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ダージリンティーの抽出時間をはかるために、テーブルの上に置かれたスマホ。そこへ窓からの光がほのかに射し込む。外は誰かを歓迎するかのような、雲ひとつない青空のようだ。絶好のお出かけ日和だと、テレビの中の華やかなお姉さんが言う。
ダージリンティーをカップに注ぎながら、ふと、昨日のことを思い返す。
「ブレンドコーヒー、ひとつ。持ち帰りで。」
バイト先の閉店間際に、来た男性客は、雨に降られたようだった。コーヒーが出来るまでのあいだに、その男性客は、傘立てに置いておいたら、傘がなくなっちゃって、と、はにかみながら弁解する。手には、赤いガーベラの花束。
「よかったら…」
私は、近くにあったタオルペーパーを2枚取って差し出した。
「すいません」
やはり、はにかみながら、言う。
「ブレンドコーヒー、お待たせしました。」
バイトの後輩がコーヒーを渡し、その男性客は帰って行った。
「先輩、優しいんですね。」
「なんだか、かわいそうだったから。」
そんな風に答えておいたけれど、彼は、かわいそうには見えなかった。幸せに包まれた、そんな、雰囲気だった。
どうしたらそんな幸せそうな笑顔を出来るのだろう。
そんなことを考えながら、ダージリンティーに牛乳を少し注ぐ。綺麗な赤みがかった濃い水色に、ふんわりと、牛乳の色が流れ込む。少し肌寒さを感じて、電気ストーブのスイッチを入れた。