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ヴァルキリーズ・ストーム外伝 後継者達 前編 

作者: 綿屋 伊織

……色々あるでしょうけど、とりあえず、短編ってことで♪

 高校三年の冬。


 生徒達にとって人生の岐路と言える頃。


 この娘も、そういう意味では、岐路に立っていた。


「とにかく」

 場所は進路指導室。

 ストーブに乗せられた薬缶から盛んに蒸気があがる中、四方堂緑は、進路指導の木村教諭と向かい合いになって椅子に座っていた。

「合格おめでとう」

「ありがとう、ございます」

「東帝都大学経済学部といえば、私立の中では最高だ。さすがだな」

「ありがとう、ございます」

「……ん?浮かない顔だな」

「い、いえ」緑は、無理に作り笑いを浮かべてみたが、上手くいかなかった。

「四方堂―――まさかと思うが」

 木村教諭が、分厚い眼鏡の下から鋭い視線を緑に送った。

「未だ、騎士として仕事につきたいなんて、考えているんじゃないだろうな」

「い……いえ」

 視線を自分から外した生徒の本心が見抜けないほど、木村教諭はマヌケではない。

「やめておけ」

「……」

「お前の騎士ランクでは、警備会社への就職も無理だ」

「あの、先生」

「親御さんからきつく止められているんだろう?お前のアタマでメサイア整備部隊なんてもったいない!」

「近衛軍への採用試験、受験出来ませんか?」

「受験資格はある。だが、それはお前の人生をドブに捨てるようなものだ。いいか?四方堂。騎士だけが人生じゃない。メサイアだけが人生じゃない。趣味や幻想と、現実の生活は違うんだ。折角、東帝都大に合格したんだ。これをきっかけに、別な人生を考えるんだ。大学に入れば、考えも違ってくる。4年もあるんだから」

「……はい」




「あっれぇ!?」

 ドンッ!

 廊下をトボトボと歩いていた緑の背を、派手に叩いた者がいた。

「緑ちゃん、どうしたの!?」

「え?」

「生理来ないとか?お通じがないとか?」

「ははっ―――その方がいいかなって」

「……泣きそうだよ?」

「ぐすっ……な、泣いていいなら、泣きたいよ!」

「へっ?」


「……そうなんだぁ」

 生徒会棟の一室で、紅葉は緑の話を聞いた。

「緑ちゃん、メサイアに関係した仕事に就きたいんだ」

「……うん」

 緑は、しょげた顔で頷いた。

「やっぱり、夢なの」

「理系とかは?」

「メサイアに、直に触れ合っていたいのよ」


「ありぁ……そりゃ、かなりの高倍率だねぇ」


 緑は、メサイアと直接触れ合う職場にいたい。

 そういっているのだ。

 実際、その立場にいる紅葉には、その実現がどれほど狭き門であるか、肌身でわかっている。


「一流大学の博士課程卒業して、それでも……ねぇ」


「だから、もう、諦めなきゃって思ってるんだけど……」


「一度見た夢は、そう簡単に諦めることは出来ないよねぇ」


 頬杖をついて、窓の外を眺めていた紅葉は、思いついたように言った。

「ねぇ、緑ちゃん?」


「……はい?」


「緑ちゃんは、将来、諦めるにしてもさぁ」


「はい」


「一度くらい、メサイアに乗ってみたいって思ってるんでしょう?」


「そ、それは……そうです」


「コクピットに乗れれば、それでいい?」


「えっ?」


「コクピット……シミュレーターに乗る位なら、私の方で、どうにかなるんだけど」





 4日後。


 緑は、自宅のパソコンに送られてきたメールからプリントアウトした紙を片手に、バスから降りた。

 第一志望に合格したことで、親はもう、緑が何をしても文句は言わない。

 緑が、遊びにいく。といったら、小遣いまで出してくれたほどだ。

 その小遣いの何割かを交通費に割り当てた緑は、目的地である建物を見上げた。


 近衛府開発局葉月開発センター

 そう書かれた門の奥。

 そこは、一般人の知ることの出来ない、近衛兵団や近衛騎士団で用いられる装備の開発を行う施設。

 

 警告!不法侵入者に対しては、無警告で発砲がありえます。


 そんな警告看板をチラと横目で見ながら、緑は教えられた通りに、守衛詰め所に向かい、書類を提出した。


 身分証明書の提出―――学生証のコピーで通過。

 持ち物検査―――「見られて恥ずかしいモノは持ってくるな!ついでにカメラとカメラ付き携帯禁止!」の紅葉の事前警告を守った(事前に、カメラなし携帯に乗り換えた)ので、これも通過。


