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雨の中

 雨は止むどころか、ますます強くなっていた。

 ざぁざぁと降り続ける雨が視界をふさぐ。

 前を見ても下を見てもよく地形がわからない。


 振り落とされないようにしながら、僕達は飛行騎兵で進んでいた。

 なんとか遅れることなく、街から街へと飛び移りながらガストン将軍の陣へと近づいている。


 方位と距離を測る魔術具がなければ、到着は大幅に遅れていただろう。

 しかし晴れた日の全速力よりは遅れている。


「今、何時くらい……?」


「夕方の6時くらいです……」


 懐からイライザが懐中時計を出して確かめる。

 僕には手の届かない高級品だ。

 空は夜のように暗い。

 いや、雲が月明かりを隠している分、一層漆黒が空を満たしている。


「……もうすぐ着くよね……」


 今は高度を少し下げながら飛行している。

 あまり下げすぎると、今度はモンスターが寄ってくる危険があるけれども。


「そうですね……もう近くのはずですが……」


「あ、あれじゃない!?」


 地平線の彼方に、ぼんやりと明るい魔力灯が何本も見える。

 轟音を響かせるグラウン大河の横に、ガストン将軍の陣があった。

 魔力灯はディーン王国軍の夜営でよく使われる、縦長の光る塔だ。


 白い光は高さ2階建てに伸びて陣を誇示している。

 ガストン将軍の陣にある魔力灯は極めて高級で、聖宝球の力も持っていると聞いた。

 モンスター避けにもなっているのだ。


「でも、あそこでかなりの魔力が乱れていますです……あり得ないくらいの乱れ方です!」


 シーラが後方から呼び掛けてくる。

 僕の魔術では、とてもそこまではわからない。

 歯噛みをしていると、隣のライラが勢い良く陣を指差した。


「あそこにモンスターが……!」


 目を細めると魔力灯と魔力灯、雨の間に異形の影が映っている。

 巨大なカニのモンスターがハサミを突き出していた。

 あり得ない。ガストン将軍の陣の、真ん中にモンスターがいる!


「そんな……!?」


 魔力灯にはどんどんとモンスターが集まっているようだ。

 ガストン将軍の兵は、逃げ惑う人や武器を持つ人が混在している。


(不意を討たれてる……!)


 無理もない、聖宝球の加護でモンスターは近寄らないはずだ。

 そのはずなのに、現実にはモンスターがーー1匹や2匹ではない。

 トカゲやカエル、あるいは身体をくねらせる巨大魚が現れている。

 いまや10匹以上のモンスターが陣へと侵入しているのが見てとれた。


 僕達も猛スピードで陣へと接近する。

 ガストン将軍の陣から叫び声が上がり、本格的に戦闘が始まった。

 グラウン大河からは、さらにモンスターが河から上陸し続けている。


 ガストン将軍の陣は3千人だけれど、一般的な兵のはずだ。

 対モンスター用の訓練もしているだろうが、苦戦は必至だろう。


 モンスターにはスキルや魔術、魔術武器でないと効果的な打撃を与えられない。

 それらは一般兵が持ち得ないものだ。


「……グラウン大河のモンスターのレートは?」


 僕達はいよいよ陣の上に迫った。

 イライザが焦りを込めて、


「Cクラスです……モンスター1匹につき、魔術が使えない武装兵なら20人は必要です!」


 もちろん、それは十分な距離をとっていたりした時の目安だ。

 乱戦になれば被害は爆発的に増えてしまう。

 見過ごすことなんて、できない。

 彼らは同じディーン王国の兵だ。


「わかった……知らない顔なんて出来ない! 僕達は河から上がるモンスターを迎撃しよう!」


 僕達は今、飛行騎兵に乗っている。

 乱戦に入るより上空から遊撃の方がいいだろう。


「……私は降りて戦いますね」


 ライラが言うや、飛び降り体勢に入った。

 今、真下は激戦だ。

 魔力灯に照らされ、剣や弓が飛び交っていた。


「え……!? い、いや……!」


「心配は御無用です……よっと!」


 躊躇なく飛び降りたライラは、そのまま落下しブルークラブの甲羅を踏みつける。

 馬車数台分の巨体を誇るブルークラブの背が、一発で砕けた。


「ギィィィィ!」


 驚きと苦痛の悲鳴を上げるブルークラブは、ハサミを背に向けてライラを攻撃する。

 盾をも叩き壊す恐るべき一撃をライラは両手で受け止める。


「ふぅ……!!」


 気合い一閃、ライラは両手をぐるっと回してブルークラブのハサミをねじ切った。


「返しますよ!!」


 そのままむしりとったハサミを、ブルークラブの背に叩き込む。

 大人の半身ほどのハサミがブルークラブへと突き刺さった。


「ギィィィ……! ギギッ……!」


 だがブルークラブにはまだ息がある。

 しかしライラの強さは圧倒的だ。


 兵達も突然の乱入者に呆気にとられるも、歓声を上げる。

 そりゃそうだ、兵20人に匹敵するモンスターをあっさり追い詰めているだから。


 確かに僕が心配するレベルじゃない。

 このレベルの体術なら接近戦の方がいいだろう。


「宜しいのですか……?」


「任せるしかないね……」


 ライラも無茶はしないはずだ。

 それよりも、上陸し続けるモンスターをなんとかしなければ。


 僕は右手に意識を集中する。

 モンスターとの戦いは、久しぶりだった。

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