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芦屋物語  作者: 愛犬元気。
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第十二話

その日の放課後

二年の廊下で、蓮本の周りに同級生の仲の良い不良達が3人集まっていた。


「優也。ゲーセン行こうぜ。」


「いかねえ。」


「なんだよつれねえな。」


「俺もうそういうのしねえから。」


「は?」



蓮本はそう言い捨てると、一人バックをもってすぐに階段を降りて行った。



「なんだよ、あいつ変わったな。」


「女じゃね。」


「一途だなああいつ。」


ちょっと寂し気に彼らはつぶやいた。




「じゃあね。芦屋。」


「おう。」



皐月は荷物をまとめて教室を出ていく。

理研部の部活動の為だ。


「神田。帰ろうぜ。」


「…。」


隠すこともなく現れる芦屋に無言でチラッと一瞬見る神田。


彼女はそれに何も答えず足早に先に教室を出ていく。

芦屋もそれを追いかけた。




二人で並んで歩きはじめたのは校門を出てからだった。


神田が帰る駅方向に、二人はゆっくり歩きだした。



「あなた危機感なさすぎよ。」


神田は突然振り向いて芦屋を見上げた。


「は?」


「いろんな人にばれてるじゃない。」


「違う。あれはあいつらの妄想だ。俺は別に関係ない。」


「そうかしら?宇佐川君に関しては信用できないわ。」


「あんな奴ああなって正解だ。人の周辺嗅ぎまわりやがって。」


「本当はあの山へ行っているんでしょう?」


「神田まで何言うんだよ。」


「嘘よ。金曜の夜に行っているんじゃない?何してるかまでは聞きたくないわ。」


「…。」


「このまま蓮本君に足をつかまれるかもしれない。そうしたら、あなただけじゃなく渡部君も悲しむわよ。行っているならもう行かないほうがいいわ。」



「あいつが言うんだよ。地獄に落とされたくなかったら、生贄を探せって。」


 「生贄?」


「俺はそいつが満足するために言うこと聞かねえと、また死んだらあいつに苦しめられる。」


「そんなもの無いわ。死後の世界なんかそんなもの。」


「そう思う。思いたい。けど、あの山に行けばあいつが喜んで俺を褒める。逆にそうしないと、あいつが部屋に現れたりする。見えるんだよ。それで、俺を地獄に落としに来るんだ。」