 指紋と網膜データの提出―――プラスチックのようなカードに両手の指を押しつけ、顕微鏡のような機械をのぞき込んで通過。


 ……といった、様々な手続きを踏んで、緑は初めて「見学者」と書かれたIDカードを発行してもらった。


 かかった時間、実に2時間。


 その後、警備員によって案内されたのは、施設の中でも、かなり中心部にある一角。

 幾重にも張られたフェンスと、ビルの中に埋もれるようにして存在する高さ40メートルほどの黒い建物。

 明光学園の校舎全部が丸ごと入りそうなほどの広い建物の前で、紅葉が待っていた。


「遅いっ!」

 白衣を着た紅葉が、顔を真っ赤にして手をバタバタさせた。

「ご、ごめんなさい……手続きに」

「え?あっ、そうか」

 ポンッ。紅葉は手を叩いた。

「見学って普通は絶対、許可されないんだもんねぇ」

「そ、そうなんだね……紅葉ちゃん?何?親御さんか誰か、お知り合いがここにお勤めなの?」

「へ?勤めてるの、私だけど?」

 いいつつ、紅葉は、自分の顔写真の入ったIDカードを建物の玄関脇のリーダーに照らし、玄関を開いた。

「緑ちゃん?」

「えっ?あっ、はい!」

 緑は、IDカードを取り出し、その後に続いた。

「すごい、警戒厳重なのね」

「扱ってるモノがモノだけに、わかるんだけどさぁ」

 エレベーターの中で、紅葉がボヤいた。

「トイレ行ったり、ジュース買いにいくだけで一苦労なんだから」

「そうなんだぁ」

「……私が、ここに勤めてるって聞いても、驚かないね」

「だって」

 緑は笑った。

「もう、ここまで来たら、何でも来いって感じ」

「寛大なのか、単に開き直ってるんだか」


 プシュッ


 紅葉は、エレベーターを降り、すぐ目の前のドアを開いた。


 ドアの先には、コンピューターや計器類が並び、白衣姿の職員達が何事か作業を続けている。

 そして、ガラスの向こうには緑が見たことのない装置が並んでいた。


「シミュレーターの開発室。ここは、その管制センター。で、その目の前にあるのが、最新鋭のシミュレーターのだよ」


「へえ?―――失礼します」



 30分後、

 緑はシミュレーターの中にいた。

『基礎理論は―――もうわかってるよね?』

 通信機が、管制センターにいる紅葉の声を伝えてくる。


「はい―――貸してもらった教本、読みました」


『も、紅葉様っ!?』

 紅葉曰く、下僕1の白石。という職員の狼狽した声が聞こえてきた。

『き、教本って、あれ、赤本じゃないですか!?』


『うっさいわね!いいじゃない!あんなもの、何も出来ないわよ!』


『お、公になれば責任問題に!』


『白石がやりましたって言えばそれで済むじゃないよ!いいから、白石!?緑ちゃんが今日一日、楽しくシミュレーター体験出来るように、きっちり面倒見てあげなさい!?普段、モテないあんたが、こーんな美少女とたっぷり会話出来るチャンスを与えてあげるんだから、這い蹲って感謝しなさいよ!?』


 ガンッ!


『緑ちゃん。ごめんね?急用が出来たから、私、すぐ戻ってくるけど、それまで、この白石の言うこと聞いて、シミュレーター、体験してて♪』


「は、はい」


『痛たたっ……し、失礼しました。えっと―――四方堂さん。開発局の白石です』


「よろしくお願いします」


『こちらこそ―――あれ?四方堂さん、騎士ランクは?』


「あ、あの……」


『おっかしいなぁ……紅葉ちゃん、書き忘れたのか?ったく、しょーがねーなー』


「紅葉様、じゃないんですか?」


『え?あははっ。あの子、紅葉様って言えっ!っていうから、みんなしょうがなく言ってるんですけどね?ま―――マスコットキャラみたいなもんです。いろいろやらかすけど、責任感強いし、結構な能力あるし』


