第13話『過去勇者、過去魔王』
初代勇者、『ハルキ・クロノス・イイダ』。
彼の残した物はあまりに大きく、全ては知られていない。
とある学者は、「『クロノス』はこの世界の法則から物質まで、全てを作った」と、唱えた。
また別の修行僧は、「『クロノス』は今の生物の元になる子供達を作り、育んだ」と唱えた。
答えは、何もわからない……が、一部の者には、その真実が伝えられるという。
だが、彼がどのような人物であろうと、ただひとつわかっていることがある。
彼、または彼に近かった生物は、天才的な頭脳を所有していた。
その頭脳の源は、今も世界のどこかで夢見の名で受け継がれているという。
……畏れるなかれ、彼は今はもう居ない。いるのは、暴君と化した彼の残した子供と、王と化した彼の残した子供だけである。
記録者ーーーラク・スラッシューーー』
「……悪いけど、僕には全てを語る力はもう、残されていない。『記録者スラッシュの伝記』……まあ、その本には勇者に関する今わかっている全ての事柄が書かれている。かなり長いが、1日で読み終えるだろう」
ハーファル王は最後の部分だけを読み、その本を俺に渡す。
その後ハーファル王は話せないと言ったあと、呼び鈴でメイドさんを呼び、メイドさんに支えられながら寝室へと向かった。
「……読もう」
「ああ。お前らには、知る権利がある……が、ここで読むのは辛いだろう。図書室に移動しよう」
俺は、ヴォールさんの言う通りに図書室に入り、隅の机で分厚い羊皮の表紙をめくった。
◇◆◇◆◇
僕が『彼』と出会ったのは、つい一ヶ月前のことだ。
将来も期待されていない僕にとって、彼との出会いほど僕の運命を狂わせた物もないだろう。
彼からは、たくさんのお話しを聞かせてもらった。
それも、親から強制されるお話より、うんと面白い!
彼……クロノスと名乗ったその人の話が正しいと知ったのは、つい一週間前の教会でのことだったかな。
クロノスは、転生者って呼ばれる人種らしい。
前世で死んで、神様に無理やり星の管理を任されたんだって。
そして、彼は最初に彼の元いた星……地球の元素と同じ物を作った。
その中には、地球では迷信とされていた魔法の為のエネルギーも含まれていたらしい。
あとは、様々な生物を番で創りだしたり、人間を作ったり、さらには国家を作ったり……色んなことをしたと聞いた。
他には、この世界のシステムの運営や製作、改造なども行ったんだって。
今は世界各地を旅してシステムの改善点を探しているらしい。
レベルのシステムや、魂の輪廻を司るシステム、それを管理する生命神、人々の繁栄と衰退を管理する運命神、実行部隊の真魔王や真勇者、巨大なエネルギーを放つ物質を司る中級神、エネルギーを持たない物質や事象を操る下級神、神たちに仕える天使など……それこそあらゆる物を作ったんだって。
特に、勇者と魔王については細かく聞かせてもらった。
世界中の王たちに魔王への対抗手段として勇者を用意して、それがあることを伝えていく。
勇者は全員地球から転生したり、召喚されたり、転移してきたり……王様たちが召喚できないってことは、この世界にすでに現れているってことなんだって。
そして、その勇者を探し出す道具……『血求の鏡』っていう道具も、同時に各王様の城に置いたんだ。
けど、勇者を神龍様に無断で召喚すると、神龍様に国は崩壊させられる、と聞いた。
その崩壊は、圧倒的な破壊力での蹂躙。
あらゆる攻撃を吸収する鱗、鋭すぎる牙、重すぎる体の部位、口から放たれる特殊な息。
神龍のあらゆる武器を使っての蹂躙。
その存在は、神と同等かそれ以上の戦闘力を持って世界を護る、クロノスが創ったシステムの最終奥義。
魂の輪廻が崩壊すると、魂輪の破定という現象が起きる。
そして、勇者には輪廻を崩壊させる力がある。
クロノスは魂輪の破定とは即ち、星々の魂の戦、と言っていた。
魂の戦、そんな大それた事象を治める為にクロノスは神龍と神々、勇者と魔王を創りだしたんだって。
そんな強大で、恐ろしい神龍が一国を蹂躙する。
明らかにオーバーキルだ。
けど、神龍の目的は世界を守り、魂輪の破定の被害を減らすこと。
だから、オーバーキルで良いんだって。
◇◆◇◆◇
俺はここまで読んで、いくつか納得した。
なぜハーファル王が俺たちをこの国に引きずり込もうとしたのか。
なぜ俺が勇者だと知っていたのか。
そして……なぜ俺がイザナギと呼ばれているのか。
インドラの話と合わせると、最初の真勇者は三人。
そして、この本にはまだクロノスが勇者だとは書かれていない。
クロノスはこの星……ネオスの基盤と共に、いくつかの『運命』を創った。
その動きに含まれているのが、おそらくだがゼウス、イザナギ、オーディンの三人だ。
そして、ゼウスはギリシャ神話でクロノスを殺している。
クロノスのことが隠蔽されていてもおかしくはない。
だからクロノスは最後の部分で『もう居ない』と伝えられているのではないか?
