第11話『インドラ』
「うおっ……!」
思わず、声が漏れた。
俺が洞窟から出て最初に目にしたのは、某ハンティングゲームが進歩したような村。
奥には巨大な神殿のような物が立ち、そこに向かって大きな道路、中心あたりに噴水があり、さらに噴水から大通りを含めて8方向に道路が伸びる。
道路に沿うようにして木や建物が並び、その中には巨大な武器のある店、美味しそうな湯気の立ち込める店、ちょっと妖しげな雰囲気を醸し出している店など、様々な物がある。
様々なのはたくさんの人も同じで、髪色や姿形もバラバラだが、人としての原型は保たれている。
その中には、ごく僅かだが、何もない人型……普通の人間もいる。
人々は武器を持っていたり、飯を食っていたり、妖しげな店に入り浸っていたりする。
「ふふっ……驚いたか? この国は、決して縛られる者の入らぬ村。妾たちは自分の意思で神を崇拝し、自分の意思で王を決める。あの神殿には、ガルーダと呼ばれた神鳥の盟友、インドラが住まう」
モモはそう言って、俺を先導して神殿に向かう。
「インドラに挨拶をした方が良かろう。汝には、神鳥ガルーダを超える力を持つことが、証明されている」
コイツ……ガルーダの討伐ドロップのことを知っているのか?
俺が訝しげにモモを見るが、モモは顔を傾けるだけだった。
◇◆◇◆◇
「インドラ様! ケツァルコアトルスの族長モモ、真勇者を見つけ、帰還しました!」
「ご苦労! 面をあげよ!」
巨大なカーテン越しにインドラに対して膝をついていたモモはインドラの言葉通りに顔を上げる。
だが、次の瞬間、インドラは竜となり、大きく吠えた。
「フハハハハッ! そうか、この者がガルーダを倒せしものか! モモ、我とそこの坊主を2人きりにしてくれ!」
「ハッ!」
モモはそう言って、神殿を後にした。え、帰っちゃうの? と俺がたじろぐのも束の間、インドラは俺に声をかける。
「フハハハハッ! お主、ガルーダを倒したそうじゃないか!」
「え、ええ。まぁ、無理やりですが」
「こんな、欲も守る者もない剣に、ガルーダはよく殺られたものだな!」
あ、ちょっとこのドラゴンさん嫌いかもしれない。
この人(?)にはデリカシーが全くもって足りない。
「ああ、すまんな。思ったことは全部言ってしまう質でね」
インドラはそう言うが、絶対本心では反省してないだろ。
「まあ、そう言ってくれるな。お詫びと言ってはなんだが、我が直々に相手をしてやろう」
インドラはそう言って、右半身に黒と赤の模様が彫られた竜人に変化する。
インドラがヴァジュラを構えた瞬間、ヴァジュラの両端からエネルギーの剣が出現する。
「覚悟」
俺はヴァジュラのエネルギーをレーヴァテインで受け止める……が、俺は簡単に弾き飛ばされる。
「クッソ! 三千世界!」
俺は最強の刀を開く……が、そこにあったのは、錆びてボロボロになっている刀だった。
「え!?」
「フハハハハッ! 錆びた剣で我に何をしようと?」
インドラはそう言うと、高く飛び上がると、上空から俺に向かってエネルギー弾を撃ってくる。
「やばっ!?」
俺は走って弾幕から逃げ、弾幕が収まった所でブレーキをかけ、クサナギを取り出す。
「うおおおおおっ!」
クサナギを何もないところに振るうと、風の刃が放たれ、インドラに襲いかかる。
「脆いワァッ!!」
「んなっ!?」
クサナギの風の刃って、古代竜(龍神の格下の竜)の鱗でも簡単に貫くんだぞ!?
「そんなチャチなオモチャで、何をしようってんだァ?」
「くっ……」
どうする、どうすればいい……
「死ね!」
「アイギスの盾!」
俺はインドラのヴァジュラの突きを、神具の盾で受け止め、チャクラムのエネルギーを吸収する。
「武器強化! 〈アイギスの盾-剛-〉」
俺はスキルの一つである、武器強化スキルと吸収スキルを利用して、アイギスの盾にヴァジュラのエネルギーによる反撃性能を付与する。
そうとも知らずにヴァジュラでもう一度攻撃をしかけるインドラに反応し、大爆発が起こる。
「ぐっうぁっ!」
「チャンス!」
インドラが怯んだ隙に、竜剣スキルを発動する。
「竜剣技『星断』」
星を切り裂くスキルで、インドラは体が真っ二つに割れた。
◇◆◇◆◇
「フハハハハッ! 王の器としては、十分じゃのう!」
「王?」
「なんだ、お主、真勇者じゃろ?」
あ、一応言うけど、インドラは倒しきれなかったぜ! っていうか、回復力(復元魔法?)で復活され、その後に圧倒されたぜ!
「ああ。真勇者って呼ばれてるな」
「真勇者には、あらゆる王の資質がある。その中の一つが、竜族の王……神龍王だ。神龍王は、魔王と双璧を成す、世界と世界の壁。あらゆる攻撃を受け止め、あらゆる力で世界を滅ぼすことだって容易い」
「なるほどな……」
俺はうんうんと納得しそうになるが、何かが引っかかる。
そう、それは……モモやインドラの記憶が『見えない』ことだ。異世界での交流がなかったのか、それとも……。
「そうか……」
え? インドラって…使うような人だっけ!? いやいや、こいつは物事に対して絶対躊躇しないタイプの奴だ。話すのが嫌なのか?
「ああ、悪い。言いたくなければ、いいんだけど……」
そうだ、後悔しないって決めたじゃんか。俺は、気楽に真勇者としてその使命を全うすればいいんだ。
俺がそんなことを考えていると、「ゾッ」という恐ろしい感覚が俺を襲った。
「気楽に全う……だと? ふざけるな!! 貴様の生命がこれからいくつの命を救えるんだ! これからどれだけの命を奪うんだ!! 貴様には、自覚と自律が足りていないんだ!!!」
恐怖。
それだけが今の俺を襲う。
何かを思うインドラの怒声が、先ほどの戦闘ではビクともしなかった神殿を壊していく。
「貴様、本当に真勇者なのか!? 夢見の能力を持っているんだろう!? ならば、その全ての記憶をたどれ! 貴様がなぜ強くなったのか、見てみろ!!!!」
インドラはそう言って、魔法陣を展開した。
「転移〈ムゲンの部屋〉」
俺は魔法陣に吸い込まれるようにして、何処かへと転移した。
◇◆◇◆◇
……ここは、何処だ。
暑くもなければ、寒くもない。かといって適温か、と問われると、それは何となく違う気がする。
真っ黒でも、なにか色が混ざったような混沌でもない。
むしろ、あたり一面は白一色だ。息苦しささえ感じる、そんな場所。
ここは、何処だ。
もう一度誰かに問いてみても、俺しかいないこの部屋で答えなんて返ってくるわけもなく。
むしろ、返ってきたら脱糞モノの恐怖映像だ。脱糞大名(某江戸大名)にはさすがになりたくない。
なんて話は置いといて。
記憶がぬけているってわけじゃないし、むしろ、現在の状況は十分すぎるほどわかっている。
……動くか。俺は---
---俺はこうして、数年にも及ぶ記憶の追従の旅をはじめた。