「信望、あるんですね」


『不思議とね―――で、MDL(メサイア操縦スキル)、どれくらいなんですか?紅葉ちゃんは、D辺りって書いてあるだけで』


「じっ、実は―――私も知らないんです」


『はぁっ?あ、あの?四方堂さん?四方堂さんって、騎士、ですよね?』


「MDLの検査の日って、いつも私、何かあって検査に参加出来なかったんです」


『成る程?仕方ないな―――四方堂さん、紅葉ちゃんの言うとおり、レベルDから始めるけど、体に異変があったら教えて下さいね?』


「はい!」


 夢にまで見たコクピット。


 目の前に広がる人工の映像。


 例え、それが全て、虚像であったとしても、


 例え、それが全て、今日一日で消えてしまう夢だとしても、


 緑は体中が熱くなるような興奮の中、涙ながらに全てを感じていた。


 手足のコントロールユニットに感触。


 耳に伝わる様々な機械の作動音。


 目の前に広がるモニターの映像。


 五感全てが、あらゆる情報を無上の歓喜として、緑に伝えてくる。


「―――すごい」

 ブルッ。

 背中を電気のように興奮が走り続ける。


「これが……メサイア」


『四方堂さん?心拍数が上がっています。少しリラックスしてください』


「は、はい」


『シミュレーターを作動します。最初は、基礎動作を、自動で行いますので、感覚を覚えて下さい』


 緑は、コントロールユニットが勝手に動く違和感の中に身を任せた。




 紅葉が戻ってきたのは、2時間後のことだ。

「やっほーっ?どう?」

「あっ!?もう食事に行ってきたんですか?」

「まさか!ちゃんと緑ちゃんのご飯、買ってきたんだよ?」

「フラッパー亭のハンバーガーですか?」

「あんたの分も買ってきてあげたから―――はいよ」

「わっ!?限定のピックバーガー!いいんスか!?」

「タマにはね。給料日前でロクなモノ食べてないでしょ?」

「感謝しますっ!」

「―――で?どうなの?」

「一応、Dレベルでやってますけどね。飲み込み早いですね」

 白石は、ハンバーガーにかぶりつきながら言った。

「もう、自律運動が可能なレベルです」

「―――早いわね」

 紅葉が驚きを隠せないといった表情で、シミュレーターの運用ログを見た。

「自律運動させて3回コケただけ?」

「ええ。普通、300回コケてようやく立ち上げられるくらいなんですけどね。いや、この肉汁がウマい!」

「騎士ランクの測定は―――まだ結果出てないか」

「あれ?遅いですね」

 緑はシミュレーターに熱中してるらしく、シミュレーターが激しく動きまくっている。

 そして、紅葉の目の前では、コンピューターが合成したメサイアの動きがスクリーンモニターに映し出されている。

 野山を駆け、飛び跳ねるその姿は、メサイアという機械の動きというより、人間のそれに近いものがある。


「戦闘データ、展開できる?」


「えっ!?い、いや!それはマズ―――」


 ギロッ!