「でも、いつまでもそんな事をしていたらことが公になる。それを断ち切れなければもうこの先生きていけない。」



「神田は黙っててくれるのか。俺を警察に突き出したりしないのか。」


「めんどくさい。私に害が及ばなければどうでもいいわ。」


神田はそうツンとして長い髪を揺らした。




「一人で行ってるの?」


「ああ。」


「…そう。」


「そこは本当だ。皐月には何も言ってない。さすがに手を汚させるわけにはいかねえしな。」


「蓮本君たちを殺したりしてはだめよ。」


「男は殺さねえよ。食料にもならねえし。」


「じゃあ、あの自殺した彼は?」


「誰だ?」


「いたじゃない。動画投稿してたウチの学生が首つり自殺したって。男子学生よ。」


「知らねえ。俺は男を殺してねえし手も付けてねえ。そいつが勝手に自殺したんじゃねえの?」


「…。」


「なんか不満か?」


「いいえ。でも宇佐川君になにかしたのは芦屋君でしょ。」


「…ノーコメント。」



「あれ以上クラスの人たちに手を出しちゃダメ。足がつくわ。」


「わかった。」


芦屋は素直に頷いた。



「お前がそれでクソ野郎と縁切るなら。」


「あの人が勝手について来るだけよ。あなたみたいに。」


「お前は俺のこと好きじゃないのか?」


「普通よ。」


「テレビでやってたんだけどよ、なんか、手繋いだりとかするらしいぜ。」


「…ちょっと!」


急に手を握られ神田はすぐに手を引っ込めた。


「なんでだよ。」


「そう言う仲じゃないわ。」


「駅まで。」


芦屋はそう言って右手を彼女の顔の前に近づけた。


神田が顔を上げると、駅はもう五百メートル先に見えていた。


芦屋がさりげなく彼女のがら空きの左手を握る。


「恥ずかしくないの?私はできないわ。こんな事。」


「そうか?俺は普通に嬉しいけどな。」


「なんでそんなバカ素直なのよ…。」


二人はその短い距離を手を繋いで歩いた。



「じゃあな。」


「ええ。さよなら。」



二人は改札で別れた。









「わざわざ来てくれてありがとう。」


その頃、宇佐川は突然やって来た訪問者に笑顔を振りまいていた。



その狭い部屋のちゃぶ台を前にして、熱いお茶をすする蓮本。


「体調はどうなんだよ?」


「うん。よくなったよ。さっきよりはね。」


「なんだったんだよさっきの症状は?」



「わからない。眠くなって目を開けたら、昨日の夜のそいつが見えた。これも呪いの山の影響なのかな。」


「かもな。」


「それで、どこまで聞きたいの?」


「全部だ全部。あいつの情報全部。」


「そうだな…芦屋君が渡部君の指を噛んでいるところを見た時はあったかな。」


「なんだそれ。気持ち悪いな。」



「芦屋君は病気持ちで突飛的に噛んでしまったりするらしいよ。なんの病気かはわからないけど、過去に何かトラウマができるようなことがあったとか。」



「そんな病気あるのか?」


「知らない。検索して見たけどよくわからなかった。」


「渡部皐月はなんであんな奴といるんだよ。」


「先生に頼まれたとか言ってたよ。仲良くなったのはその事があったからって。」


「なんであいつは平気で接してんだよ。頭おかしいだろ。」


「…。」


「あいつが案外操ってたりするとかな。」


「渡部君が?でも苦労してるみたいだよ。」


「直接聞いてみるか。あの渡部皐月とか言うやつに。」


「でも僕も渡部君は謎かもしれない。」



「仲いいんだろ?あいつと。」


「仲はいいと思うけど、彼の家に行ったりとか、メールアドレスの交換とかはしたことないかな。それに、芦屋君以外の人とメールアドレス一切交換してないみたい。みんな知らなかったよ。」


「その薬もなんなんだよ。あいつが作った薬なのか?」


「お父さんが薬の研究している人なんだって。結構大きいところの。」


「なんでそんな奴がこんな学校に?」


「思うよね。同じ市立に来るなんて僕も思わなかった。」


宇佐もそう言って腕を組んだ。


「そこの謎を解けば何か見てる気がする、芦屋にはこれ以上行っても無駄だろうな。」



「渡部君の方が抜かりないと思うけどね。」


「そんな奴なのか?なんか優しいだけの奴って感じだけど。」



「…あの危ない人僕を後継者にするって言ってたけどそのまんまの意味なのかな。」


「人の肉を食わせてなんになるんだよ。儀式かよなんかの。」


「わかんないよ。何もかも。何人か行方不明になってるし、その人達はもしかしたら食べられたのかも…。」


「人が人を食べる?そんなバカなことあるかよ!よし、俺もあの山へ行く。」

 


「ええ!?駄目だよ!」


「金曜の夜だっけ?やばい奴が現れるの。お前も行くだろ?」


「僕も?」


「俺道わかんねえから当たり前だろ。調子よくなった時にでいいから。二週間以内。」


「う、うん…。」


宇佐は蓮本の気迫に負けて戸惑いながら頷いた。




「神田の正気を取り戻してやる。」


蓮本はそう言って拳を握り締めた。







次の日の火曜日。




「なあ皐月。」


芦屋はふらふらしながらマンションから出てきた。


「どうしたの?」


「頭が痛い。」


「悪夢を見たの?」



「ああ…。」


「休む?」



皐月は芦屋の腕を支えながら歩きだした。



「俺さ、お前に言ってなかったことあったんだ。」


芦屋はふらふらしながら彼に言った。


「どうしたの?」


「ずっと山に行ってなかったって言ってただろ。あれ嘘なんだよ。」


「大嶽山のこと?」


「ああ。実はずっと行ってたんだ。お前に内緒で。そこで俺は言えないことをしてる。」


「…。」


「お前に迷惑かけたくなかったんだ。ずっと。けど俺はその山に入ってやっちゃいけないことずっとやってる。お前と仲良くなる前からずっと。それをやらないと、あいつに取り込まれる気がして…。」


