第12話『夢3』
俺が最初に見た夢、それは壮絶な物だった。
その記憶の俺が勇者であることを隠して、幸せな生活を送っていると……突然現れたアラ神国の騎士団に強制連行され、家族の屍を後で目の当たりにする世界だった。
他には、勇者としての訓練が足りずに、魔王の配下に敗北してエルガ王国そのものが滅ぼされる世界。
アシュラ帝国と呼ばれる国が同盟国から援軍を絶たれる世界など……
それこそ、悲惨な物を幾つ見たのだろうか。
結局、判断を間違い続けているじゃないか。
そんな中で、俺が見つけたのは、未だに形として成っていないが、それでも強い新魔術を開発した世界だった。
「うおっ……雷属性? ああ、確かに元からの魔術には含まれてなかったんだよな」
雷属性は、まあ簡単に言えば、基本攻撃とスピード重視のシーフ向けな属性だ。
雷属性をうまく使えば炎を作ることもできるし、痺れの追加効果がある点からサポート向けのシーフにぴったりだ。
低魔力消費だから低燃費で、それでもなお威力が他の属性に劣ることはなかなかない。
素晴らしい魔術だな。
「雷撃銃、雷霆、雷結界……」
中々の性能だが……俺には似合わないな。だが、パーティを組んだ時には是非ともシーフに雷属性の魔術を伝授しよう。
さて、他の記憶は……っと。
◇◆◇◆◇
「答えは、見つかったか?」
俺がほとんどの記憶をたどり終わると、どこからかインドラが聞いてきた。
「……ああ」
「そうか。ある程度、これからの目星はついたな?」
俺はインドラの言葉に頷き、こう答える。
「ああ。先ずは、エルガ王国に戻って冒険者になる。そして……アシュラ帝国の傭兵として、魔王城に乗り込む」
「そうか。では、魔王と戦う前にアシュラ帝国のどこかにいる『ツクヨミ』と、『アマテラス』に会うが良い。その二人に、世界の真実を聞け。それでは……ムゲンの部屋から、帰してやろう。5年間稽古をつけてやる」
俺は再び、インドラの転移魔法で神殿へと帰った。
◇◆◇◆◇
「魔王が強いのは、十分すぎるほどわかってる。だが、今回は先ず接点を作ることを最優先にするんだ」
「……そうか。モモ!」
俺がインドラに今回の計画を話すと、ケツァルコアトルスのモモが俺たちの元に飛んでくる。
「お呼びでしょうか」
「このクソガキをエルガ王国に送ってやれ」
「フフッ……かしこまりました」
モモはそう言って、古代龍神の姿になると俺をガッと強靭な脚で掴む。
あ、背中には乗せてくれないんだ、と思いつつも、再びいくつもの山を越えて行った。
◇◆◇◆◇
「あれは……!」
俺は、いつか見たケツァルコアトルスとその脚に掴まれる少年を見て、剣を捨てて追いかける。
「訓練は中断だ! あのケツァルコアトルスを追いかける! ミル、ココ、王子は付いて来い!」
「ハイッ!!」
俺は全員に身体強化の魔法を施し、ケツァルコアトルスを追いかける……が、ケツァルコアトルスは旋回し、こちらに突撃してくる。
「伏せろ!」
俺の言葉に、三人は同時に身を屈める。俺は対照的に片手をケツァルコアトルスに突き出し、氷砲弾を撃ち出す。
「魔氷よ!」
その氷砲弾に、エルフの魔導師ミルが強化を加え、魔氷砲に変化、ケツァルコアトルスの片翼に命中……しなかった。
魔氷弾は炎の大剣に真っ二つに割られ、俺たちが追い求めたその男はタンッと地面に両足で着地する。
「出会い頭に魔氷弾とは、随分なお出迎えですね、ヴォールさん。……おっと」
10年前にも増して皮肉が鋭くなった少年が、俺に問いかける……と、同時に俺の背後からオレンジ色の猫耳が少年……ダリア・ロズワルドに飛びかかった。
◇◆◇◆◇
「もう、あえないかとおもっでだよゔ……」
猫耳の少女、ココはそう言って俺の胸に顔をうずめる。俺は苦笑いしながら、ココの頭を撫でる。
「あはは……心配かけて、ごめん」
「ゔゔん……ぶじでよがっだ」
ココは泣きじゃくりながら、顔を上げ、腕で涙を拭う。
それより、気になるのは……うん。ココの成長が、ありありとわかるその胸だ。
