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芦屋物語  作者: 愛犬元気。
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第四話

昼の12時。

クラスはワイワイガヤガヤと楽しい雰囲気で皆お昼をつついていた。


「あー、あれは最高だったなあ…ねえ見たよね三日前の体育終わりの。ああ、尊い…。」


大きなリボンをつけたあのツインテールの女子が、興奮気味に黒髪ショートの友達の肩をバシバシと叩いた。




「え?なに?」


「だから―、三日前のご褒美!あれ絶対告白だよね。芦屋君の告白が成功したのよね!!あの渡部君の頭なでなではもうやばい…。」


「そんなわけないでしょ。私あんたのせいであの二人を観察するようになっちゃったけどさ、最近芦屋君神田さんばかり見ている気がするけどなあ。」


「そんなわけないでしょ!芦屋君には渡部君しかいないんだから!!」


「いやでも、あの目は恋だと思うなあ。けど、あの二人がくっつくと思うとなんか面白いね。」


「面白い?女とくっつくのが?」


「何言ってんの。あの似たような二人がくっついたら話題のカップルよ。それに二人ともかっこいいし綺麗だし。」


「認めない!!!そんなのヤダ!!」


「気になるなあ。芦屋君どこで神田さんを好きになったのか直接聞いてみたい…。」






「あの…芦屋君。」


「あ?」


芦屋が校舎入り口近くの自販機で飲み物を買ったとき、そいつは現れた。


「話があるんだけど。」



「…お前誰だっけ。」


「宇佐川だよ。今年からクラス一緒の。」


「ふーん。」


「ちょっとまってよ。」


「あ?」


芦屋はイライラしながら振り返った。



「彼の事いじめてないよね?」


「は?」


「渡部君だよ。ずっと君たちの事が心配で。」


「お前は一体何なんだよ。」


「彼が傷だらけなのが気になって…。」


「でもお前には関係ない。」


「関係なくないよ。」


「は?」


芦屋がだるそうに顔を上げると、女のような男は険しい顔でこちらをじっと見ていた。


「あいつと友達だっけ?」


「僕は、誰かが傷つくのが嫌なだけなんだよ。今の渡部君見ているとやせ我慢しているようにも見えるんだ。」


「そうか。」


「何か弱味でも握ってるの?渡部君を傷つけて何がしたいの?」


「うるせえんだよ。殺されてーのかよ。」


「やっぱり殺してるの?人を山の中で。」


「…。」


そう宇佐が発言した後、芦屋の切れ長の目がキッときつくなった。



「くくくくく…。」


「え?な、何?本当なの?」


片手の缶ジュースを強く握り、開け口からトマトジュースの赤い液体が床に流れ落ちる。



芦屋はにやにや笑いながら、そのただならぬ様子に動けない宇佐に近づいた。


「山じゃなくても殺せるぜ。お前ごとき。」


ガッ!!!