「どうして今言おうと思ったの?」


「神田に言われて、なんか言わなきゃいけない気がしてきた。」



「薄々気付いてたよ。」


「は、どこで?」


「まず冷蔵庫。あの血だらけの肉塊。どう見ても豚じゃないよね。」


「…。」


「金曜日はいつも早足で帰るし。なんかやってんだろうなって。」



「なんで今まで黙ってた?」


「聞いちゃいけないかなって。でもわかるよ。卓のやることくらい。」


「そうか…。」


芦屋はそう言ってため息をついた。



「それだけ?」


「え、ああ。」


「それ神田さんにも言っちゃったんだ。」


「まずかったか?」


「卓はそこまで彼女を信頼しているんだね。でも、これからずっと彼女から目を離せなくなった。」


「あいつは優しい。だから黙っていてくれる。」


「どうしてそんなこと言えるの?神田さんはずっとお前といると思ってる?」


「…。」


「それだけじゃない。あのクラスの何人かがお前の事疑ってる。自分の首を自分で締めていることわかってる?」


「それならそれでいい。」


「なにがいいんだよ。お前は何にもわかってない。今のお前の事嫌いになりそうだ。」


「…どうしたらいいんだ。」


「もうどうしようもできないところまで来てる。神田さんに関しては。」


「それってどう言う意味なんだ?」


「そのまんまの意味。」


「あいつに危害を加えたりするなよ。」


「加えてるのはお前だ。なにもかも。今まで通りやっていればこんなことにはならなかったはずだ。」


皐月は怖いくらい怒りながら芦屋を問い詰めた。



「なんでそんな怖い顔するんだよ。いつものお前じゃないみたいだ。」


「卓。今日神田さんと別れて。」


「は?」


「じゃなきゃ、俺も考える。」


「まだ付き合ってもねえよ。」


「じゃあ話しかけるな。」


「…。」


皐月の顔を横目で見る。

こんなに怒る彼は久しぶりに見る。


その光景に、流石に萎縮する芦屋だった。


「これから先余計なことは喋るなよ。」


「わかった。お前がそこまで言うなら…。」






「おはよう渡部君。芦屋君。」


教室に二人が入ってくるなり、野々花が元気よく二人に挨拶した。


「おはよう。」


渡部は相変わらず爽やかに挨拶を返す。


「あれ?」


彼女は、そそくさと机に行く芦屋を見て首をかしげた。


「芦屋君なんか元気ないね。」


「そうかな。なんともないよ。」


皐月は彼女にそうニコッと笑った。




「おい。渡部皐月。」



「?」


皐月が芦屋の席に移動するなり、蓮本が彼の目の前に現れた。


酷く落ち込んだ芦屋は机に胸をつけてチラッと蓮本を見るだけだった。



「話がある。」


「ここでは無理なの?」


「二人で話したい。」


「後ででもいいかな。昼とか。」


「ああ。食った後でも。」



「皐月に何の用があんだよ。」


芦屋はすぐさま彼に噛み付いた。



「てめえには用はねえよ。」


「俺もついて行く。」


「いいよ。ついてこないで。」


皐月はそうニコッと笑ったが、芦屋には冷たく突き飛ばされたような感覚になった。


「約束な。別に殴ったりするわけじゃねえから安心しな。」



そう吐き捨てると、蓮本はその場からいなくなった。


ガラ



「神田だ。」


芦屋は思わず呟いた後、すぐ口を手で覆った。



「仲良くしてもいいけど、最終手段を取るよ。」


「さ、最終手段?」


「俺は、まだ蓮本とくっついた方が彼女は幸せだと思うけど。」


「なんでそんなこと言うんだよ。お前応援してくれるって言っただろ。」



「このまま彼女を傷つけたいならそのままでいいよ。俺にぶつける分には構わないけど。」



「俺、独りになりたくねえよ。」


「させないよ。これからもずっと一緒だ。」


「無理だそんなの。こんな風にしていられるのも後一年と少しだろ。だから好きにさせてくれよ。後一年でいいから。」


「だから、俺はずっと支えて行くよお前の事。お互い爺さんになるまで。」


「結婚とかするだろ?お前も。お前は俺と違うし、わざわざ辛い思いをする必要なんかないし。」


「辛い思いなんかしてないよ。寧ろ芦屋がいてくれなきゃ俺の人生おかしくなるし。」


「お前の何がそうさせるんだよ。嘘でもうれしいけどよ。」


と、芦屋は皐月の笑顔に安堵した様に少し笑った。



「だから、余計な物は削ぎ落とすつもりだから。分かってくれるよね。」



と、いつもの優しい笑顔で芦屋に微笑みかけた。


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