第8話『神様』
さて、本気を出そうかな? と考えていると、熊の姿をした森野 熊雄(今さっき命名)に、腹フックをお見舞いされる。
「ぐっ……」
俺は少し後ずさるが、姿勢をそのまま保って森野氏に対峙する。
かなり重い拳だが、仕方ない。
俺は人間になる際にかかる能力低下を姿はそのままに、無理矢理魔王時と同程度に引き上げる。
「ほう……貴様、人間ではないな」
「お前が言うか」
「……確かにな」
熊野氏は俺の反論に短く返し、俺に殴……らずに、下からの蹴り上げ!?
俺は慌てて蹴りに対して足を出して防ぐ……が、スネに当たる。弁慶の泣き所とは、打ち所悪いな…….。
「貴様、その程度か?」
「クッソ……」
「滅魔法『槍剣降臨・八岐天舞』」
熊野氏は滅魔法の球体を創り出すと、それは分散し、火山弾の様に降りそそぐ。
「なるほど、八岐大蛇……か」
俺は須佐之男障壁という、障壁魔法の頂点に君臨する魔法を発動して森野氏の攻撃を防ぐ。
「ぐっ!? 体が! 熱い! 焼ける!」
須佐男障壁は熊野氏の滅魔法を取り込み、森野氏にカウンター攻撃を仕掛ける。
「今だ!」
俺は、怯んだ熊野氏に躊躇なくストレートを決める。
「ぐふっ……貴様、その障壁は……」
「ん? 須佐男障壁のことか?」
俺が熊野氏に聞き返すと、その瞬間、世界が真っ白に染まる。
「な、何が起こってるんだ!?」
俺の目の前には、2人の剣士が、俺と森野氏に向けて剣を構える。
「処、厄龍の血を持ちし神、正神の障壁とぶつかりし時、陽神、月神、目覚めん」
「我々は、この時をお待ちしておりました。我が名は陽の神、アマテラス。こちらは、月の神ツクヨミ」
「……どうも」
「とりあえず、説明をしましょう」
アマテラスはそう言うと、手を空に掲げ……グッと握り締める。
すると、魔王に戻った俺と、変化が解けた森野氏は遥かな宇宙に転移し、ツクヨミとアマテラスが俺に追いつき、おもむろにその小さな、それでいてぷっくりとしたセクシーな唇を動かし始める。
不思議と呼吸ができるのは、この宇宙が幻影なのか、それとも、そもそもそう言う物なのか……。
◇◆◇◆◇
「まず、真魔王……いえ、ララ。あなたの転生前に住んでいた土地では、和神と呼ばれる神がいましたね?」
「ああ、そうだが……」
「和神と、ギリシャ神、そして北欧神は、この惑星……ネオスに居た、古代人達とその子孫のことです。古代人や魂の輪廻のサイクルなどを創り出した、その3人の神の内の1人、イザナギは創り出した、当時の古代人と嫁を置いて、地球へと飛び立ちました」
ああ、なるほど。残された嫁が、イザナミ……詰まる所、この星は黄泉の国として扱われているのか。
「理解が早くて助かります。そして、貴方にはほとんど継承されていませんが、あなた……いえ、魔王とはイザナミ本体です」
「イザナミが……魔王?」
話を聞く限り、俺がイザナギなら須佐男障壁は使えないと思うんだが…….おおかた、須佐男障壁は元々イザナミの魔法だー、とか、そんな所だろうか。
「そう。そして、勇者はイザナギの血を引いています」
なるほど、勇者召喚や勇者転生は、イザナギの黄泉訪問みたいな物か。
「もう、理解はできた様ですね。イザナミは常にイザナギに寄り添う運命……それを忘れてはいけません。そして、八岐大蛇の力を持ちし貴方、いつまで姿を隠しているつもりです?」
「あはは、ごめんごめん」
若干イラついた様子のアマテラスの声に、森野氏は参った、といった様子で両手を上げ、降参のポーズを取る。
ていうか、この喋り方、まさか……まさか『熊雄』ではなく『熊子』だと言うのか!?
「私は、厄災の覚醒者、ヤロマオ・チタノ。ま、ヤマタノオロチって言った方がわかりやすいし、オロチって呼んでよ」
「……クソオロチ」
「なんか恨みもたれてる!?」
「ツクヨミは、まああんまりいい思い出はないよね。仕方ないよ、オロチだし」
「仕方ないって何が!?」
オロチがどっかの下級神のような怒涛のツッコミを決めるが、今はどうだっていい。
「よろしくな、アマテラス、ツクヨミ、オロチ」
「ええ、よろしくお願いします、イザナミ様」
「んー、なんか変だけど、ま、いっか! よろしくな、イザナミ様」
「……イザナミ様に、忠誠を」
……ってかさ、今更だけどヨミとアマテラスは何がしたいんだ? オロチは悪たちを纏めてただけみたいだが……。
「なあ、今更だけど、お前らの目的って何なんだ?」
「ああ、そこも説明しなければいけませんね。私たちの目的……というより使命は、この惑星を存続させることです。星々は、極めて一定の周期で魂の輪廻を行い、千年ごとに輪廻しきれない魂が必ずとある星ともう一方のとある星で衝突を起こします。これを『魂輪の破定』といい、魂輪の破定の影響を最小限に食い止める、これが私たちに課された使命であり、生きる理由です」
「なるほどねぇ……」
魂輪の破定をなくすっていうのは、宇宙の魂の保管容量的な問題のせいでできないんだろう。魂の輪廻を変えるなんてことも、不可能だ。
「……イザナミ様、何か我々にお手伝いできることは……」
俺が解決策を考えてうんうん唸っていると、ツクヨミが唐突に言う。
「……あ、じゃあ魂輪の破定関係ないんだけど、一つお願いしていい?」
「何なりと」
俺が答えると、ツクヨミとアマテラスは幻影の中で膝をつく。ちなみにオロチは立ったままだ。
俺の「お願い」に、2人は顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべて「喜んで」と答えた。
「じゃあさ………この国で内乱を起こしてよ」
◇◆◇◆◇
俺が内乱を起こせ、と頼んだのには訳がある。
今、アシュラ帝国は魔界国に向けて進軍中……ましてや、魔王に勇者も倒され、他国の援軍も加えた魔王討伐を目指すパーティだ。
だから、城の警備が少しでも手薄だと思われる今内乱を起こせば、アシュラ帝国は大混乱に陥る。
本当なら、いくつかの悪党やたくさんのチンピラを使おうかと考えてたんだが、ツクヨミやアマテラスなど、神様からのお告げとなればたくさんの人間が動く。
ジャンヌダルクを上手く利用した、帝国を墜とす戦法だ。
まあ、ダメっぽかったら俺が1人で叩き潰しておしまいだが、それでは血の気の溢れんばかりの現魔王国民の半分は納得してくれないだろう。
他国からアシュラ帝国をカバーする形で軍が入るだろうが、そこには竜を何体か配置する。
あれ? 強くね? しかも、内乱を起こすのも俺の味方なわけだから、事後処理にもあまり困ることはないだろう。
これ、戦術王に、俺はなる! ってできそうなくらいじゃね? うん、落ち着け、俺。
「じゃあ、とりあえず帰るから、3人は終わったらでも魔王城を訪ねてくれ」
「「ハッ!」」
俺は、アシュラ帝国を後にした。




