魔王城は俺の城、だけど違和感しかない。
暫く立ち止まっていると、リルリアがおれの目の前まで駆けてくる。
てっきり馬車かなんかで来るのだと思ったがそうでもねーみたいだな。一直線におれに向かって飛んできている。
飛行能力とかズル。
俺がそう思うのもしょうがないと思ってくれ。前世では飛ぶなんてなんかつけるとかどうとかしないと無理だったんだからさ。
そんなしょうもないことを考えているといよいよリルリアが俺のすぐ前まで来た。
フワリ、と優雅に着地する姿はまさに天使。何しろリルリアは超絶美人なのだ。
前世の世界三大美女なんてものともしないくらいに、美人なのだ。それは最早「転生したあとに必ず出てくる美人な女」を超越しすぎている。女神に称えても問題ないくらいに美人だ。
この短時間で何度美人といっただろう、まぁそれくらいなワケだ。
フワリとした栗色の神に淡い琥珀色の目。顔のパーツは全てが絶妙に組み合わさっている。勿論スタイルは抜群。
こいつが俺の幼馴染みだなんて信じられない程だ。
「アル!無視してんじゃないわよ!さっさと来なさい‼︎」
しかし性格がキツイのが問題なのだが。
黙っていればただの美人だ。まぁマゾにとっては最高なんだろうな。
「…よう、久しぶりだな。元気そうじゃん?」
俺は小さく笑いながらそう話しかける。何故か悔しそうな顔をしていたのは気のせいか。
「よう、じゃないわよ!ほら、とっとと行くわよ‼︎ 国王様がお待ちなんだから!」
そう言ってリルリアは俺を引きずろうと…いや、引きずっている。俺は魔王なんじゃなかったのか。
国王様と俺とどっちが偉いのかを考えてみる。この世界は弱肉強食。強い方が偉い世界。
…まぁ、王族は除くらしいがな。
じゃあやっぱり国王様の方が偉いんだろうか。
とかなんとか考えている内に馬車的なアレに乗せられる。見た目がちょっと元日本人としては若干グロテスクなのだがまぁそれは置いておこう。
ガタガタと揺れて移動し始める。
「なぁリルリアー、国王様と魔王ってどっちが偉いんだ?あんまよくわかんねぇんたけど。」
なんとなしにそう質問してみると、考える素振りを見せる。
わからない訳か。さて、どうしようか。
「…私はわかんないや。国王様に直接聞いてみなよ、もうすぐ着くし。」
「速いな!?すぐじゃねーか。」
ワープでもした勢いだぞこれは。まぁいいけど。
着きましたー、とか言う御者に礼をいい、魔王城を眺める。
悪趣味だなぁ、とか思うけどまぁこういうもんなんだろう。黒っぽいレンガも貴重と思えばいい感じに思えるかもしれない。
…というか俺が魔王ということは。
ここに俺が住むってことか?
勘弁してくれ。
俺の前の家と言えば木造で暗いがまぁあったかかったんだ。…温もりがあった。思い入れも。なんたって自分で建てたからな。
「リルリア・ルスレイルム殿、魔王、アルヴィ・ディケランゼル様!おかえりなさいませ、家臣一同、国王様含めお待ちしておりました!」
うお…騎士っぽいやつが敬礼してる。俺に?マジで?
…すげぇ、としか言いようがない。
門の前で立っていると、入るわよ、とリルリアが急かす。
はいはい、と適当に返事しながら中に入るが、やはりそこは俺の趣味とはかけ離れた世界だった。
悪趣味な装飾は存在感を増し、ますます不気味になっていく。
ここってやっぱり悪者のしろなんだなぁ、とかのんきに思ったり。まぁ、リルリアが俺を引っ張るからすぐにその風景はすぐに消え去ったんだがな。
鳴り止まない鼓動。
ハッキリとした高揚感。
人の上に立つということの快感。
俺が勇者として予想していたその感情は、なんとも微妙なものだった。
鼓動は落ち着いてるし、高揚感もろくにない。快感は…否定しないがあんまりいいもんじゃない。
しかしそれに比べて際立つこの感情。
それは、嫌悪感、だ。
スゥ、と目を上にやると、神々しい装飾。周りを見渡せば、煌びやかな、しかしどこかもの苦しい家具や装飾の数々。
目の前には…そこで思考が止まった。
何故?何故アイツがここにいる?
目に止まったのは、暗黒騎士の一員として命じられているハズの…元、俺の幼馴染み。
人間と蛇を混ぜた蛇人、レイガ・スレビィが立っていた。
彼は特殊なやつだった。リルリアと共に、俺の幼馴染みはすべて村を5歳の時に出ていったのだ。
まぁ俺も今では魔王だ。人のこと言えないけどな。
改めてレイガを眺める。コイツもコイツでエライ美貌だ。蛇人族は魔人と似た容姿をしており、それは髪が蛇のようにウネウネとし、頬の一部が鱗のようになってる他、違うところはない。
「久しぶりだね、アルヴィ。会えて嬉しいよ」
…コイツは、無表情がデフォルトだ。別に何考えてるかわからんってことはないからいいんだけどさ。
ちなみに6歳の癖にコイツの知能がヤケに高いのは今も不明だ。それはリルリアも候補に含まれ、転生者かと考えるものの3人も同じ村に転生者が生まれたってか?信じられねぇ。
俺は適当にここに1年いるからなんだろうなぁ、と考えている。
「相変わらずだなぁ、お前も。……元気そうで何よりさ。」
そう呟くと、いきなり跪かれる。なんだと。
何やってんだ、コイツ。
「あぁ、魔王様よ!会えて何より、生まれてきたことに感謝致します!」
「アルヴィ・ディケランゼル様!貴殿の魔王様としての誕生、心よりご祝福致します!」
奥から甲高い声と野太い声が聞こえる。
...レイガが跪いたのはこのせいか。漠然とそう確信する。
「別にそんなかしこまられてもなぁ...そのままでいいのにさ、なんでそんなちゃきっとしてんの?」
それはレイガにかけた言葉だ。奥から歩いてくる2人は目に入ったが、どうでもいい。
俺は幼馴染みであるレイガにかしこまられているこの状況が嫌でならない。
「あのふたりが喋り終わるまで待ってて」
小声で、俺にしか聞こえないようにレイガはそう言う。
しょーがねぇなぁ。
「魔王様、貴方様にはこの世界を束ねていただく存在になってくだされ! この世界を支配によって服従させるのです!」
支配。服従。出たよ、俺の嫌いな言葉。
「それを実現できるのは強大な力を持つ貴方様...そう、魔王様でしかないのですわぁ!」
甲高い声が響く。あぁ、うるさい。俺は支配なんか求めてない。
俺は勇者を滅ぼせればそれでいい。無駄な殺しなんてしたくない。
「俺は、君達が望んでるような魔王には...なれないかもな。」
驚愕の表情が、2人には生まれた。
何故か、レイガだけが、俺のことを理解しているように、そうだと思った...、そう小さく呟いたその声が。
地獄耳の俺には届いた。
今回ステータス表示はありません。だって変わってないし...((
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