ツキノ村
ラスカに連れ出され、外に出た。そこにあったのはいくつもの家であった。その家の玄関らしき所から人がいったり来たりしている。ある程度土を掘ってその上に木材を突き刺しているものもあった。きっと、複数の柱を立てて骨組みにしてその上に植物をのせて屋根として扱っているのだろう。
村人たちがこちらに気づき、手を振ってきた。
農作業を行っていた人はこちらに寄ってきて、話しかけてきた。体格ががっしりとした男でその手には鍬があった。
「おー、あんちゃん元気になったか。良かったじゃねえか。」
「ああ、おかげさまでな。だいぶ動きも軽くなったし。」
「それもカルーア様のおかげか、お礼いっとけよ、あんちゃん。」
世界が固まった。
カルーア……様…?
え、ラスカ様じゃなくて??
すると、カルーアは
「いやー、ワヅキさん、この人だめなんですよ。未だにお礼いってくれないし、私のことを人殺しかなにかだと勘違いしている節があってね。さっきは胸ぐらつかみかかって襲ってきそうな勢いがあったのよ。冤罪よねー。たぶん、頭を強く打ったから記憶も曖昧なんだわ。しかたないよね……。」
としくしく泣き真似しながらわざとらしく言った。
「何ー!?、カルーア様にそんなことしたのか。あんちゃん!悪いことは言わねぇ、今のうちに礼を言っとけ!あと非礼を働いてごめんなさいって言っとけ!」
ワヅキの声が大きかったためか、村全体の人がこちらを見てざわつく。
あのカルーア様に、なんてことを…!
あの男、自分の立場を分かっとらんのか!?
殺気が此方に向いたのがわかった。
え…?俺が悪いの??
そう首をかしげざるをえなかった。
「いえ、いいのです。間違いは誰にでもありますから。どうか、私の顔に免じてこの男のことを許してあげてください。みなさんもこの男と仲良くしてあげてください。」と口調を一転させて言った。
「あぁ、なんて慈悲深い御方なんだ、カルーア様!その慈悲を見習い、自ら行えるよう精進します!!」
なぜか、ワヅキまで口調が変わっていた。そして自ら行っていた農作業に戻った。
流石です。カルーア様…!
やはり、旅のお方であったカルーア様は我々とは違う!
私もカルーア様みたいに旅をしようかしら……。
殺意が一転し、暖かな雰囲気に包まれる。
これは夢だな…?ならさっさと覚めろよ……。
そんな現実逃避気味な気持ちになったのはユウトただ一人であった。
「ふっふーん、どうだ参ったか!」
「あんたが人気者で俺は嬉しいよ。嫌われてなかったんだな。」
「え?私が嫌われてるわけないじゃん、やだなーもう。失礼しちゃう!」
「例のおまじないってやつか、便利なもんだな。村人も大変だな、おまじないの被害にあって。」
「いやいや、おまじないじゃないよ。私とあんたの人気の差よ!」
「worstってやつだな、うん知ってた知ってた。」
「聞きなれない言葉だけど、わかってくれたならそれでいいわ。」
きっと、俺が来る前に暴力による凶行があったんだな…と納得していたが、
「カルーアさんは魔法使いで、この村の人たちを何度か救ってくれたのですよ。」
と、この世界で唯一信じられそうだったラスカがそんなことを言った。
救った?巣食ったの間違えじゃ…な……く?
そんな事実をラスカにつきつけられて倒れそうになった。
「ユウトさん、あの骨だらけの化け物を覚えていますか?」
「あ?忘れるわけないだろ、あんなやつ。」
「あれは、ボイドっていうこの村の住民なら誰でも知ってるアンデット系のモンスターなんです。この村の周辺に生息して、人を見かけたら襲ってくるんです。この村に住む人は山に行く度に襲われてきたのです。山は薬草や食料になる植物が豊富なので取りに行かないと困るんです。あと、【釜】もあるし…。」
「なら、抗えばいいだけだろ。」
「いえ、あの化け物は物理的な攻撃が全く意味がないのです。私たちだってはじめは農機具を使って追い払おうと試みたんです。でもダメだったんです。ユウトさんも殴りつけたりしていましたよね?でもあれもあまり効果がなかったのです。」
「それでどうしたんだよ。」
「で、遂に山での採集を取り止めたのです。でも村の中には必要な人もいて、取りに行く人もいたらしいのですが、大半の人は帰らぬ人となりました。私もある時、取りに行きました。そのときの私は幼くて恐さがあまりわかっていなかったので、かってに大丈夫だと信じて。で、案の定襲われて…」
「こいつに助けてもらったってことか。」
「そうです。そしてカルーアさんは私を村まで連れ帰ってもらい、ボイドを倒せる魔法や私たちが知らなかった薬草など色々なことを教えてもらったのです。」
理解はしたが、信じられなかった。
だって、殺されかけたんだぜ、俺
そして何よりも…
「ユウトさんも助けられたんですよ。」
その言葉は聞きたくなかった。
カルーアさんの本名はカルーア=フランベです。名前出す機会が持てなかったのでここで言います。