俺はある程度の仮説を立てつつ、次のページを開いた。
◇◆◇◆◇
代筆ーーーヤマダ・オーディン・ユイトーーー
その日は、荒れた天気だった。
僕とラク、シンジはクロノスに呼び出された。
クロノスに『なんで僕らを呼んだのか』と聞くと、クロノスは『君達を真勇者に任命したい』って答えた。
システムは作っている真っ最中だったらしく、世界を支えてくれる人物を探していたんだって。
そして、僕らがクロノスに選ばれた。
クロノスは片手の掌を開いた状態で横薙ぎに振ると、膨大なデータが書き込まれた電子ボードが現れる。
そこに指で僕らの名前を書いていき……初代真勇者に、僕らはなった。
しかし、クロノスは代償として、僕らの『大切な物』を一つずつ生贄にした。
僕は、力を奪われ。ラクは、兄弟を奪われ。シンジは、友を奪われた。
後で知ったことだけど、クロノスは奪った物をあえて取り戻せるようにしたらしい。
過去に未練が残らないように、未来で取り戻せるように。
そうとも知らず、僕以外の2人は奪われた物に気づき、憤怒した。
そして……クロノスは、最終的にゼウスと呼ばれる神になったアルに、殺された。
その後、クロノスは三人の中で唯一真実を知る僕に、地球にこの星のことを伝えるように指示……いや、懇願してきた。
後日地球に渡ってきたシンジには、少し驚いたっけ。
アルは『クロノスを殺した僕に、地球には行けない』と言って、地球への移動を辞退したんだって。
それはともかく、僕はネオスでの出来事を伝えるため、地球へと降り立った。
地球の神であるヨルズを妻に迎えながらも、僕は世界各地を転々と旅をして、前世の知識である『神話』を、それぞれの神の住まう地で伝えていった。
その後、世界の形成を見守りながら、僕は再びネオスに戻った。
◇◆◇◆◇
なるほど、これが俺のさっきの考察の部分だな。かなり端折ってるが、他にも色々書いてある。
確かにこれなら、読むのに一日かかっても仕方ない。
イザナギのネオスに戻った時での話は、かなり滑稽に書かれていて、中々に飽きなかった。
っていうかこの本、初代真勇者で回しながら書いてるのか。
この本はこの世界の五千年前に書かれたらしく、千年前の勇者であるインドラについては言及されてすらいなかった。
唯一書かれているのは、イザナギ(シンジ)やゼウス(ラク)、オーディン(ユイト)が、クロノスが作った神たちに追加で何柱か用意したってことくらいだ。
生命神と運命神はもはや自立しているので影響は薄かったらしいが、それ以外の神はクロノスが死んだことで力が弱まってたんだとさ。
そして最終的に、オーディンやイザナギが死んだところでハーファル王の伝えた最後の文に繋がった。
インドラの話では歴代の真魔王……イザナミと呼ばれる者たちも、クロノスから授かったイザナギの莫大な力と同じくらいの力を所有しているらしいが、それはイザナギの血があるからだろう。実際、初代魔王はそこまで強くなかったが、イザナギと結婚し、無数の神を産んだと書かれてあった。
俺は壮大なストーリーをある程度端折りながら読み、本をパタンと閉じた。
魂輪の破定は、やはりハンパな力では星ごと飲み込まれてしまうらしい。
そして、魂輪の破定はおよそ2000年の周期で起こる。
魂輪の破定をどのようにして食い止めるか。ここがこれからの焦点になりそうだ。
俺は本を読んでいる図書室で寝てしまった皆の分までメイドさんに毛布を貰い、皆にかける。
……さて、これから忙しくなるな。
俺は机の上に書き置きを残し、メイドさんが案内してくれる自室に伝記を持って行き……ベッドの脇に置き、短い睡眠をとった。




