま滑り落ちるように馬から降りて、僕は両手を地面につける。
「これまでの援護、感謝します……ここは危ないです、お下がりを!」
前線の兵が僕を庇うように前に出る。
正規兵であれば、僕達の顔を知らなくても立場はわかる。
「いえ……まだ、やれます……! 少しだけ後ろに下がっていてください!」