ミルは10年前とほとんど変わらぬ服装だが、その胸も変わっていない。いや、胸以外が成長した、と言った方が正しいか。
ミルの控えめなちっぱいもいいけど、ココの激しく自己主張する胸もいいよね! ってイカンイカン。
ネガティヴな物ばっかり見てたせいで、思考回路が変な方に飛んでいくな。
「しかし……無事でよかった。10年間も、何をしていたんだ?」
「あー……」
それを言ったら、もしかしたらインドラやモモに危害が加わりそうなんだよなぁ……。
「すみません、それはちょっと言えないです」
「そうか、なら仕方ないな。……ダリィ、ちょっと手合わせをさせてもらえないか?」
ヴォールさんはそう言って、巨剣を構える。
「……少しだけなら」
俺はそう答え、レーヴァテインを構える。
「はあああああああっ!!!!」
「うおおおおおおお!!!!」
ガキィン! と金属音が鳴り、ヴォールさんの巨剣は熱される。
「まだまだ!」
そのまま物体を作り出す創造魔法で熱された巨剣を急速冷凍する。
「なっ……!」
巨剣はその部分から大きなヒビが入り、さらにクサナギの一突きでポッキリと折れてしまう。
そのまま俺はクサナギをヴォールさんの首に突きつけた。
「終わり……です」
俺は巨剣を修復しながら、ヴォールさんに宣言した。
◇◆◇◆◇
「いや……すっかり追い越されたな。技術的にも」
「あはは……」
俺は苦笑いで誤魔化す。
ヴォールさんの10倍は長く生きてるインドラが相手なんだ、仕方ないだろう。
ちなみに、インドラとモモに年齢を聞いたら、どちらも同い年で、「千歳からは数えてない」だそうだ。
「しかし、空間魔法を応用した武器の持ち替えもバッチリだな。俺は空間魔法は出来ないから、素直に羨ましいな」
まあ、この世界では氷砲弾を放てるくらいの魔力を持ってれば、十分凄いんだけどな。
ちなみに氷砲弾なんかが使える魔法の才能と、スキルは、前世の魂に左右されるそうだ。
『前世でどれだけの功績を残したか』これが重要らしい。
俺の場合は、『特別な血筋を持っている』ことが功績だと、若干憎悪を帯びたインドラやモモに教えてもらった。
こいつらどんだけ勇者を恨んでんだ、と思いつつ、その時は納得してたっけ。
今思い返すと、ガルーダを討伐したときの選択なんかが、魔法の才能やスキルの『前世に左右される部分』なんだろうな。
「ふむ……それだけの実力があれば、この国有数の冒険者になれただろうに、残念だな」
「あ、そのことなんですけど」
◇◆◇◆◇
俺は、ヴォールさんに冒険者になることを伝えた後、無理やりエルガス城に連れて行かれ、謁見させられた。
「やあ、久しぶりだね。……ダリィ」
「ええ。お身体は大丈夫なのですか? ハーファル王」
「うーん……あんまり良くはない、かな」
ハーファル王はゴホッゴホッと咳き込むと、机の上に置いてあった錠剤を3粒口に含み、水で流す。
「僕が、なんとかできればいいんですがね……」
「残念ながら、僕のこの病気は治せる類のものじゃないんだよね。今は最上級の薬剤で症状を抑えているけど……」
ハーファル王は、細胞レベルでの遺伝系の病気だ。
ハーファル王を救うには、ハーファル王そのものを作り直すくらいの魔法が必要になる。
そして……この世界には、その高位な魔法を使える人はいない。
記憶の追従の時に、ハーファル王を助けようとする世界は何度も見た。
だが、そのどれもが失敗し……やがてこの国は滅亡した。
「えっと、『冒険者になりたい』ということだったかな。まあ、勇者の頼みだから仕方ないね」
ハーファル王は、ゆっくりとした口調で俺に話を始め……そして俺は、後悔した。
「ダリィ、君が勇者なのは、僕と、三人の王の中で発見されたことなんだ。アシュラ帝国のクラウド王、イエスト王国のキリス聖王、アラ神国のハンマ帝王。この三国と、エルガ王国の4ヶ国の王族にのみ、勇者について書かれた伝記が伝わっているからだ」
ハーファル王は、おもむろに歴代の勇者について、語り始める。
気づけばそこには、ハーファル王と俺たち5人以外に、誰もいなかった。