「!?」


芦屋は飲めなくなった缶を床に落とし、トマトジュースのついたその手で宇佐の口元を鷲掴みにして、自販機にたたきつけた。



「ぐっ…。」


自販機にたたきつけられて、その力に押し付けられてる彼の顔はトマトジュースで赤く染まった。



「これがお前の血になる事を忘れるな。それと俺たちに横やりを入れるんじゃねえ。普通に友達だ。」


「そう…なの…?」


「俺は少し突飛な病気なだけだ。これで満足だろ。もう二度と俺や皐月を嗅ぎまわるんじゃねえ。ぶち殺すぞ。」


芦屋のそのドスの利いた声と、その目で人を殺してくるかのようなその眼光がうさぎを噛み殺そうとする。



先ほどから通る数人の生徒が二人を見て見ぬふりで足早に去っていく。


「…信じるよ。芦屋君の事。」


トマトジュース塗れの宇佐がそう答えると、その頬に食い込んだ爪がようやく外された。



そして芦屋は何も言わず、缶を床に捨てたままその場から立ち去った。



「はあ…怖い…あの噂やっぱり本当なのかな…。」


トマトジュースをハンカチでふき取りながら、可愛い男は懲りずに心の中で硬い意志を決意した。


ガラッ




「お帰り遅かったね。」


何も知らない皐月がいつも通り真向かいに座っていた。

だが察知能力の優れている彼には、友達の機嫌が悪いことがすぐに分かった。



「飲み物は?」


「捨てた。」


「いいの?」


「ああ。」


皐月が買ってきた弁当を乱暴に開けると、ご飯の上の焼き肉をこれでもかと言うくらい臼歯ですり潰す。


その様子に、皐月もただならぬ怒りを感じてそれを言うほかにはなかった。


「どうしたの?」



「あのオカマが俺にも絡んできやがった。」


「宇佐のこと?」


「お前に言ったようなこと聞いてきやがった。」


「何もしてない?」


「何がだよ。」


「殴ったりとか。」


「脅しただけだ。」


「そうか。さすがに殴ったりはするなよ。…けど俺も少し困惑はしてるよ。宇佐しつこくてさ。」


「だろ?ああいうやつ見ると殺したくなる。」


「悪気はないんだけどね。ちょっと限度を越してるけど。うちのクラスに不良の相田いるだろ?赤毛の髪が短いやつ。」


「そんな奴いたか?」


「お前はいつも何を見てるんだ?中学の時の話だけど、そいつに友達の金が奪われたって言って相田に何度も突っかかって相田にカッターで刺されたことあるよ。」


「それどっちがこえーかわかんねえな。」


「そうだな。金は戻ってこなかったけど、和解した後は相田の天敵になったみたいだ。そんな過去があっても、宇佐は未だ正義感で突っかかってくる。」



「病気だ。」


「心配なんだよ。お前が学校であいつを殺したりしないか。」


「わかんねえ。あいつがこれで懲りてなきゃ。」


二人は同時にため息をついた。




 




放課後



「じゃあな。」



芦屋は教室の前で皐月と別れると、そのまま出口へ続く一階へ降りる階段をゆっくり降りていく。



「!」


階段から一階を見下ろした時、芦屋の眼は大きく開いた。



その視線の先は神田だった。


脳裏にはあの保健室で言われた言葉がずっとリフレインしている。

実はずっとそうだった。


けれど足は神田の歩く方向へ約小股4歩後から追いかけていた。



彼女は気づかずに長い黒い髪を揺らしながら、どこかに一直線へ向かう。



「弓道…。」


彼女が行き着いた先は弓道部が集まる武道館だった。


その中に消えた後しばらくして中を覗いてみる。




そこには何人かの袴を着た男女が遠くの的を射ようと狙いを定めていた。


探す間もなく、袴を着た神田が真剣な眼差しで床に腰を下ろしている。

神社にいる巫女の様に、どこか神聖な雰囲気とオーラを醸し出す神田。


あの生意気な事を一切言わない真剣な彼女は、神に仕える神聖な使いの様だ。


それに目を奪われていると、彼女は立ち上がり弓と矢を流れるように的に構えた。



ビュン


と、その顔の横から矢が勢いよく的に向かって飛んでいく。



的までは見えなかったが、拍手が起こった。


「…。」


芦屋は黙って扉を閉め、出口へと向かった。




「…。」



一人で帰る帰り道。

家は徒歩二十分くらい。



皐月は理研部で、いつもよくわからない液体を混ぜては喜んでいる。

正直一緒に帰れないのはやはり寂しいもんだと思う。


けど、最近は冷静になって考えたら分かった。

理研部でそんなことしてる瞬間があいつにとって唯一の安らぎであることを。



あいつがなんでいきなり話しかけてきて、ここまで俺と仲良くなりたかったのかはわからない。

もしかしたら何か大きな狙いでもあるのかと思ったが、思いつく節もない。


本当の聖人君子。それだけだ。



「今日何日だ?」


今日は九月二十七日。

あの、忌まわしき出来事が起こったのもこの日だった。


「…。」


秋風が首元をすり抜ける。

夕日で橙色に染まる辺りと芦屋の瞳は、遠くにそびえる大きな山を映していた。




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