 紅葉に睨まれた白石は黙ってしまった。


「―――こ・の・わ・た・し・が、やれっつってんのよ」


「わ、わかりました!」

 白石は慌ててシミュレーターの管制装置を動かし始めた。

「ち、調整に1時間下さいっ!」


「―――ちっ、使えないわね」


「す、すみませんっ!」


「まあ、いいわ―――緑ちゃん。お昼にしましょ?」



 紅葉の私物だと言い切る征龍と、どうみても水龍にしか見えないメサイアの足下で、緑と紅葉は紙包みを開いた。


「開発局特製のハンバーガー。おいしいよ?」

「ありがとう」

 いいつつ、緑の視線は、メサイアから離れない。

 じっと、メサイアに熱い視線を送り続けている。


「本当、好きなんだね」

「お父さんやお母さんからは、男の子に生まれてくればよかったのにって、よく言われる」

「別にいいけどね―――女の騎士だって、あの戦争じゃ、オトコ顔負けの戦いやってたんだし」

「そうなの?」

「もう、あの331の連中なんて最悪」

「ははっ……」

「聞いてよ!」

 それは、紅葉が体験した一年戦争の体験談。

 女騎士中心に編成されたある部隊での出来事。

 楽しくもあり、悲しくもあったあの頃の話。

「―――というわけ!」

「……」

 せっかく話したというのに、相手がきょとん。とした顔をしている事に気づいた紅葉は、不服そうに口を尖らせた。

「何?つまんなかった?」

「う、ううん?」

 緑はとってつけたような顔で首を横に振った。

「紅葉ちゃんが、そんなに自分のこと、話してくれたの初めてだから」

「そ、そうかな」

「うん。いつも、無理して私達に話しをあわせてくれている―――そんな感じがしたから」

「ははっ……バレちゃっていたか」

「うん……でも、いい話教えてもらったから、感謝するね?」

「よしてよ」

 紅葉は腰を上げた。

「そろそろ、シミュレーターの調整、終わってる頃ね。午後は戦闘機動あるから、気をつけて」

「うん♪」




「とはいえ―――」

 シミュレーターに緑が入るのを見送りつつ、紅葉が管制センターでぼやいた。

「Dランクの子に戦えっていってもねぇ」


「準備は万端です」


「白石……」


「はい?」


「いっそ……あんた、全裸してさ」


「はい!?」


「襲わせるっての、どうかな」


「やっ、やめてくださいよ!ぼ、僕、女子高生相手に変態扱いされます!」


「映像、プリントアウトして明光学園の正門にでも貼り付けてあげようか」


「も、紅葉様っ!?ぼ、僕が何をしたと?」


「単なる余興―――緑ちゃん?いい?始めるよ?」


『はい!』


「剣とシールドだけの敵。当たっても死にはしないから、安心して楽しんで」


『はいっ!』


「ほら、白石……スターリンでも出してあげて」


「な、何だか、やる気ないみたいですね」


「だってさ?……気の毒すぎて」

 紅葉はテーブルに顎を乗せた。


「何が、ですか?」


「あれだけ好きなのにさ?近づくことも出来ないなんて、あんまりじゃん?」


「……成る程―――四方堂さん?最初は、スターリン1騎。行きます」


「だから、高校卒業の記念、思い出になればって、ここ連れてきたんだけど」


「いいことしたじゃないですか」


「よくよく考えてみたら、戦闘機動なんてさせたら、恐怖がトラウマになってとんでもないことになるんじゃないかって、今、気づいたのよ」


「それはそれで、いい思い出になるんじゃないですか?」


「体験型テーマパークのクレーム処理みたいなこと言わないでよ」


「は?」


「客がしくじっても、それも思い出ですからとか何とか!あーっ!腹立ってくる!」


「ははっ」


 ズズン!


 コンピューターの合成音がスピーカーから大音量で響き渡った。


「あーあ。終わっちゃった」


「―――違います」

 白石が緊張した声で言った。

「四方堂さんの勝ちです」


「はあっ!?」

 紅葉が目を丸くした。

「緑ちゃんが、勝った!?あんた、どんだけ?」


「別に、Dレベルで動かしただけです」

 白石は、管制装置のキーを叩きながら言った。

「僕は何もしてません」


『紅葉ちゃん』

 スピーカーから緑の嬉しそうな声が聞こえてきた。


『次は?』


「お、おーっし!」

 紅葉は、腕まくりしながら言った。

「白石、次!スターリン3騎で!」



 スターリン3騎 6秒


 グレイファントム1騎 2秒


 グレイファントム3騎 5秒


「ひゃあ……文字通りの瞬殺だ」

 興奮する紅葉の横で白石が呆れ声を上げた時、


 ピーピーピー


 インターフォンが呼び出し音を上げた。


 とったのは紅葉だ。


「何!?今忙しいの!入りたかったら勝手に上がってきて!」


 ガチャッ!


「あ、あの……今の、誰です?」


「知らないわよ!緑ちゃん!?次、フリーダムファイター3騎、行くよ!?」



 プシュッ



 ドアが開き、管制センターに誰かが入ってきた。

 気配に気づき、振り向いた白石が慌てて立ち上がり、直立不動の姿勢で敬礼した。

 入ってきた人物は、それを軽く手を振っていなし、シミュレーターの結果に熱中する紅葉の横に立った。


 その人物が、戦闘結果を目にして、言った。


「へえ?いい結果、出してるじゃない」


「でしょう!?―――へ?」

 その声に、紅葉が凍り付いた。

「その声―――まさか」


「私が来たら困るようなこと、してたんだ」


「で、殿下?」

 恐る恐るという感じで横を振り向いた紅葉は、慌てて横にいる人物と距離をとった。


「わ、わわっ!私、別にそんな!」


「ふふっ?おいたしたら、怒るって、言っておいたわね?」


 そう、嫣然と微笑むのは―――第一皇女麗菜殿下。

 短くまとめられた髪。

 切れ長の目。

 知的で攻撃的な美しさを秘めた美女が、紅葉に優しく微笑んでいた。


「ううっ……これはつまり」

 緑のことを、どうやって、殿下に説明しようか?

 困惑する紅葉の背後から、スピーカーの大音量が響く。



 ズズンッ!!

 ズンッ!

 ズダンッ!


「―――あらま」

 麗菜殿下が、少し驚いた。という声を上げた。

「フリーダムファイター3騎を撃破……やるじゃない」


「え……えっと」

 紅葉は、ちらりと白石を見た。

(あんた、説明しなさいよ!)と目が怒鳴っている。


 白石は首を横に振って、(無理です!)と主張する。


「騎士ランクBか」


「―――へ?」

 紅葉が目を丸くして、詳細データを表示するスクリーンモニターを見た。


 想定騎士ランク:B


 そう、表示されていた。


「白石ぃっ!」

 紅葉は、白石に飛びかかると、その胸ぐらを締め上げた。

「緑ちゃん、殺すつもりだったの!?」

「ぐえっ!?こ、これは事故で!」

「DとBを見間違えるなっ!このヘボが!」

 振り上げた紅葉の手を掴んだのは麗菜殿下だ。

「―――紅葉、怒らないから、騎士ランクを上げて」




 ギインッ!!


「―――ちっ!」


 緑は、敵に打ち込みを外されたことに驚きつつ、間合いをとった。


 強いっ!


 合成されるGに耐えながら、緑は歯ぎしりした。


 さっきまでと全然違う。

 同じメサイアなのに、まるで別物、キレが鋭すぎる。


 その敵が3騎。


 緑は、自分が追いつめられていることを、イヤでも悟った。



「さて?どう動くかしら?仔猫ちゃん♪」

 シミュレーターの中にいるのが女の子と知った麗菜は、とっても楽しそうな顔でスクリーンモニターを見つめている。


(殿下、楽しそうですね)

(ほらぁ、女の子限定でSだから)

(あ、殿下って、そうなんですか?)


「―――ほらそこ、ぐちゃぐちゃ言わない」


「はいっ!」

「はっ!」


 スクリーンモニターの中で、緑が動いた。

 正面から振り下ろされた剣をかわし、その脇腹をシールドで叩き、騎体を旋回させて二騎目の喉元に剣を突き刺す。

 味方の損害を恐れることなく、横薙ぎの一撃を見舞ってきた三騎目に対し、思いっきり騎体をしゃがませることで攻撃を回避、その脚部を切断して、返り討ちにする。


 その動きには、まるで無駄がなく、すべてが驚くほど滑らかだ。


「ふふっ……楽しいわね。騎士ランクは?」


「えっ?」


「これでBはないでしょう?―――私が見る限り、AAは越えているわよ?」


「まさか」


「―――いえ」

 緊張の声で紅葉を制したのは、白石だ。


「測定結果、出ました―――こりゃ、時間かかるわけだ」


「どれくらい?」


「レベル、FLフローレスです」


「まさか!」

「うそっ!」

 麗菜と紅葉が同時に声を上げた。


「ルシフェルはともかく、FL騎士って!」


「あのお姫様(注:祷子のこと)以来だよ!?ありえない!」


「測定担当者も、かなり測定やり直して、どうしても、そう結論づけずにはいられないとコメントしてきています」


「……紅葉、内線借りるわよ?」


「あっ、はい」


「……美佐子?私―――演習センターに言って、白龍2騎と、美凪に手空きのMC一人、すぐにスタンバイさせて。パイロットデータは私と―――今、シミュレーター開発室にいる子……うん。データは転送させる……それと、他にも演習希望者がいたら、別途、準備させて……うん……うん……そう。どれくらいかかる?……わかった、じゃ、2時間後に」


「ち、ちょっと待ってくださいっ!」

 会話を聞いた紅葉が血相を変えて麗菜に言った。

「み、緑ちゃん、メサイアに、しかも、白龍に乗せるんですか!?」


「いけない?」


「メサイア実騎搭乗経験がないんですよ!?それを、最高機密騎に乗せるなんて!」


「何言ってんのよ」

 麗菜は、詳細データを表示するスクリーンモニターを指さした。


 想定騎士ランク:B


 その横に、


 搭乗メサイア:白龍


 そう、表示されていた。


「じゃ、2時間後に演習センターだから、遅れないようにね?」


 麗菜がそう言い残して管制センターから出る時、紅葉が白石に馬乗りになって怒鳴っていた。


「白石ぃぃぃっ!」

「ご、ごめんなさいっ!つい出来心で!」

「死んで詫びろ!このバカぁぁぁっ!」


 そして―――


『あの……紅葉ちゃん?もう終わり?』


 シミュレーターの中。

 緑は次を待っていた。


  

次回、後編で、人類最強のメサイア乗り麗菜殿下VS緑の戦いが!ご期待……あんまりしないで、気楽に待っててくださいね?

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